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収奪の復讐者 ~奪われた全てを取り戻す悪魔の眼~  作者: 冬野 ヨル


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第39話 セラの過去

セラの過去に触れる回です。

なぜ彼女は帝国を憎むことになったのか。

今回は、セラの過去をお届けします。

当時、私は10歳。

家の中で、本を読んでいたときだった。


「セラ!

 こっちへおいで」

名前を呼ばれて顔を上げる。

声の方を見ると、お父さんが立っていた。

その横には、椅子に座り、優しく微笑んでいるお母さんの姿。


「はーい!」

私は笑顔で、両親のもとへ駆け寄った。

けれど――

顔を見合わせた2人の表情が、少し変わっていた。

お父さんは真剣な顔。

お母さんは、どこか心配そうな顔をしている。

「セラ、よく聞くんだ」

「なに~?」

「お前はな……選ばれた子なんだ」

「選ばれた子?」

「そうだ。この村には、数百年に一度だけ――

 光の祝福を授けられて生まれてくる者がいる」

「祝福……?」

お父さんは、ゆっくりと頷いた。


「昔、この世界は争いと混沌に満ちていた。

 そのとき、天使が降臨されたと言われている。

 ここから見える、アマツカ山にだ」

私は窓の向こうの山を思い浮かべる。

「その天使は、山を震わせるほどの力を持っていた。

 そして世界を鎮めるために、アマツカ山を噴火させた」

「噴火……?」

「その炎は各地に被害を出した。

 だが、そのおかげで争いは止まり、人々は復興へ向かった」

お父さんは静かに続けた。

「それでも人は、また争う。

 だから天使は――

 再び世界が混乱しそうになったとき、

 選ばれた子に光の祝福を与えると言われている」

そして、私の頭に手を置いた。

「それが……セラ。お前だ」

私は首をかしげる。

「難しい話だね」

お父さんは、ふっと笑った。

「今は分からなくていい。

 ただ、頭の片隅に覚えておいてくれ。

 時期が来たら、また話そう」

すると今度は、お母さんが口を開いた。

「私たちはセラを愛してるわ」

優しい声だった。

「でも、この村に生まれた以上……

 誰でも、そうなる可能性があるの」

「そのときが来たら、ちゃんと話すわ」

お母さんは微笑んだ。

「それまでは――

 今まで通り、一緒に過ごしましょうね」

その声は、どこか悲しそうだった。

それでも、お母さんは笑っていた。


お父さんも、お母さんも。

ずっと私に愛情を注いでくれていた。


――あの日が来るまでは。


それから―4年ほどが過ぎた。


夜。

私はベッドで眠っていた。


――バタンッ!!


突然、扉が勢いよく開く。

「セラ、起きるんだ!」

お父さんの声だった。

「お父さん……?」

私は眠い目をこすりながら体を起こす。

「そんなに慌ててどうしたの?」

お父さんは、息を切らしながら言った。

「村が襲われる」

「……え?」

「帝国だ。

 おそらく目的は――セラ、お前だ」

頭が追いつかなかった。

「帝国が、お前を奪うために攻めてきた」

「お前は今すぐ、この村を出て――

 オリントス国まで逃げるんだ」

「オリントス国……?」

「ここから南にある国だ。

 帝国の連中も、そこまでは簡単に追ってこられない」

お父さんは強く言った。

「俺たちは戦う。

 セラを守るために」

「この村の者は全員、同じ覚悟だ」

「世界の希望となるお前だけは――

 何があっても守らなきゃならない」

私は震えながら聞いた。

「……お父さんとお母さんは?」

お父さんは、少しだけ目を伏せた。


「俺たちは残る。

 外へ出る道は用意してある。

 そこまでは一緒に行く。

 その先は、案内の者と一緒に行くんだ」

「……嫌だよ」

涙がこぼれた。

「友達はどうするの?

 お父さんとお母さんは?

