第34話 貴族との繋がり
今回はシルヴァとの食事、そして出発前の一幕です。
シルヴァの思惑とは。
シルヴァの屋敷へ招かれた俺たちは、広間へと案内された。
天井は高く、壁には細やかな装飾が施されている。
磨き上げられた木の床。
中央には長いテーブルと、柔らかなクッション付きの椅子が並ぶ。
かなり立派な屋敷だと感じた。
「狭くてすまない。
ここは別邸だから、本邸に比べれば少し小さいんだ」
シルヴァは穏やかに笑う。
「好きなところに腰掛けてくれ。
食事はすぐに運ばせる」
「いやいや、十分広いですよ」
レインが素直に声を上げる。
セラもきょろきょろと周囲を見渡していた。
俺は静かに席に腰を下ろす。
(別邸、か……)
つまり本拠は別にあるということだ。
それだけで、シルヴァの立場がうかがえる。
向かいに座ったシルヴァが、真剣な目で俺たちを見た。
「改めて礼を言おう」
空気が、わずかに引き締まる。
「あの場で立ち向かうのは、容易なことではない。
君たちは勇敢だった」
レインが少し照れたように視線を逸らす。
セラは小さく首を振った。
俺は淡々と答える。
「勇敢、というほどでもない。
降りかかる火の粉を払っただけだ。
あのまま見過ごせば、こちらに被害が及んでいただろうし」
勇敢なんて綺麗な言葉は不要だ。
俺はただ、理不尽に対して相応の対応をしただけ。
シルヴァは一瞬驚いたように目を細め、それから小さく笑った。
「なるほど。実に冷静だ。
だが、それでも――あの状況で剣を抜ける者は多くない。
貴族の親族とまで言われたんだ。
事実、他の者たちはただ見ているだけだっただろう?」
「確かにそうかもしれないが、俺たちはこの国の人間じゃない。
最悪、この国との縁が切れるだけだと思ったからな」
距離を保つように返す。
だが、シルヴァは首を横に振った。
「君たちの働き、私は忘れない。
この一件で横暴は許されないと町のみんなも理解できたはずだからね。
今後、何かあれば私を頼ってくれ。
直接でなくとも力になろう。
この国ではそれなりの立場もあるし、損にはならないと思うよ」
レインが目を丸くする。
「それって……かなりすごいことじゃ……」
セラも小さく息を呑んだ。
俺は短く頷く。
「ありがたい話だ。
そうさせてもらう」
この国で初めて繋がりができた。
しかも貴族――王族に連なる存在だ。
やがて料理が運ばれてきた。
焼きたての肉。
香草の効いたスープ。
柔らかなパンに彩り豊かな野菜。
湯気とともに、香りが広間を満たす。
セラの目がわずかに輝く。
レインは「うわぁ……」と小さく声を漏らす。
俺は静かにナイフを手に取った。
一口。
……旨い。
豪華な食事に俺たちは食が進んだ。
「そんなに慌てなくてもいい。たくさんある。ゆっくり食べるといい」
流石は貴族なのだろうか。
食事にも言葉にも、余裕があるように感じる。
「すまない、つい……。
こんな美味い飯は久しぶりなんだ」
そんな会話の中、シルヴァが問いかける。
「それで――これからどうするつもりだ?」
視線が俺に向けられる。
「アマツカ山脈に行く予定だ。
ここもその途中で立ち寄った」
「ほう、どうしてまたアマツカ山脈なんかに?」
「旅の途中なんだ。
どんな場所か見てみたくてな」
「そうか……。
それなら注意したほうがいい。
以前襲われた村があるのだが、グラディウスの兵士が監視している」
“村”と聞き、セラの手が止まった。
(セラ……)
「なぜそこまで監視している?」
「詳細は私にもわからない。
だが、どうやら“女の子”を探しているらしい。
それ以外は不明だが、監視しているのは事実だ。
気をつけて行くといい」
「わかった。助かる」
グラディウス帝国。
そして“女の子”。
間違いなくセラだ。
セラの身に危険が及ぶなら、撤退も視野に入れるべきだ。
「ちなみになんだけど……
もしグラディウスと敵対したとしたら?」
「そうならないことが一番だが……
奴らのことだ。徹底的に排除しようとしてくるだろう。
行動には十分注意することだ」
