第38話 帝国の大きさ
ロウも倒してゾフの元へ。
ゾフから聞かれされる内容とは。
俺が天幕へ戻るのと、ほぼ同じタイミングでレインたちも戻ってきた。
「お疲れさん。
ちょうど同じくらいだったみたいだな」
レインが軽く笑いながら声をかけてくる。
「そっちもお疲れ。
あとはゾフから色々聞き出すだけだ。
……セラも、覚悟はいいな?」
「うん。そのために、ここまで来たんだし」
セラは小さく頷いた。
その声は震えていなかった。
俺たちはそのまま天幕の中へ入る。
「ま、まじか……。
あんたら、外にいた奴らはどうしたんだ……?
それにロウ殿は……?」
天幕に入るなり、ゾフが恐る恐る尋ねてきた。
「俺たちで始末した。
ここには、もうお前しかいない」
そう告げると、ゾフの表情が見る間に固まる。
自分の手が剣で地面に縫い付けられていることよりも、今は外の状況のほうが気になって仕方ないらしい。
助けは来ない。
この拠点はもう潰れた。
その現実を突きつけられて、言葉を失ったのだろう。
俺はそんなゾフに向かって、念のため魔法をかけた。
――隷従契約
――回復
「うっ……」
奴隷契約をかけたうえで、傷を塞ぐ。
死なれては困るし、余計な抵抗や嘘も封じておきたかった。
剣を引き抜き、最低限の回復を終えたところで、セラが不思議そうに聞いてきた。
「何をしたの?」
「隷従契約だ。
奴隷契約を結ぶ魔法だよ。
セラにも前にかけられていた魔法だ」
「……でも、私、今自由に動けてるよ?」
「たぶん、俺たちと出会ったあの建物にいた連中の誰かだとは思うが、
奴隷商からセラを買った奴がいたはずだ。
そのときに解除されたんだと思う」
そこで、今度はサマエルが会話に加わった。
「その魔法は、主人となる相手の命令に逆らえなくなるものです。
意に反しようとしても、体が反応できなくなります。
基本的には専用の解除魔法か、専用のアイテムでも使わない限り解除されません」
淡々とした口調で説明を続ける。
「契約状態であれば、契約の印が体のどこかに現れているはずです。
不安であれば、確認するとよろしいかと」
「そうだったのか……。
セラ、体のどこかに印はあったか?」
「ううん。自分で見えるところには、なかったと思う」
「そうか……」
俺が少し考えていると、サマエルが補足するように言った。
「ヨウ様の眼で確認してみるのが確実かと。
その眼であれば、その程度は見抜けるはずです」
「なるほどな」
そう言われて改めて思い返す。
これまでセラの情報を何度か視たことはあるが、それらしいものは見えていなかった。
「だったら、解除されていると見て間違いないだろう」
「……よかった」
セラはほっとしたように胸を撫で下ろした。
その横で、レインが何も言わずにセラへ歩み寄り、ぽん、と頭を撫でる。
まるで父親みたいな仕草だった。
(いいお父さんだな)
そんなことを思いながらも、すぐに意識を切り替える。
(ここからが本題だ。
ゾフから情報を聞き出さないといけない)
俺はゾフの前に立った。
「おい。お前らはここで何をしていた?」
ゾフは苦しげに息を整えながら、口を開く。
「……俺は詳しいことまでは知らない。
ただ、陛下が“悪魔を倒すために力を手に入れる必要がある”と言っていた。
その力がここにあると聞かされていたんだ。
俺たちはそのために襲撃を行い、その後の調査のためにここへ駐屯している」
「お前は襲撃した連中の1人か?」
「ああ。俺も襲撃に加わった。
襲撃の後、隊長は帝国へ戻った。
それで、ここは臨時で俺が任されていた」
「隊長は誰だ?