 一緒じゃなきゃ……やだ!」

泣きながら訴える。

けれど、2人の決意は揺らがなかった。

お父さんが、静かに言う。

「ごめんな、セラ。

 俺たちだって……離れたくない。

 でも、この村の者は伝承を守らなきゃいけない。

 そして、それを後世に伝えるのも――

 お前しかいないんだ。

 友達のことも心配はいらないよ」

お母さんも、震える声で言った。

「セラ。私たちはあなたを愛してる」

涙で濡れた目。

それでも、お母さんは笑おうとしていた。

「どんなに辛くても……生きるのよ。

 きっと乗り越えられる。

 私たちの分まで、しっかり生きて」

「そんなの……」

私は泣きじゃくりながら駄々をこねる。

両親は顔を見合わせ、静かに頷いた。

「……ごめんな、セラ」

お父さんの声は、どこか震えていた。


次の瞬間、柔らかな光が私の体を包む。

眠りの魔法だった。

「お父さん……?

 お母さん……?」

ぼやけていく視界の中で、2人の顔が滲む。

「一緒にいてあげられないことを許してくれ」

「大変だけど……健やかに育ってね。

 私たちは、ずっとセラを愛してるわ」


伸ばした手は――届かなかった。

そのまま、私の意識は闇に沈む。


次に目を覚ましたとき、私は馬車の中にいた。

揺れる車体。

きしむ車輪の音。

薄暗い天井。


お父さんが言っていた――脱出を手伝ってくれる人。

きっと、その人なんだろう。

そう思おうとした。

けど…


両親のこと。

村のこと。

思い出すだけで、頭が壊れてしまいそうだった。

そして――

なぜか私は、手枷と足枷で拘束されていた。

この日を境に、私の中に少しずつ

黒い感情が芽生えていくことになる。


エリシアに到着して、ほどなくしてのこと。

私は知ることになる。

私を連れてきた男の、本当の目的を。

「この娘を売りたいんだが、いくらになる?」

「ほぉ……なんと綺麗な娘だ」

別の男の声がした。

「これは多少高くても、欲しがる者は多いだろう。

 これでどうかな?」

「もう少し足せないか?

 なかなか苦労して運んできたんだぜ」

「……まあ、お前さんとは長い付き合いだ」

少し間があって、男は言った。

「わかった。では、これでどうだ」

「話が分かるじゃないか」

軽く笑う声。

「どうも」

そうして、男は金を受け取ると、何事もなかったかのように去っていった。

私は理解した。

――助けられたわけじゃない。

私はメルの奴隷商人へと引き渡された。

そう。

あの男にとって私は

助けるべき少女ではなく――

金になる商品だった。

そのまま私は、メルへと運ばれてしまう。

奴隷として。


メルに着くころには、

私の心も少しだけ落ち着いていた。

その代わりに――

胸の奥には、別の感情が生まれていた。


帝国への憎しみ。

復讐心。

(このまま檻の中で生き続けるのか…

 それとも誰かに買われて、一生奴隷として生きるのか…)

両親が言っていた

「世界の希望」なんてものには、

到底なれそうにない。

そんなことを考えるたび、絶望しか見えなかった。


そんな私に、転機が訪れる。

ヨウたちとの出会いだった。

皮肉なことに、奴隷として売られた先で、私は初めて希望を見つけた。

ダークエルフに買われた私だったけど、そこでヨウたちと出会い、一緒に旅をすることになる。


それから今。

こうして私は村へ戻ってきた。

帝国兵を、自分の手で殺した。

復讐の第一歩が、ようやく始まった。


(色々あったけど……

 こうして帰ってきたよ。

 お父さん、お母さん。

 村のみんな。

 これからも――見守っていてね)




やがて、長い祈りを終えたセラが、ゆっくりと顔を上げる。


記憶の中の温もりも、笑い声も、もうここにはない。

あるのは、焼け跡と、失われた現実だけだ。


それでも――セラは前を向いた。

「ありがとう。もう大丈夫だよ。

 ……行こう!」

明るく振る舞おうとしているのは分かった。

だが、赤く腫れた目元も、わずかに歪んだ口元も、その無理を隠しきれてはいない。

それでも、ここでその覚悟を揺らすわけにはいかなかった。

「わかった。

 それじゃ、神殿に行こう」


俺たちは焼け跡に背を向け、次の場所へ向かって歩き出した。


今回はセラの過去の回想でした。

これまで断片的に語られていた故郷や帝国への憎しみ、

そして奴隷として売られるまでの経緯を描きました。

ヨウと同じく、セラもまた多くのものを奪われた存在です。

今回の帰郷は彼女にとって大きな意味を持つ出来事でした。

次回もよろしくお願いします。

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