含みのある言い方だった。
それでも――俺たちは行かなければならない。
復讐のために。
――
「今日はもう休みなさい。
部屋を用意してある。
朝出発するといい」
食事を終え、少し雑談を交わした後、俺たちは休ませてもらうことにした。
「いい領主様だったな。
かっこよかったよ」
「おいしいご飯も食べさせてくれたし、優しい人だったね」
レインもセラも、シルヴァを気に入ったようだ。
俺も全面的に信用しているわけではない。
だが、今日話した限りでは、信頼に値する人物だと感じた。
(最悪、グラディウスと揉めたときはここに逃げ込むか……)
そんなことまで考えていた。
「今日はもう寝よう。
明日はリノだ。そこを越えれば、アマツカ山脈は目と鼻の先だ」
そう言って俺たちはベッドに入る。
一時はどうなるかと思ったが、無事にカタリアを出られそうだ。
その安堵とともに、俺たちは眠りについた。
陽が昇り、リノへ出発する朝が訪れる。
なぜかわからないが、レインとセラよりも早く目が覚めてしまった。
気持ちが高ぶっているのだろうか。
だが、特にすることもなかった俺は、とりあえず広間へ向かってみることにした。
「おはよう。早い起床だね」
広間に入ると、すでに起きていたシルヴァが声をかけてきた。
「寝床が変わると、なかなか寝付けなくて。
シルヴァこそ早いな」
「私はいつも早いんだ。
……それより、少し気になることがあってね」
「気になること?」
「うん。君のことだよ、ヨウ」
「なんのことだ?」
妙なことを口にした覚えはない。
この眼のことも知らないはずだが、一瞬、胸がざわついた。
「ボルドの部下たちを斬り伏せたときのことだ。
動きは確かに見事だった。
だが――違和感があってね」
(違和感……?)
シルヴァは続ける。
「君の剣の動きに対して、体がどこか無理に追いつこうとしているように見えた」
驚いた。
確かに、俺はこの眼の力で動いている。
眼が体を導いていると言ってもいい。
(あの一瞬で、そこまで見抜いたのか……)
鼓動がわずかに速くなる。
だが、シルヴァの口から出たのは、意外な言葉だった。
「ヨウ。
君の剣技は、鍛え上げた肉体があってこそ、さらに活きるはずだ。
日々の鍛錬で体を鍛えなさい。
そうすれば、確実に強くなれる」
叱責ではなく、助言だった。
「ありがとう。時間があるときは実践してみるよ」
「筋力だけではない。
実戦を重ね、反射や体の使い方も磨くんだ。
今回は時間がないが、次に来たときは鍛錬に付き合おう」
会話だけでも分かる。
この男は本物だろう。
能力値は俺のほうが上かもしれないが、敵にはしたくない。
「ぜひ、頼むよ」
そこで足音が響いた。
「やっぱりヨウは早いな。
セラも俺も準備できたぜ」
「いつでも出られるよ」
2人に促され、俺は身支度を整える。
そしてシルヴァへ向き直った。
「ありがとう。世話になった」
「気にするな。
話せて楽しかったよ。
気をつけて行きなさい。
――それと、これを」
そう言って、シルヴァは一枚の羊皮紙を差し出した。
「これは?」
「私の保証状だ。
シルヴァ・エンバイロンの名において、
君たちが客人であることを証明する、署名と家紋印を入れてある。
これがあれば、この国で軽んじられることはないだろう。
普段は、ここから東にあるフィレンにいるから気軽に遊びに来なさい」
完全な免罪符ではない。
だが、“扱い”は変わる。
レインが目を輝かせる。
「ヨウ、やるな~。
シルヴァさんにも認められたってことじゃないか」
セラも嬉しそうに頷いた。
こうして俺たちは保証状を受け取り、別れの言葉を交わす。
カタリアを後にし、次の目的地――リノへ。
いよいよ、アマツカ山脈が近づいてくる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
シルヴァは、ヨウが今後も関わっていくかもしれない重要人物の一人です。
そして次回からはいよいよアマツカ山脈方面へ。
引き続きよろしくお願いします。