アベルとかいう奴か?」
「いや。アベル様は隊長ではない。
アベル様の側近を務めている方だ」
「そいつの名前は?」
「アベル様の奥方――ルルワ様だ」
「そのルルワって奴と、アベルについて教えろ」
ゾフは唇を震わせながらも、答えを続けた。
「アベル様は陛下の側近で、帝国内でも屈指の実力者だ。
ルルワ様は、その奥方であり、アベル様を支えておられる。
2人とも実力は同等に近い。
しかも……冷徹で、恐ろしい方たちだ」
そこで、わずかに言葉を区切る。
「それと……ロウ殿をやったのなら、覚悟しておいたほうがいい。
ロウ殿もまた、アベル様の側近だ。
ここまでの事態になった以上、それ相応の対応をされるだろう」
ゾフは、アベルとルルワのこと、そしてロウとの関係まで素直に話してくれた。
(隷従契約、優秀すぎるだろ……)
さらにいくつか質問を重ねてみたが、それ以上に大きな情報はあまり持っていなかった。
分かったことは、主に3つ。
グラディウス帝国は、自国のためなら他国へも平然と介入する国であること。
ルミナリーヴィレッジの西側には神殿があり、帝国は特にそこを重点的に調べていたこと。
そして、帝国の構造について。
正直、これが一番厄介だった。
思っていた以上に、グラディウス帝国は巨大で、統制が取れている。
皇帝を頂点とし、その下に複数の騎士団と有力者が控えている。
ただ突っ込めばどうにかなるような相手じゃない。
ゾフから聞き出した帝国の構造は、おおよそこんなものだった。
――
皇帝:カイゼル・グラディウス
│ ├ 女皇:ヴィクトリアス・グラディウス
│ │ └ セシル・ベネディクト
│ │ └ 直属近衛騎士団
│ │
│ ├ アベル・サンダース
│ │ └ 王直属守護騎士団
│ │
│ └ カイン・サンダース
│ └ 王直属守護騎士団
│
├ 第1皇子:ユリウス・グラディウス
│ └ ロエン・ハートリー
│ └ 直属守護騎士団
│
├ 第1皇女:アリア・グラディウス
│ └ セシリア・ベネディクト
│ └ 直属近衛騎士団
│
└ 第2皇子:バルド・グラディウス
└ アルベル・ランバート
└ 直属守護騎士団
――
緻密な計画と、確実な段階を踏んだ接近。
それを考えなければ、この帝国への復讐は成立しない。
だが、その先のことは今考えても仕方ない。
まずは目の前の始末だ。
ゾフから聞き出せることは、もうほとんど残っていないだろう。
ここまで知った以上、生かしておく理由もない。
「これ以上は、価値のある話はなさそうだし……そろそろ行こうぜ」
レインが口を開いた。
「そうだな。気になってるところもあるし、ここを出るか」
用済みになったゾフは、きっちり処理した。
そして天幕を出たところで、俺は2人に聞く。
「気になってることはいろいろあるけど……神殿に行ってみないか?」
「そうだな。帝国が特に調べてたってことは、何かありそうだ」
レインも賛成する。
そのとき、セラが少しだけためらうように口を開いた。
「私も行きたい。
でも、その前に少しだけ寄り道していい?
……私の家があった場所に、行きたい」
セラの故郷だ。
その願いを断る理由なんてない。
「もちろんだ。行こう」
俺たちは、セラの家があったと思われる場所へ向かった。
だが、そこにあったのは、もう“家”とは呼べないものだった。
焼け落ちた柱。
崩れた壁。
灰と煤にまみれた残骸。
すでに燃え尽き、形を失っている。
それでもそこは、セラにとって家族と過ごした時間が詰まった場所だった。
セラは何も言わず、その場に膝をついた。
そっと目を閉じ、祈るように手を組む。
俺とレインも、言葉は交わさずに黙祷した。
(帝国の好きにはさせない。
必ず――潰してみせる)
俺は胸の中で、改めてそう誓う。
その静寂の中で、ふいにセラの表情がわずかに揺れた。
焼け跡の向こうに、もう戻らないはずの景色を見つめるように。
セラの意識は、幼い日の記憶へと沈んでいった。
ゾフからの情報収集回でした。
グラディウス帝国の主要人物や組織構造が少しずつ見えてきました。
ヨウにとって復讐の相手は想像以上に巨大な存在。
そして、セラの過去も…
次回もよろしくお願いします。




