第27話 光は微笑まなかった
教会で起きる、セラの“変化”。
そして、ヨウだけが見た違和感。
その教会はただの観光地ではなかったようです。
カストル島に到着した俺たちは、真っ先に教会へ向かった。
通り沿いには豊かな自然が広がり、その合間には兵士専用の慰安施設が点在している。
そして、その先にそびえ立つのがエリシア城だった。
ここで争いを起こそうものなら、即座に兵が駆けつけ、制圧されるだろう。
それが、このカストル島の第一印象だった。
城を正面に見て右手――
自然に囲まれた巨大な建物が、静かに佇んでいる。
(あそこが教会だな)
寄り道することなく歩き続け、俺たちは教会の前に辿り着いた。
外には、ちらほらと人影が見える程度だ。
「わぁ……すごい!
でっかい!」
セラは教会を見上げ、無邪気にはしゃいでいる。
その様子を横目に、俺はふと入口脇の看板に視線を移した。
――《光と水の教会》
(光……。
セラが最初に来たいと言ったのは、何か関係があるのだろうか)
そんなことを考えながら、セラを見る。
「壁も立派だし、なんだか神聖な感じがする!
いつ頃できたんだろう?」
どうやら、相当気に入ったらしい。
「セラがあんなに盛り上がるなんて、想像できなかったよ」
レインが笑いながら言う。
「ああ、俺もだ。
ここに来て正解だったな」
「だな。思いっきり楽しませてやりたいよな」
いつの間にか、俺とレインは親のような会話をしていた。
「中に入ろう!」
満足したのか、セラが振り返って言う。
(光の魔術師という称号を持つくらいだ。
やはり、惹かれるものがあるのか)
「うん、入ろう」
そうして俺たちは、教会の中へ足を踏み入れた。
――圧倒された。
語彙が追いつかない。
ただ、それほどまでに“すごかった”。
天から降り注ぐ、あたたかな光。
その光に照らされ、壁や床を伝う水が、小川のように静かに流れている。
壁には壮麗な壁画と絵画。
床に配された草木や花々が、光を受けて柔らかく輝き、
まるで神殿そのもののような神々しさが空間を満たしていた。
俺たちは無言のまま、小川に架けられた橋を渡り、祭壇へと向かう。
あまりの神聖さに、誰一人として声を上げられなかった。
――後に聞いた話だが、初めて訪れた者は皆、同じ反応を示すらしい。
中には観光客らしき人影もあったが、
なぜか祭壇に近づくと、途中で外へ出ていってしまった。
見終わった様子でもなかっただけに、不思議だった。
「……少し祈るね」
祭壇の前に立ったセラが、そう言って手を合わせる。
俺とレインは頷き、少し離れて見守った。
しばらくして――
セラの頭上へ、天から一本の光の柱が降り注いだ。
「……!」
光に包まれるセラ。
俺はレインを見るが、レインは何も気にしてないかのようにセラを見ていた。
(何が起きてる……?)
さらに、その光の中に――
女神のようにも見える、光り輝くローブを纏った女の姿が現れた。
だが、どこか違う。
その表情は純粋な笑みではなく、
作られたような、ぞっとする笑顔だった。
あたたかなはずの光が、冷たい闇のように肌を撫でる。
目を合わせてはいけない――
脳がそう警告しているのに、俺は視線を逸らせなかった。
女は俺を見ると、にこりと微笑み、セラの背後へ回りそっと抱きしめる。
そして――
天へ還るかのように、その姿は消えた。
同時に、セラを包んでいた光も、吸い込まれるように消失する。
「……なあ、レイン。
あれ、なんだと思う?」
俺が小声で尋ねる。
「ん?何がだ?」
「あの光だよ」
「光?
入ったときから、ずっと差し込んでただろ?」
(……見えていなかったのか)
レインの反応を見る限り、
あの美しくも不気味な光を見たのは、俺だけらしい。
(この眼の影響か……?
それに、あの女は何を伝えたかったんだ……)
胸の奥に残る寒気が、消えなかった。
そんなとき、セラが立ち上がる。
「祈り、終わったのか?」
レインがいつも通りに聞く。
「うん!
