第52話 模擬線―セラとジャスティン
今回は評議塔で行われる模擬戦、第1試合。
セラが戦います。
これまで控えめだったセラが、その実力を初めて多くの人の前で見せる一戦です。
普段より少し早めの公開にしました。
セラとジャスティンが向かい合う。
「レディファーストだ。
セラちゃんからどうぞ」
ジャスティンは余裕たっぷりに笑い、先手を譲った。
「ふ〜ん」
セラは一歩前へ出る。
そして、静かに魔力を解放した。
――聖域
瞬間、白い光が床を走った。
セラを中心に、神聖な光が広がっていく。
空気そのものが変わる。
張り詰めていた空間が、神聖な領域へと塗り替えられていった。
アンデッドや魔に対して絶大な効果を発揮する聖魔法。
だが、この魔法の本質はそれだけではない。
聖属性魔法そのものを強化する領域展開。
そして――セラが扱うことで、その真価を発揮する。
「おいおい……マジかよ。
聖魔法か?」
ジャスティンが思わず表情を変える。
後方では、エリックとヴィヴィアンも驚いていた。
「あの子……。
聖魔法の使い手なの?」
「あぁ……。
しかも、かなり高位だ」
エリックが真剣な目でセラを見る。
だが、感心している暇はなかった。
セラが静かに右手を掲げる。
――断罪執行
無数の白い光点が空中へ生成された。
一つ一つが高密度の魔力を宿している。
「あれは――」
マーカスがわずかに目を細める。
「当たれば危険だな」
次の瞬間。
セラが手を振り下ろした。
シュンッ!!
白光が一斉に降り注ぐ。
「っ!?」
ジャスティンは即座に後方へ跳ぶ。
ドゴォン!!
床が抉れ、爆音が響いた。
さらに二発、三発と光弾が追撃する。
ズガァン!!
「おいおい、容赦ないな!」
ジャスティンは冷や汗を流しながら回避していく。
だが、表情にはまだ余裕があった。
「でも、凄い魔法持ってるじゃん!
俺も行くぞ!」
――火炎
巨大な炎塊がセラへ放たれる。
だが、セラも即座に魔法を展開した。
――光粒
無数の光粒が炎へ衝突する。
ドガァン!!
両者の魔法がぶつかり、爆炎が巻き起こった。
「相殺されたか……」
ジャスティンが目を細める。
その直後。
セラは間髪入れずに追撃した。
――光線
一直線に収束した光が、空気を裂いて放たれる。
「うおっ!?」
ジャスティンは咄嗟に魔法を展開。
――火
炎をぶつけ、強引に軌道を逸らした。
爆煙が広がる。
「あいつ、実力は本物みたいだな」
レインが感心したように呟く。
「軽そうな奴だったけど、腐っても《フロンティア》の主力ってところか」
俺も頷いた。
魔力制御も反応速度も高い。
伊達にトップ層ではない。
だが――。
(押してるのはセラだな)
ジャスティン本人も、それを理解していた。
「軽く手合わせのつもりだったんだけどな……」
ジャスティンの空気が変わる。
周囲の熱量が一気に上昇した。
「そろそろ本気で行くよ」
膨大な炎魔力が収束していく。
――爆炎連焼
巨大な爆炎が出現した。
先程の火炎魔法とは比較にならない。
うねる炎が空気を歪ませ、熱風が観客席まで押し寄せる。
「セラ!」
レインが思わず叫ぶ。
だが、セラは動じなかった。
(大丈夫。
クラリーテお姉ちゃんに、いっぱい教えてもらったから)
静かに魔力を集中させる。
――断罪執行
再び光球が生成される。
だが、先程とは密度が違った。
「また同じ魔法か――」
ジャスティンが言いかけて、表情を変える。
「いや……違う。
魔力量が跳ね上がってる!」
セラは最初から本気ではなかった。
初手の《ジャッジメント》は、明らかに抑えていたのだ。
次の瞬間。
白光と爆炎が正面から激突した。
ドォォォンッ!!!
