第53話 模擬戦―レインとヴィヴィアン
セラとジャスティンの模擬戦、決着しました。
レインはどんな戦いをするのでしょうか。
セラとジャスティンの模擬戦は、セラの勝利で幕を閉じた。
「それにしても……あの子、セラって言ったっけ?
《フロンティア》のジャスティンを倒すなんてね」
ロッゾが感心したように呟く。
「かなり強かったですわね」
アリも素直に頷いていた。
だが、その視線はセラではなく、ヨウへ向けられている。
(まぁ、私はあの子より――ヨウ。
あなたの戦いを早く見てみたいわ)
アリは小さく口元を緩めた。
「そうね。
父上がお認めになっただけはあるわね」
ミラが静かに言う。
先程の戦いを見て、ヘルディ家の人間たちも、ヨウたちへの評価を改めつつあった。
その時だった。
「ヴィヴィアンさん、俺とやりましょうよ」
レインが一歩前へ出る。
「同じ弓使い同士、一度ちゃんと戦ってみたかったんですよ」
「ふふっ。
レイン君から指名をもらえるなんてね」
ヴィヴィアンも笑みを浮かべた。
「いいよ。
相手になってあげる」
元々、同じギルドで活動していた2人だ。
互いの実力は知っている。
――少なくとも、以前までは。
「あいつらの戦いを見られるなんて、期待しちまうな」
フォードが笑う。
「……」
隣のマーカスは無言だった。
「お前もそうだろ?
マーカス」
「あぁ」
短く答える。
「レインは、どこのパーティに入っても通用する実力だった」
「そうだな、実は勧誘したんだが、縛られたくないって理由で断られちまったよ」
(俺も断られたがな)
マーカスは小さく息を吐く。
「自由を好む奴だったからな」
「がはは!
でもヴィヴィアンも相当強ぇぞ!」
フォードが2人へ声を飛ばす。
「いい戦い、期待してるぜ!」
「レインは強いぞ。
気を抜くなよ、ヴィヴィアン」
エリックも真剣な顔で送り出した。
「もちろん。
でも、私の方が上だって証明してあげる」
ヴィヴィアンは笑みを浮かべながら前へ出る。
「知り合いだったのか?」
俺が聞くと、レインは肩をすくめた。
「そりゃあね。
元々パイオニアにいたし、《フロンティア》から勧誘されたこともある」
「マーカスさんやフォードさんとも顔見知りだよ。
一緒に依頼を受けたこともあるしね」
「なるほどな」
つまり、レインは以前から評価されていたということだ。
「あの女も相当強い。
油断するなよ」
俺が言うと、レインは笑った。
「わかってるって。
でも、セラにあんな凄い戦い見せられたらさ――」
レインは弓を握り直す。
「こっちも気合入るってもんだろ?」
そう言って、戦場へ向かった。
レインとヴィヴィアン。
2人が向かい合う。
互いに弓を構え、視線をぶつけ合った。
戦う前から、空気が張り詰める。
(レイン君の力……。
正直、まだ底が見えないんだよね)
ヴィヴィアンは静かに警戒していた。
(でも、まずは様子見かな)
一方、レインもまた、真剣な目でヴィヴィアンを見据えていた。
(ヴィヴィアンさん。
あなたの強さは昔から知ってる)
(だからこそ、本気で行かせてもらいますよ)
「では、始めてください」
ロスの掛け声と同時に、2人が動いた。
先に仕掛けたのはレイン。
5本の魔力矢を同時生成し、ヴィヴィアンへ放つ。
シュンッ!!
「っ――!」
ヴィヴィアンの目が細まる。
(5本……!?)
だが、彼女も即座に対応する。
5本の矢を同時展開。
正確無比な射撃で、レインの矢を全て撃ち落とした。
パパパァン!!
「レイン君。
5本同時なんて、実力隠してたのかな?」
ヴィヴィアンが笑う。
「どうですかね〜」
レインも軽く笑い返す。
「でもヴィヴィアンさんも、5本が限界ってわけじゃないですよね?」
「ふふっ、もちろん」
ヴィヴィアンは6本の矢を構えた。
さらにそこへ雷魔法を付与していく。
バチバチと雷光が走った。
(相変わらず器用ですね)
レインは感心する。
複数矢への同時属性付与。
簡単にできる芸当ではない。
だが――。
(クラリーテさんに鍛えてもらったのは、セラだけじゃない。
それに、ヴァーノさんからも色々教えてもらった!)
