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収奪の復讐者 ~奪われた全てを取り戻す悪魔の眼~  作者: 冬野 ヨル


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第31話 エルロキスの徒

アマツカ山脈を目指すヨウたち。

その裏では帝国や別の存在も動き始めます。

俺たちはエリシアを出て、アマツカ山脈へ向けて出発した。


「とりあえず、アマツカ山脈への行き方を聞かないといけないな」

「そうだな。どこかで聞けるところがあればいいんだが」

レインの言葉に、俺も頷く。


「ちょっと待ってくれ。あそこの兵士に聞いてくる!」

そう言って、レインは軽い足取りで駆けていった。


「レインって、色々知ってるし、社交力もあって頼りになるよね」

セラが笑いながら言う。


(確かに、こういう時は頼りになる。

 各地を転々としてきた経験のおかげだろうな)

そう思っていると、レインが満面の笑みで戻ってきた。

「聞いてきたぜ!

 このまま北に進むんだが、まずは――

 バウンダリーのカタリアの町に向かって、そこからさらに北へ。

 レダスタのリノの集落まで行けば、目の前がアマツカ山脈だってさ」


「なるほど、結構かかりそうだな。

 途中、しっかり休憩を挟みながら向かおう」

「それがいいと思うよ」

レインも同意だった。


「冒険って感じで、ワクワクするね!」

(セラは本当に元気だな)

はしゃぐ姿を微笑ましく眺めながら、俺はそう思った。


こうして、次の目的地はカタリアの町に決まった。

俺たちは北へ向かい、バウンダリーへと足を踏み入れる。


しかしこのときはまだ――

俺たちを追う存在に、気づきもしなかった。



――グラディウス帝国。


「テーヴァへ向かったヨウと名乗る男ですが、

 エリシアへ向かったようです」


「そうか、エリシアまで、か。

 一体何を企んでいる。

 ただの観光か、それとも何か目的があるのか……

 念のため、さらに探らせろ」


「かしこまりました。

 ですが、なぜそこまでその男に?」


「いや。ただの杞憂ならいい」


(偶然か?

 ルミナリーヴィレッジに近づいている。

 脱走した以上、遠くへ逃げているだけかもしれんが……

 異世界から召喚された人間だ。

 何か力を持ち、この国へ牙を剥く可能性もある)

「エリシアからの足取りも、確実に追え。

 それと――

 ロウにはルミナリーヴィレッジへ向かわせろ。

 怪しい3人組が来たら、処理するよう伝えておけ」


「は、かしこまりました」


アベルと密偵の会話は、そこで終わった。



俺たちの知らないところで確実に帝国は動き出していた。



一方その頃、別の思惑もまた、俺へと近づいていた。



「神よ、どうか、そのお声をお聞かせください。

 長く待ち続けております。

 あと、どれほど待てばよいのでしょうか」


祭壇の前で祈りを捧げる、1人の男。

彼は何百年もの間、その声を待ち続けていた。


そして――ついに。


「………………

 お前に興味はない。

 だが、我の加護を受けた人間がいる」


低く、冷たい声が響く。


「その人間は未熟だが、

 憎しみの感情は、この我が認めるほど膨大だ。

 そこまで祈る暇があるなら、その男を見守れ」


一方的に告げられ、神の声は途切れた。


「おぉ!

 貴方様がお認めになった人間が」


男は深く頭を垂れる。


「必ずや見守り、この魂に誓ってお約束いたします。

 …ふふ」


笑いが漏れた次の瞬間、男の脳裏に情景が流れ込んだ。


「なるほど。

 オリントス、ですか。

 必ず探し出してみせましょう」


そう呟くと、男は蛇の姿へと変わり、虚空へと消え去った。




その頃、バウンダリーに入った俺たちは、西側を迂回しながら、

山間にあるアルト村の目前へと迫っていた。


なぜ迂回しているのか。

遡れば、数刻前のことだった。


――


北上していた俺たちの前に、数人の兵士が現れた。


「旅の者か?

 ここから先は通行止めだ。

 北へ行くなら、西側から迂回してくれ」


「どうして通行止めなんですか?」

レインが尋ねる。


「これから軍事演習が行われる」

「でも、そんな様子は見えませんけど?」

(確かに、周囲を見渡してもそれらしい気配はない)


「当たり前だ!

 他人に見せるわけがないだろう!

 距離を取って警備しているに決まっている」

強い口調で返される。


「そんな言い方、しなくてもいいでしょ!」

セラが噛みつく。


すると、上司らしき男が近づいてきた。

「おい、何をしている」

「いえ、こいつらがごちゃごちゃ言ってきまして~」

「このおじちゃんが酷い言い方したんでしょ!」

場が荒れかける。

「セラ、落ち着け。

 こんなところで騒ぐ必要はない。

 行こう」

俺が制すると、上司の男が頭を下げた。

「すまなかった。

 後で叱っておく。気を付けてな」

だが、その兵士はなおも絡んでくる。

「なんだその態度は!

