第35話 セラの故郷
ついにセラの故郷へ辿り着きます。
アマツカ山脈の奥で待っていたものとは――。
カタリアを後にした俺たちは、レダスタへ入りそのまま街道を北へと進んでいった。
やがて道は街道を外れ、周囲の景色は少しずつ森へ、そして山へと変わっていく。
リノは、そんな山間部にひっそりとある小さな集落だった。
歩き続けた俺たちは、昼頃にはリノへ到着していた。
「なんというか……こじんまりとした集落だな」
レインは少し気まずそうに言ったが、正直、俺も同じ感想だった。
自然に囲まれていて悪くはない。
だが、利便性という意味ではほとんど期待できそうにない。
「ちょっと緊張してきたかも……」
セラは、目前に迫ったアマツカ山脈を意識しているのか、少しだけ表情を曇らせていた。
「どうする?
時間的には、このまま行くこともできるんだけど。
……アマツカ山脈まで」
「俺はどっちでもいいけど、セラはどうだ?」
「なんかドキドキしてきた……。
でも、早く行ってみたいかも」
レインは心配そうにセラを見たが、返ってきた答えは前向きなものだった。
「そうだな。
とっとと行って確認しよう。
その方が気持ち的にも楽になるはずだ」
こうして俺たちは、リノで休むことなく、そのままアマツカ山脈へ足を踏み入れることにした。
「そういえば、あそこにやたらでかい山があるけど、レインは知ってるか?」
山脈へ入ってすぐ、前から気になっていたことを口にする。
リノへ着く前から、ひときわ巨大な山がそびえ立っていたのだ。
その山頂は、雲よりも高いところにあるように見えた。
「あれね。
あそこはアマツカ山だよ。
火山らしいんだけど、ここ数百年は噴火してないらしい」
「噴火したら、かなりの規模になるんじゃないか?」
「そうだね。
前に噴火したときは、ミドガル大陸中に影響が出たって話だよ」
レインは、どこか昔話でも語るような口調で続けた。
「なんでも、あそこには誰にも見つけられない集落があるって都市伝説もあるんだ。
世界に裁きを与えるために、その集落の人間が特別な力で噴火を起こした――とか。
そんな陰謀論めいた話もあるらしい」
「裁き?
なんでそんなことを?」
「当時は各地で戦争が頻発してたらしくてさ。
それを鎮めて、無理やりでも協力し合えるようにするためだった、とか言われてる。
まあ、あくまで都市伝説だけどね」
「もし本当にそんなことができるなら、なかなかにおっかない連中だな」
そう言いながらも、俺は内心で少し興味を引かれていた。
(アマツカ山、か……いずれは行ってみたいな)
「噴火すると、どうなっちゃうの?」
そんな中、セラが不安そうに尋ねる。
純粋な疑問なのだろう。
レインは少し考えてから答えた。
「噴火するとね、あの山から人間なんて一瞬で消し去るような高温の炎が噴き出すんだ。
それに火山灰ってやつが各地に降り注いで、生き物にも大きな被害が出る」
「えぇ……それ、怖いじゃん。どこに逃げたらいいの?」
「まあ、セラが生きてる間に噴火することはないと思うし、大丈夫だよ」
「本当に?
それなら安心だね」
どうやら、かなり本気で怖かったらしい。
俺も実際に噴火を見たことはないが、前の世界で映像を見たことはある。
あの光景は今でも印象に残っていた。
(登るときに噴火しなければいいな)
そんな呑気なことを考えながら歩いていると、次第に周囲の景色に変化が現れ始めた。
焼け跡だ。
黒ずんだ地面。
焦げた木々。
ところどころに、かつて何かがあったと分かる痕跡が残っている。
どうやら無事に目的地へ近づいているらしい。
ここまで迷うことなく来られたのは幸運だった。
「2人とも、そろそろ覚悟してくれ。
おそらくこの先に、セラの村がある。
静かに行こう」
俺がそう告げると、セラの表情がさらに引き締まった。
「いよいよ……なんだね……」
俺たちは足音を殺し、慎重に進んでいく。
不用意に枝を踏まないよう、呼吸すら抑えるようにして前へ出る。
そして――木々の隙間から、それが見えた。
俺はとっさに身を低くし、2人にも止まるよう合図を送る。
その場から、静かに様子をうかがった。
そこにあったのは、焼け跡の残る集落だった。
家々は焼かれ、かつて人が暮らしていた面影は、痛々しいほどに崩れている。
その一方で、周囲には兵士たちの姿があった。
警戒するように立つ者。
巡回する者。
そして、いくつもの天幕が張られている。
聞いていた通りだ。
ここで間違いない。
ルミナリーヴィレッジ。
――セラの故郷が、そこにあった。
注意して周囲を観察していると、ひときわ警備が厳重な天幕が一つあった。
「ここから、どうするの?」
セラに聞かれたが、俺もまさに考えていたところだった。
正面から突っ込むのは自殺行為に近い。
かといって、気づかれずにひっそり侵入するのも難しい。
そんなときだった。
「サマエルを使えないかな?」
レインの言葉に、俺も考える。
確かに、サマエルを送り込んで中の様子を探らせるのは悪くない。
「サマエル。中に忍び込んで、警備がどうなっているか探れそうか?」
「その程度、造作もございません。
早速行ってまいります」
そう言い残し、サマエルは敵陣へと潜り込んでいった。
蛇の姿が、こんなところで役立つとは思わなかった。
しばらくして、サマエルが戻ってくる。
「どうだった?」
「はい。敵の数は、およそ100人ほどです」
サマエルは淡々と報告を続けた。
「天幕が集まっている中央付近に30人ほど。
その外側に70人ほどが分散して周囲を警備しています。
特に西側は、他よりも数が多いようです。
中でも注意すべきは2人かと」
「どんな奴なんだ?」
「1人は、ここの指揮を執っている男。ゾフという者です。
もう一人は集落の西側にいるロウという男です」
「100人か……さすがに多いな。
何かいい作戦を考えないと、制圧は厳しいと思うぞ」
「どうするの、ヨウ?」
レインとセラの言葉を受け、俺は素早く思考を巡らせる。
(レインの言う通りだ。
闇雲に突っ込んでも不利になるだけだ)
すると、サマエルが静かに口を開いた。
「リーダー格のゾフは、私にお任せいただけないでしょうか。
猛毒を持つこの姿で噛みつけば、余程の魔法使いでもなければ致命傷を与えられます。
蛇が相手であれば、敵も侵入者だとは思わないでしょう」
ありがたい提案だった。
サマエルにゾフを任せるとして、俺たちはその場で作戦を立てた。
まず、敵が寝静まるのを待つ。
その後、サマエルが中央へ侵入し、ゾフを生け捕りにできる程度に無力化する。
それを合図に、俺たちは東側を制圧。
そこから俺が単独で南側へ回り、レインとセラの2人が北側――崖上を制圧する。
それぞれの制圧が終わった後、中央へ向かって一気に片づける。
最後に残る西側は、3人で制圧に向かう。
数では明らかに不利だ。
だが、視た限り兵士一人一人は大した相手ではない。
ならば、数の差は質で押し切るしかない。
「この作戦でいこう」
2人も頷いた。
そして、俺たちは行動を開始する。
読んでいただきありがとうございます。
セラがずっと探していた故郷は、焼け跡となっていました。
そして、その跡地を占拠する兵士たち。
次回、ルミナリーヴィレッジでの戦いです。




