第33話 カタリアでの出会い
ついにカタリアへ。
だが平和に過ごせるわけもなく。
新たな町で、どんな出会いが待ってら中。
朝――。
小さな鳥のさえずりで目が覚めた。
まだ空気はひんやりとしている。
視線を横へ向けると、サマエルが、なぜかセラの枕元で丸くなっていた。
昨日、セラが「かわいい」と言っていたからか。
(悪魔だの何だの言ってたが……ああいう言葉は、嬉しかったのか)
「おはようございます。よく眠れましたか?」
どうやら起きていたらしい。
こちらの視線に気づき、丁寧に頭を下げる。
「まぁ、それなりに。慣れない寝床だからな」
軽く肩を回しながら答える。
「さようですか。お体にはお気をつけください」
(……悪魔とは思えない台詞なんだよな)
そんなやり取りをしていると、レインとセラも目を覚ました。
「相変わらずヨウは早いな」
「おはよ〜……」
セラはまだ半分夢の中だ。
俺は前の世界で、早朝出勤も珍しくなかった。
嫌でも身についた習慣だ。
「おはよう。今日はカタリアだ」
声をかけ、荷物をまとめ始める。
「ねぇねぇ、サマエルは私が持ってていい?」
セラが目を輝かせる。
「俺は構わないけど、サマエルは?」
「問題ございません」
するりとセラの肩へ這い上がる。
「わぁ、やった!」
……あの赤黒い蛇を、そこまで無邪気に可愛がれるのは、ある意味すごい。
俺は正直、爬虫類は得意じゃない。
(……月も好きだったな)
冷凍庫からネズミを取り出して、蛇に与えていた姿を思い出す。
俺は触れられなかったが、彼女は楽しそうだった。
この蛇を見たら、笑っただろうか。
胸の奥が、ほんの少しだけ軋む。
――だが、感傷に浸っている暇はない。
「行こう」
俺たちはアルト村を出て、カタリアへ向かった。
道中に大きな問題はなかった。
魔物も少なく、日が落ちる前には町へ到着できた。
カタリアは、アルト村よりも明らかに栄えている。
石造りの建物、広い通り、商店の数。
だが――
「なんか、元気なくない?」
セラがぽつりと呟く。
「……確かに。活気がないな」
レインも頷く。俺も同感だった。
店は開いているし、人通りもある。
それなのに、笑い声があまりにも少ない。
沈んだ空気が、町全体を覆っている感じだ。
(何かあるな)
「とりあえず、リノへの行き方を聞こう」
町の様子も気になるが、俺たちは酒場へ向かった。
酒場はすぐに見つかった。
中に入り、俺たちはカウンターに腰を下ろして店員へ声をかける。
「ちょっといいか?」
「なんでしょう?」
「リノへ行きたいんだが、道を教えてくれないか?」
「ああ、リノなら――」
説明は簡潔だった。
町の北を出て街道を進み、三叉路を西へ。
迷うことはなさそうだ。
「ありがとう、助かった」
礼を言うと、セラが続けて尋ねた。
「どうして、みんな元気ないの?」
店員は一瞬だけ迷ったが、苦笑いを浮かべる。
「……先日、行政官が派遣されてきたんですよ。
領主の親戚らしいんですが、横暴でしてね」
「最低だな」
レインが眉をひそめる。
「町の人たち、可哀そう」
セラも沈んだ顔をする。
俺も理不尽は嫌いだ。
だが――
(俺たちには目的がある)
力になれるならそうしたいが、よそ者が無闇に首を突っ込むべき問題でもない。
そう思った俺は2人に声をかける。
「そろそろ行こう」
2人も黙って頷き、酒場の外へ向かった。
そして酒場を出た、そのときだった。
一台の派手な装飾が施された馬車が近づいてきた。
金と赤を基調にした豪奢な意匠。いかにも成金趣味だ。
周囲には護衛の兵士たち。
「行政官だ……」
ひそひそとした声が町中に広がる。
(例の奴か)
馬車は俺たちの前で止まった。
ゆっくりと扉が開き、中から降りてきたのは、いかにも金持ちそうな男だった。
――ボルド・ドゥーハン
カタリアの行政官
剣術:B
(能力は大したことない。護衛も同程度か)
だが、実力以上に――強烈な嫌悪感を覚えた。
「ボルド様、こちらです」
兵士に促され、ボルドがこちらを見る。
その視線は、露骨にセラを値踏みしていた。
「この人、気持ち悪い……」
セラは小さく呟き、俺の後ろに隠れる。
「おい、失礼だぞ!
