第58話 潜伏する教団幹部
第四区では、《フロンティア》とアウトライダースの戦いが始まる。
一方、第三区で教団の手掛かりを探すヨウたちは、
一軒の店で奇妙な黒い炎を見つける。
ヨウの眼が視た、その正体は――。
俺が視た情報。
それは――。
――影狐の焔
影を燃やす特殊な炎。
燃えた影の対象は、
本体にも燃焼が及ぶ。
影狐が卵を保護する際に吐き出す炎。
3日間この炎で保護されることで、
影狐の卵は孵化する。
アイテムとして利用するか。
それとも、以前入手した影狐の卵へ使うか。
答えは決まっている。
影狐。
あれからだいぶ日が経つが効果はあるのか。
もし孵化させることができたら新たな戦力になることは間違いない。
(……落ち着け)
高ぶる興奮を抑え尋ねる。
「いくらだ?」
「本来なら金貨3枚と銀貨50枚だが……
特別に金貨3枚でいいぜ」
店主は薄ら笑いを浮かべる。
「おい、いくらなんでも高すぎだろ」
レインがすぐに突っ込んだ。
俺はまだ、この世界の貨幣価値を完全には理解していない。
だが、“金貨”という響きだけで高額なのはわかる。
(あとでレインに聞くか)
「おいおい。
ここまで来て買わねぇとか言わねぇよな?」
「いくらなんでも――」
レインの言葉を遮り、俺は答えた。
「わかった。
それでいい」
ポーチから金を取り出す。
ロスを助けた際、
賊の洞窟からかなりの金品を回収していた。
「これでいいか?」
「おぉ!
兄ちゃん気前いいじゃねぇか!」
店主は嬉しそうに笑う。
「そっちの難癖付ける兄ちゃんとは大違いだな!」
「くっ……」
何か言いたげなレインを、
俺は軽く制した。
「それじゃあ、もらっていく」
そう言って店を後にする。
「まいどあり~!
また来いよ兄ちゃん!」
背後から店主の声が飛んできた。
「おいヨウ。
お前、貨幣価値わかってないだろ」
外へ出た瞬間、レインが呆れたように言った。
「まぁ。
ここへ来てから、あまり意識することもなかったしな」
「私もあんまり知らない」
セラは奴隷商へ捕らえられてから、
普通の生活とは無縁だった。
貨幣価値を知らないのも無理はない。
「お前らなぁ……」
レインは頭を抱えた。
「国にもよるが、
普通、金貨1枚あれば宿で1カ月は暮らせるぞ?」
「たった1枚でか……」
「すごーい!
めっちゃ贅沢できるじゃん!」
セラは素直に目を輝かせている。
だが、俺は少し考えてから口を開いた。
「……いや。
さっきのは、それ以上の価値があるかもしれない」
「どういうことだ?」
「あの黒い炎。
以前俺が買った卵がある」
「卵?」
「あぁ、この第三区を散策していたときだ。
とある店で"影狐"と呼ばれるモンスターの卵を手に入れたんだ」
「おい、ヨウ!それは本当に影狐なのか?」
レインの反応を見る限り、何か知っているようだった。
「"えいこ"ってなに~?」
「レインは知ってるのか?」
「あぁ。”カゲギツネ”と呼ぶこともあるが、滅多に見ることがない、珍しい狐だ」
「狐さんなんだね!」
「そうだ。詳しくは知らないが、特殊な力が使えるらしい」
「なるほど……
俺の眼で卵を確認した限り嘘ではないと思う」
「確かにヨウの眼で視たんなら確実だろうな。
楽しみだよ」
「蛇の次は狐さんか~」
セラはワクワクしているし、レインは楽しそうにしている。
「まぁ、この話は今回の件が終わったらまたゆっくりとだな」
「うん、まずは教団だな」
自分から振っておいてなんだが、今はそれどころではない。
まずは教団関連施設を探すのが先だ。
それから俺たちは、
教団の紋章を探しながら裏通りを進んでいく。
「ねぇねぇ、あれじゃない?」
セラが指差した先。
そこには、
教団の紋章らしきものが書かれた紙が店内に貼ってあるのが見えた。
「時間も無駄にできないしな……
多少強引でもいいんじゃないか?」
レインが低い声で言う。
俺も同意だった。
周囲にバレなければ問題ない。
「わかった。
まずは客を装って入ろう。
接近したら制圧する」
2人も頷く。
ギィ――。
扉を開ける音が響く。
店内に客はいない。
奥には、
作業をしている中年の男が1人だけいた。
「いらっしゃい」
男はそれだけ言うと、
再び作業へ戻る。
次の瞬間、
俺は一気に間合いを詰めた。
男を床へ押し倒し、
顔の横へ剣を突き立てる。
「ヒィッ!?
な、なんなんだよ!」
「アナスタシ教団について知ってるな?」
俺は紋章へ視線を向けながら聞いた。
「だ、だったらなんだってんだ!
俺は教団員じゃねぇ!」
「教団が集まっている場所。
教団幹部の居場所を吐け」
「いきなり何なんだよ……!」
「吐かなければ、
五体満足で済むとは思うなよ?」
そう言いながら、
剣をわずかに腕へ食い込ませる。
「わ、わかった!
言う! 言うからやめてくれ!」
男はすぐに情報を吐いた。
「あとで解放してやる。
それまで大人しくしてろ」
その場にあったロープと布で男を拘束し、
声も出せないようにしておく。
「……早かったな。
ずいぶん慣れてるように見えたぞ」
レインは苦笑していた。
「でも凄かったよ。
あの人、反撃する暇もなかったね」
セラはどこか感心しながらも笑っていた。
俺たちは同じ手口で何件か店を襲撃し、
聞き出した情報を元にさらに奥へ進んでいった。
素直に吐かない連中には、
隷従契約を使って情報を引きずり出す。
そして――。
ついに、教団幹部が潜伏している建物を突き止めた。
「行くぞ」
俺がそう言って踏み出そうとした、その時だった。
「ヨウ様。
幹部の居場所を見つけました」
いつの間にか、
サマエルが足元へ戻ってきていた。
「ここだろ?
俺たちも見つけたぞ」
「いえ。
幹部は2人いました」
「……なんだと?」
「ここに幹部と配下の教団員が集まっているのは事実です。
ですが、もう1人別の場所へ潜伏しています」
ロスほどの情報網ですら掴めなかった存在。
それほど巧妙に隠れていたということか。
(想像以上に厄介だな……)
「わかった。
まずはここを落とす」
「サマエル、お前も協力してくれ」
「かしこまりました」
そして俺たちは、静かに建物へ足を踏み入れた。
――俺たちが建物へ入る頃、
第四区でも戦況が大きく動き始めていた。
ついに突き止めた教団幹部の潜伏先。
しかし、サマエルが掴んだ情報によって、
ロスすら把握していなかったもう1人の幹部の存在が明らかに――。
そしてその頃、第四区でも戦況が動き始めます。