祈ってたらね、すごくあたたかくて、体の中が熱くなったんだ」
「いい感じじゃん。
神様に祈りが通じたんじゃないか?」
レインはそう言って笑う。
俺は思わず、セラを“視た”。
――――――――――
【セラ・ルクシア】
加護:愛憎の神
称号:聖陰の光術師
魔術:A
魔法
光の雫 光線 月の旋律
閃光 癒光波
光 光粒
聖 聖域
――――――――――
(……すごい成長だ。
しかも、加護が付いて称号まで変わっている)
間違いない。
あの“女”が与えたのだろう。
(闇を感じる部分もあるが……今はいい)
「お疲れ。調子はどうだ?」
「うん、なんともないよ。
むしろ、すっきりした感じ!」
セラが元気に答える。
本人に違和感がないなら問題はない。
こうしてセラは、新たな力を得た。
それは同時に、俺たちの戦力が、確実に底上げされた瞬間でもあった。
俺たちは教会を出て、外の空気を吸った。
「そういえばさっき、何か気にしてたみたいだったけど……
何かあったのか?」
レインにそう聞かれ、俺は少し考えてから答える。
「セラが祈り終わったあと、眼で確かめたんだ。
そしたら……
前よりも、明らかに強くなってた」
「強く?」
「ああ。
あの教会とセラが、何かで惹かれ合ってるみたいな感じがした」
「そんなことが……。
確かに、それは驚くな」
「でも、今のところ違和感はない。
だから大丈夫だと思う」
「それなら、セラが前より頼もしくなったってことだな」
俺とレインがそんな話をしていると、セラが続けて口を開いた。
「うん。前より、なんだかやれそうな気がするよ」
「もし帝国と戦うことになるなら、強くならなきゃいけないしな。
俺も、もっと鍛えないと」
レインの言葉に、セラが少し不安そうな表情を浮かべる。
「そんなに……帝国って強いの?」
「強いよ。
皇帝を筆頭に、その子皇子たちも部下も、かなりの実力者揃いだ。
正直、今の俺たちじゃ、まだ正面から相手をするには早い」
「そっか……。
もっと強くならないと、ダメなんだね」
少し緊張した声で、セラが言う。
「今回は、帝国と戦うっていうより調査に近い。
だから、そんなに身構えなくてもいいと思うぞ」
俺はそう言って、セラを見る。
「帝国が本当に絡んでるなら、すぐに復讐できる相手じゃない。
焦る必要はないさ」
「……うん、そうだね」
セラも小さく頷いた。
そのまま、重くなりかけた空気を切り替えるように、話題を変える。
「次はどこに行く?
ここからなら、美術館が近いらしいけど」
「それじゃ、美術館にでも行ってみるか」
俺が振ると、レインが即座に答えた。
こうして、次の目的地は美術館に決まった。
来た道を少し戻り、大通りに出て、そのまま真っ直ぐ進めば美術館らしい。
やがて、大通りの先に、それらしい建物が見えてきた。
「あれかな」
俺が呟く。
「お、あれか?
美術館もでかいな。
何が見られるのか、楽しみだ」
レインはすっかり気分が上がっている。
「美術館って、何があるの?」
セラが首をかしげて聞く。
「昔に発見された珍しいものとか、絵画とかじゃないかな」
俺が答えると、セラは少し間を置いてからぼやいた。
「ふーん……。
なんか、つまらなそう」
確かに、子供にとっては、美術館はあまり面白い場所じゃないかもしれない。
俺自身も、どこか“大人が行く場所”という印象を持っていた。
「でも、行ってみたら案外面白いかもしれないぞ。
とりあえず、入ってみよう」
「……うん」
セラを促し、俺たちは美術館へ向かった。
入口に着くなり、レインが感嘆の声を上げる。
「おぉ……でけぇ。
いったい、何が眠ってるんだろうな」
そう言って、レインは迷いなく中へ進む。
俺たちも、その背中に続いて、美術館の中へ足を踏み入れた。
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【陽】
種族:人間
称号:冥奪の眼保持者
加護:憎悪の神エルロキス
眼のレベル:Ⅱ
剣術:S
魔術:A
弓術:E
闘斧術:A
魔法
火 火炎
疾風 暴風砕破
回復
隷従契約
聖
技能
毒支配
暗殺剣:Ⅱ
隠密:Ⅱ
装備
魔剣アルティエルン
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【レイン・ミスティールス】
種族:人間/エルフ混血
剣術:B
魔術:A++
弓術:A++
魔法
氷 氷結
水 洪水
回復 状態回復
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【セラ・ルクシア】
種族:人間
称号:聖陰の光魔術師
加護:愛憎の神
魔術:A
魔法
光の雫 光線 月の旋律
閃光 癒光波
光 光粒
聖 聖域
ここまで読んでいただきありがとうございます。
セラの強化回となりました。
戦力は確実に上がっていますが、帝国との力の差はまだ大きいまま。
次回は美術館へ。
引き続きよろしくお願いします。