口を慎め!」
セラの言葉が聞こえたのだろう。兵士が声を荒げる。
「やめろ、怯えるだろうが」
ボルドは兵士を制し、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「いやぁ、すまないね。
僕は行政官のボルドだ。
可愛いお嬢ちゃんが来たと聞いてね。
ぜひ屋敷で奉仕をしてもらいたくて、わざわざ足を運んだんだ」
「……」
セラは黙り込んでいる。
怖いのだろう。俺の服をぎゅっと掴んでいた。
俺は静かに息を吐く。
『レイン、セラ、聞こえるか?』
『!? ヨウの声が聞こえるんだが……』
『え、ヨウ?』
『精神感応で話してるんだ。
詳しくは後で説明する』
驚きは伝わってくる。
だが今は説明している時間はない。
俺は素早く作戦を伝える。
『この男が変な動きをしたら俺が合図を出す。
そしたらセラは、閃光を頼む。
相手の目が眩んでいる間に俺とレインで制圧する』
『オッケー』
『うん、任せて』
2人ともまだ驚いているが、すぐに切り替えた。
今は、もしものための準備だ。
その間もボルドは、いやらしい笑みを浮かべながらセラを覗き込んでいる。
「どうかな?」
そして、痺れを切らしたように言った。
「君の面倒をみてあげるよ。
だから僕のものにならないか?」
(こいつはアホなのか?)
「悪いが、それはありえない。
帰ってくれ」
「行かない。気持ち悪いし」
俺とセラは、はっきりと拒絶した。
ボルドの顔が歪む。
「なんて癪にさわるやつらだ。
なら、しょうがない。お前ら、その子を連れてこい。
男どもは殺してしまえ」
ニヤニヤと笑いながら兵士へ指示を出す。
(こいつも、身勝手な野郎だな)
兵士たちが武器を構えた瞬間――
「やるぞ!」
俺の掛け声と同時に、セラが動いた。
――閃光!
強烈な光が炸裂する。
兵士たちの視界が白に染まった、その瞬間。
俺とレインが同時に踏み込んだ。
1人、また1人と切り伏せていく。
混乱の中、ボルドの片脚へ斬撃を叩き込んだ。
「いっ!」
血が飛び散り、ボルドは膝をつく。
光が消えたときには、兵士たちは地面に倒れていた。
町の野次馬たちは、驚きのあまり声も出せない。
「……!
いきなり目眩しなんて、お前ら卑怯だぞ!
それに、俺たちにこんなことしてただで済むと思ってるのか?
俺はな、エンバイロン王族の親族なんだぜ?」
(こんな状況でもそれを言うのか……)
脚から血を流しながら、なお強がる。
「こいつ、まだこんなこと言ってるがどうする?」
「ここで処理しようと思う」
俺はアルティエルンを構えた。
レインも、セラに手を出そうとしたこの男が許せないのだろう。
止めようとはしなかった。
「ひっ!
待て、どうなっても知らないぞ!」
その言葉を無視し、俺が踏み込もうとした――そのとき。
「ちょっと待て!」
1つの声が場を制した。
全員の視線が声の主へ向く。
騎士団だった。
「領主様!」
「領主様がいらしたぞ……」
野次馬たちがざわめく。
先頭に立つ男――バウンダリー領主、シルヴァ・エンバイロン。
「これは一体どういうことなんだ?」
――シルヴァ・エンバイロン
侯爵 バウンダリー領主
剣術:A+
魔術:A+
槍術:A
(こいつ、割とバランス型の強さだな)
槍術が未熟な俺にとっては、ありがたい存在でもある。
<槍術A コピー>
<槍術:F → A>
俺は構えを崩さないまま言った。
「俺の連れがこいつに誘拐されそうになった。だから阻止しているだけだ」
「誘拐だと? どういうことだ?」
「言ったとおりだ。
こいつは平気で女を誘拐する男ってことだよ」
シルヴァは、俺の後ろに隠れているセラを見る。
「ふむ。本当なのか?」
一拍置き、ボルドへ視線を向ける。
「それは……
こいつらが言ってる嘘です。
俺は普通に誘っただけなんです!
それなのに護衛たちが殺されてしまったんですよ!
俺はエンバイロンの親族です。
そんなことするわけありませんよ!」
必死だ。
町の人々は怯え、誰1人口を開こうとしない。
(……保身か)
俺は再び精神感応を飛ばす。
『なぁ、実力的にこの領主と戦っても負けることはないだろう。
そこでだ。
悪いが、この場でボルドを始末してしまおうと思うんだがどうだ?』
『私は別にいいと思う』
『……はぁ。
まぁ、あんな奴だし良いと思うが……
ただ、最悪二度とオリントス国に入ることはできないぞ』
2人は意外にも冷静に返答をしてくれた。
俺も同じ考えだし、覚悟はできている。
そんなやり取りをしていた、そのときだった。
シルヴァが下馬し、静かにボルドへ歩み寄る。
「シルヴァ様?