 馬鹿にしているのか!」


(…面倒だな。

 視た限り、大した相手じゃない)

俺は一瞬で剣を抜き、喉元に添えた。

「いい加減にしろ。

 もう行くと言っているだろ。

 理解できないのか?」


「お、おい……!」

上司が慌てて割って入る。


「そんなおじちゃん、痛い目見ればいいのに」

「セラ!?」

レインも同時に焦っていた。



「すまない!

 おい、お前も謝れ!

 お前じゃ、その人に勝てないと分かるだろ!」

「す、すまなかった、もう行っていい……」


俺は剣を収めた。

「冷や冷やしたよ。

 ちょっと気持ちよかったけど」

レインは小声でつぶやいた。


「私もスッキリした」

「セラ、不要な争いは避けたい。

 ああいう挑発に乗らないようにしよう」

「…うん、ごめんなさい」

俺はセラへそう促し、上司の男に一礼した。


「こちらこそ、すまなかった。

 北へ行きたいのか?」

「ああ、アマツカ山脈を目指している」

「それなら西へ行くと、山間にアルト村がある。

 そこを目印にすれば、迂回できるよ」

「助かる。ありがとう」

俺が礼を言うと、上司らしき男は軽く頷いた。


その一方で、セラはまだ少し不満そうに口を尖らせている。

「セラ」

レインが、歩き出しながら声をかけた。

「言い方はムカついたかもしれないけどさ。

 ここで騒いでも、面倒が増えるだけだろ?」

「うん…」

「俺たちは先がある。

 それに、無事に通れたんだから結果オーライだ」

レインはそう言って、セラの頭にぽん、と軽く手を置いた。

「次、気をつければいいさ」

セラは顔を上げてから、小さく頷いた。

「うん、ありがと!」


(なんか父と娘みたいだな)


――


こうして、俺たちはアルト村へ向かうことになった。


山間に差し込む夕陽が、道を橙色に染めている。

迂回した分だけ距離も伸び、気づけば空は傾き始めていた。


「もう、アルト村につきそうだけど……スルーして行くか?」

俺の問いに、セラが少し考えてから答える。

「少し休めたら、うれしいな」

レインも周囲を見回しながら頷いた。

「無理に進むより、状況を整理した方がよさそう」


(先を急ぎたい気持ちはあるが、もう夕方前だ。

 このままカタリアの町を目指すなら、確実に夜になる)

俺は少し考えてから口を開いた。

「じゃあこうしよう。

 2人はどこか飯屋でも探して休んでてくれ。

 俺は村の人に、距離とか状況を聞いてくる」


「それがいいな。セラ一人にはできないし」

レインはそう言って、村の一角を指さす。

「あそこ、食堂っぽいぞ。そこで待ってる」


(こういう判断の早さ、本当に助かる)

「頼む」


そう言って、俺は2人と別れた。


村に入ると、思ったより人の気配は多かった。

旅人、村人、荷を運ぶ者たち。


数人に声をかけた結果――

カタリアの町までは、早くても1日弱。

今から向かえば、確実に途中で野営になる。


(今日は無理だな)

そう判断し、俺は一息つくために村の外れにある木製のベンチに腰を下ろした。


静かだ。

地球では、常にコンクリートと人工物に囲まれていた。

便利で喧騒に飲まれ息をつく暇もない生活。

(それに比べれば、この村みたいな自然のある生活も悪くないかも)

そんなことを、ふと考えた瞬間だった。


視界の端で、何かが動いた。

地面を這うように近づいてくる――赤黒い影。

俺は即座に立ち上がり、剣に手をかける。


赤黒い鱗。

細長い胴体。


蛇だった。

目が合った瞬間、背筋に嫌な感覚が走った。


俺は“視た”。


――サマエル

称号:エルロキスの徒

魔術:SS


技能

 気配感知(プレゼンス)

 精神感応(テレパシー)


(エルロキス?)


反射的に剣を抜き、距離を取る。

蛇は、襲いかかる様子もなく、ただこちらを見つめていた。


そのときだった。


「あなた様が、エルロキス様の加護を受けた方ですね?」


――声。


はっきりと、言葉だった。

(しゃべった?)

「お前は何者だ。

 なぜエルロキスの名を知っている。

 それに、“エルロキスの徒”とは何だ」


警戒を崩さず問いかける。

だが、返ってきたのは、妙に丁寧な声だった。


「私はサマエル。

 エルロキス様を信仰する者です」

蛇は静かに続ける。

「あなた様を見守るため、ニブル大陸より参りました。

 エルロキス様は、私が崇拝する神でございます」


そして、わずかに目を細めた。

「ようやく、お会いできました」

読んでいただいてありがとうございます。

新キャラのサマエル。

今後、ヨウたちにどう関わっていくのか。

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