レインも6本の矢を生成する。
魔力制御。
圧縮。
同時展開。
以前の自分とは違う。
「はっ!」
ヴィヴィアンが放った雷矢が空を裂く。
レインはさらに魔力を流し込んだ。
魔力矢そのものを肥大化させる。
「――っ!」
ドドドドッ!!
放たれた巨大矢が、雷矢を正面から撃ち落とした。
「うそっ!?」
ヴィヴィアンが目を見開く。
魔力矢の変形。
それは大量の魔力だけでなく、極めて繊細な制御技術が必要になる。
しかも、戦闘中に。
(レイン君……。
そこまで魔力制御が上がってるの?)
その才能は、エルフの血による素質も大きかった。
「どうしました?」
レインが笑う。
「ヴィヴィアンさん」
決して油断はしていない。
その上で、軽く煽ってくる。
「ほんっと、可愛くないな〜」
ヴィヴィアンも苦笑した。
「それなら……!」
――雷撃
雷撃が一直線に走る。
「次は魔法ですか」
――氷結
レインも即座に氷魔法で迎え撃つ。
轟音。
爆発。
そこからは、完全な撃ち合いになった。
矢。
魔法。
矢。
魔法。
互いに遠距離戦を得意とする者同士。
決定打が生まれない。
だが、その分だけ魔力は削られていく。
「はぁ……はぁ……」
先に疲労が見え始めたのはヴィヴィアンだった。
一方で、レインはまだ動けそうだった。
(まずいな……。
このままじゃ押し切られるかもしれない)
ヴィヴィアンは直感していた。
(そろそろ決めないと、俺も危ないか)
レインの空気が変わる。
――激流断砕
轟音と共に激流が放たれた。
「くっ……!
まだそんな魔法を……」
ヴィヴィアンの意識がそちらへ向く。
その瞬間。
レインは弓を引いた。
(特訓では最大8本……)
矢が生成される。
1本。
2本。
3本。
さらに増えていく。
4、5、6……。
空気が変わる。
7、8……。
ヴィヴィアンの目が見開かれる。
(まさか……!)
だが、止まらない。
レインはさらに魔力を絞り出した。
(振り絞れ……!)
空間が震える。
魔力密度が急激に上昇していく。
「おい……マーカス」
フォードの声が低くなる。
「あぁ……」
普段冷静なマーカスですら、目を細めていた。
「嘘だろ……」
エリックも息を呑む。
そして――。
9本目。
最後の一本が、生成された。
「……っ!」
ヴィヴィアンが絶句する。
弓使いにとって、同時生成数は実力の証。
10本同時生成。
それは“達人”の領域。
レインは、その一歩手前へ辿り着いていた。
だが。
(まだだ……!)
レインは欲張った。
さらに変形。
さらに属性付与。
限界を超えようとした。
次の瞬間。
ドガァン!!
暴発。
魔力矢が手元で爆発した。
「ぐっ!?」
吹き飛ばされるレイン。
「レイン!」
思わず俺は叫んでいた。
「っ!」
セラも口元を押さえる。
駆け出そうとした瞬間――。
「っはは……」
レインが自力で立ち上がった。
「いや〜……。
無茶しちゃったなぁ」
苦笑する。
「ごめん、ヨウ。
これ以上は無理っぽい」
俺はレインの元へ歩み寄る。
「そうだな。
だが、十分だ」
そう。
その場にいた全員が理解していた。
レインは、本物だ。
「レイン、大丈夫!?」
セラも駆け寄る。
「大丈夫だよ。
ただ、負けちまったな……」
「ううん!」
セラは強く首を振った。
「みんな驚いてたし、あの攻撃が完成してたら絶対勝ってたよ!」
「ありがとな」
レインは笑う。
だが、その心の奥には悔しさが滲んでいた。
(くそ……。
9本目まで届いたのに……
欲張ったか……)
「次はヨウだな。
頼むぜ」
「あぁ。セラ、レインを頼む」
「うん!」
――光の雫
柔らかな光が降り注ぎ、レインの傷を癒していく。
「やっぱりセラは頼りになるな〜」
レインは笑う。
試合には負けた。
だが、勝負には勝ったと言えるだろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はレインとヴィヴィアンの模擬戦でした。
レインはついに9本同時生成へ到達したけど勝つことはできませんでした。
欲張っちゃいました。
いずれ限界を超えることができるのかも楽しみです。
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