やはり俺の味方を――」
言い終わる前に、首が飛んだ。
一瞬だった。
迷いも躊躇もなく、シルヴァは無表情のままボルドの首を跳ねた。
そう、シルヴァは最初からボルドを“処分対象”として見ていたのだ。
「……!」
俺たちは言葉を失う。
身内の人間を躊躇なく斬ったこと。
そして、この状況で即断したこと。
空気が、張り詰める。
シルヴァはゆっくりとこちらを向いた。
「迷惑をかけたね。
すまなかった。
これでけじめとしてもらえると助かるんだが……」
その視線は真っ直ぐだった。
言い訳も、取り繕いもない。
「いや、十分だよ。ありがとう。
セラもいいよな?」
「……うん、大丈夫。
……ありがとうございます」
セラは静かに答えた。
恐怖よりも、安堵のほうが勝っているようだった。
「ただ、身内だったのに、こんなあっさり斬って大丈夫なんですか?」
レインが率直に問う。
俺も同じ疑問を抱いていた。
シルヴァは一度、視線を町へ向けてから答える。
「カタリアの町長から密書が届いたんだ。
元々、評判は良くない奴ではあったが……
私が治める地で、こんな蛮行にも等しい行為をしていることが許せなくてね。
現場を視察したくて出向いてきたんだ」
筋は通っている。
私情ではなく、統治者としての判断。
「そうだったんですね、かっこいいです!
俺たちも助かりましたよ!」
レインの声が明るくなる。
シルヴァはわずかに微笑んだ。
「君たちの名前を聞いてもよいかな?」
「ヨウだ。
こっちがレインで、この子はセラ。
ありがとう」
「私はシルヴァ・エンバイロンだ。
君たちの動きを見ていたよ。
素晴らしい身のこなしだった」
「いや、まだまだだよ。
もっと強くならないといけない」
本心だ。
俺には目的がある。
こんなところで満足するわけにはいかない。
「そっか。伸びしろはある。精進することだ。
――ヨウに斬らせても良かったんだが、身内としてけじめをつけさせてもらった。
悪く思わないでくれ。
原因はどうあれ、君の行動は立派だと思う。
よかったら、このあと屋敷に来てもらえないか?」
唐突な誘いではあったが、悪意は感じない。
「それは問題ないけど、ご飯食べてからでもいいか?」
「それなら私の屋敷で御馳走するよ。感謝の気持ちだ」
願ってもない申し出だ。
「私、行きたい。
おいしいご飯食べたい」
セラの声が少しだけ弾む。
「俺もせっかくだし、行ってみたいな」
レインも賛成のようだ。
俺は一瞬だけ考え、それから頷いた。
「それじゃ、お邪魔させてもらうよ」
「歓迎するよ」
シルヴァは騎士団に合図を送り、俺たちを屋敷へ案内する。
去り際、町の人々が口々にシルヴァへ感謝を伝えている。
深く頭を下げる者。
安堵の表情を浮かべる者。
その光景を見れば、分かる。
この男は――
少なくとも、真っ当な領主のようだった。
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【陽】
種族:人間
称号:冥奪の眼保持者
加護:憎悪の神エルロキス
眼のレベル:Ⅱ
剣術:S
魔術:A+
槍術:A
弓術:E
闘斧術:A
魔法
火 火炎
疾風 暴風砕破
回復
隷従契約
聖
技能
毒支配
暗殺剣:Ⅱ
隠密:Ⅱ
魔法の理:Ⅰ
精神感応
装備
魔剣アルティエルン
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【レイン・ミスティールス】
種族:人間/エルフ混血
剣術:B
魔術:S
弓術:A++
魔法
氷 氷結
水 洪水 激流断砕 災厄潮波
回復 状態回復
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【セラ・ルクシア】
種族:人間
称号:聖陰の光魔術師
加護:愛憎の神
魔術:A
魔法
光の雫 光線 月の旋律
閃光 癒光波
光 光粒
聖 聖域
読んでいただきありがとうございます。
今回は、ヨウたちが“領主”という立場の人間と初めてしっかり接触する回でもありました。
権力を持つ者にも色々なタイプがいる。
そんな空気を少しでも感じれたヨウたちでした。
シルヴァ邸へ向かうヨウたちがどうなるのか。