凄まじい爆発が起きる。
衝撃波が部屋全体を揺らした。
煙が広がる。
やがて視界が晴れると――。
両者とも立っていた。
「ちょっと……。
あの子、本当に何者なの?」
ヴィヴィアンが目を見開く。
「ジャスティンは《フロンティア》でもトップクラスなのに……」
エリックも真剣な顔になる。
ジャスティンは苦笑した。
「セラちゃん、かなりやるじゃないか。
誤解してたよ」
その表情から軽さが消えている。
「でも――次で決めさせてもらう」
「この人、強いじゃん……」
セラも小さく息を吐いた。
「魔力切れしてたら、危なかったかも……」
そして。
ジャスティンが膨大な魔力を解放する。
部屋全体の温度がさらに上昇した。
炎。
暴風。
二つの属性が混ざり合う。
「行くよ、セラちゃん」
――爆炎連焼嵐
炎の嵐が生まれた。
暴風を伴った爆炎が渦を巻き、模擬戦場を飲み込もうとする。
「やめろ、ジャスティン!
それはやりすぎだ!」
エリックが叫ぶ。
だが、もう遅い。
「……っ」
ヴィヴィアンも顔をしかめた。
フロンティア側は、ほぼ勝負が決まったと思っていた。
しかし――。
セラは静かに右手を掲げる。
――光鏡反射
無数の光の鏡が空中へ展開された。
「なっ――」
次の瞬間。
爆炎嵐が鏡へ衝突する。
そして。
ガガガガガッ!!
炎の奔流が次々と反射した。
軌道を変えられた《ブレイズストーム》が、今度はジャスティン自身へ襲い掛かる。
「「!?」」
フロンティア全員が目を見開いた。
「お、おい……!
ジャスティンさんの魔法が……!」
「嘘だろ……!?」
「反射したのか!?」
何より驚いていたのは、ジャスティン本人だった。
完全に想定外。
反応が遅れる。
「しまっ――」
直後。
ドゴォォォォン!!!
自らの魔法が直撃した。
爆炎がジャスティンを飲み込む。
「うわぁぁぁぁっ!!」
吹き飛ばされ、床を転がる。
静寂。
誰もすぐに言葉を発せなかった。
セラはクラリーテとの特訓を経て、既に高位魔術師クラスへ足を踏み入れている。
そんな相手を、ジャスティンは甘く見ていた。
その時点で勝負は決まっていたのだ。
「そこまで!」
ロスの声が響く。
エリックとヴィヴィアンが慌てて駆け寄った。
「ジャスティン!」
「大丈夫!?」
「うっ……」
ジャスティンは苦しそうに笑う。
「まさか……。
そっくり返されるなんてな……」
「喋るな!」
エリックが支える。
その時だった。
セラが静かに歩み寄る。
――光の雫
柔らかな光が降り注いだ。
ジャスティンの火傷が、みるみる治っていく。
「「!」」
フロンティア側が再び驚愕する。
ジャスティンも目を見開いた。
「セラちゃん……。
どうして……?」
「ん〜。
別に敵じゃないし」
セラは当然のように答えた。
それだけ言うと、俺たちの元へ戻ってくる。
「ありがとう、セラちゃん!」
ヴィヴィアンが思わず叫ぶ。
「わざわざ回復するなんて、優しいところあるじゃん」
レインが笑う。
「セラがいいなら、それでいい。
それにしても段違いに強くなったな」
俺がそう言うと、セラは嬉しそうに頷いた。
「もうセラに勝てる魔法使い、そうそういないんじゃないか?」
冗談交じりにレインはセラへ言葉をかける。
こうして――
セラとジャスティンの模擬戦は幕を閉じた。
(模擬戦にしては、だいぶ派手だったな……)
苦笑しながらも、俺は内心で納得していた。
セラは、間違いなく強くなっている。
そして今の戦いで、それを全員へ証明したのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回はセラの成長をしっかり描くことを意識しました。
以前のセラなら押し切られていた相手にも、冷静な判断と確かな実力で勝利。
ジャスティンも決して弱い相手ではないんですけど、
ここはセラの実力証明の場でした。
そして戦いの後、迷わず回復魔法をかけるセラらしさも。
次回もよろしくお願いします。




