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収奪の復讐者 ~奪われた全てを取り戻す悪魔の眼~  作者: 冬野 ヨル


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第26話 水都エリシア

エリシア編スタート。

観光気分な空気もありますが、裏ではしっかり話が動き出してます。

セラの復讐も、ここからいよいよ本格的に…

関所へ到着した俺たちは、そのままエリシアへ入ろうとした。


「おい、お前ら。エリシアへは観光か?」

(……どう答えるべきか)

 一瞬考えたが、レインが先に口を開く。

「ああ。水の都を一度拝んでみたくてね」


「そっか、いいなぁ……。

俺たちも観光したいぜ」

「こら、国境を守るのも大事な仕事だぞ」

警備兵たちはそんな軽口を叩き合っている。

「教会に美術館、遺跡、カタラ湖……早く見に行きたいですよ~」

「お前は新米なんだ。

そんなことにうつつを抜かしてないで、仕事に集中しろ」

「はい……すみません……」

溜息をつく新米兵を見て、別の兵がこちらに向き直る。

「ま、楽しんでこいよ!」

そう言って手を振る警備兵たちに見送られ、俺たちはエリシアへと足を踏み入れた。


(教会、美術館、遺跡、カタラ湖……後で一通り見ておくか。役に立つ情報があるかもしれない)

「あの警備兵たち、あんな調子で大丈夫なのか?」

レインが苦笑する。

「でも、水都って言われるくらいだし……仕方ないと思うな」

セラはくすっと笑い、どこか同情するような表情を浮かべた。

だが俺は、笑ってはいられなかった。

「俺も楽しみではあるが……」

歩きながら、二人に向けて言葉を続ける。

「ここからは、いよいよセラの復讐が本格的に動き出す。

まずは気を引き締めていこう」

「うん。よろしくね。

やっと……

復讐できると思うと…」

そう言ってセラは笑みを浮かべる。

(……普段は可愛い女の子なのに、時折見せるその表情が、どうしても気になる)

「ああ。きっちり果たしてみせるさ」

レインはいつもの軽い調子で応じた。

そして、俺たちはエリシアの街へ足を踏み入れた。


「そういえば、どうやって情報を集めればいいのかな?」

セラにそう聞かれ、俺は門番に声をかけた。

「すまない。少し聞きたいことがある」

「どうした?」

「この都は初めてでな。どこにどんな施設があるのか、教えてもらえると助かるんだが」

 教会、美術館、遺跡、カタラ湖。

観光客を装い、俺はそれらを順に挙げながら、それとなく人の集まる場所についても聞いてみる。

いきなり情報屋の存在を尋ねるのは不自然だ。

「なるほどな。なら――」

 門番は慣れた様子で、丁寧に説明してくれた。

「ありがとう」

礼を言い、俺たちは街の奥へ進む。

エリシアは島々を水路で繋いだ構造で、移動には船が欠かせないらしい。

「さすが水都だな」

「うん……すごく綺麗」

船着き場から船に乗り、景色を眺めながら進む。

(ヨーロッパにも水の都があるって聞いたことがあるが……

こんな感じなのかもしれないな)

やがて船はアルツ島へと到着した。


アルツ島に降り立った俺たちは、まず酒場を探す。

「有力な情報が得られるといいんだが」

「うん……ここまで来られたしね」」

レインが指差した先には、一軒の酒場があった。

外見は普通だが、人の出入りは多い。

俺たちは中に入り、カウンターに腰を下ろす。

「何にしますか?」

注文を済ませ、飲み物が運ばれてきたところで、俺は切り出した。

「少し聞きたいことがあるんだが……アマツカ山脈で、ある村が焼き払われた件について、何か知っているか?」

「ああ……」

店員は少し考える素振りを見せてから言った。

「村の名前までは知らない人も多いですが……」

そして、何気ない調子で続ける。

「ルミナリー・ヴィレッジのことでしょう?」

その瞬間だった。

セラの体が、ぴくりと揺れた。

ほんの一瞬。

だが、俺にははっきり分かった。

(……ビンゴだ)

俺自身、その名前は初めて聞いた。

だが、セラの反応がすべてを物語っていた。

「ああ……」

短くそう答える。

「詳しくは分からないんですが、帝国が絡んでるらしい、って噂は聞きましたね。そのくらいです」

(帝国……?)

「帝国って……グラディウス帝国か?」

「ええ。武力で解決することが多い国ですし、何か揉め事でもあったんじゃないかって」

そのとき、店の奥から声がかかる。

「すみません、注文呼ばれてしまったので……」

店員はそう言い残し、去っていった。

「帝国のやつらが……」

思わず、俺は声が漏れた。

「でも、帝国とアマツカ山脈って、そんなに近くないだろ?」

レインが首を傾げる。

「しかも、あんな辺鄙な場所に……

セラ……何か心当たりはあるか?」

「……ううん。知らない」

セラは小さく首を振る。

「でも……帝国が、私の村と……家族を……」

その声は、かすかに震えていた。

「一度、村に行ってみるのはどうだ?」

レインが静かに提案する。

「ヨウも帝国に因縁があるだろ。何か手がかりが残ってるかもしれない」

「……そうだな」

 俺はセラを見る。

「俺は行きたい。セラは……どうだ?」

「…行く」

少し間を置いて、セラは答えた。

「辛いけど、復讐のためには、ちゃんと見ておくべきだと思う」

それが、彼女の覚悟だった。

「よし。決まりだな」

レインは明るく言った。

「今日はここで休んで、明日出発しようぜ。

宿を探そう」

そう言って、俺たちは酒場を後にした。


*


そのころ、グラディウス帝国でも動きがあった。


皇帝直属守護騎士団(エクスキューター)――。

その団長、アベルは執務室で一人、思案していた。


ヨウを調べるため、メルへ放っていた密偵からの手紙だったが、

事態は思った以上に厄介だった。

(最悪……アルディアと敵対することになるかもしれない)

密偵の報告によれば、メルのギルド事件の直前、

ヨウと名乗る1人の男が街を訪れていたことは確認できたという。


しかし、その後の足取りについては、ギルド代表は「知らない」の一点張りだった。

力をもって無理やりにでも聞き出すか。

それとも、捜索範囲を広げるか。


だが、こんなことで戦争にまで発展してしまえば、大陸全体から見て、

帝国が一方的に因縁をつけて戦を仕掛けたように映るだろう。

あやふやな情報のまま、そこまで踏み込むわけにはいかない。

そんな葛藤を抱えていたアベルのもとに、朗報が届いた。

「アベル様。密偵からの報告がございます」

別の密偵からの手紙だった。

アベルは受け取り、その場で封を切る。


――

ヨウと思われる男が、仲間とともにメルを出立

進路はテーヴァ方面

同行者は成人の男1名、子供の女1名

――


(なるほど。単独ではなく、パーティを組んでいる……)

これは偶然ではない。

そう直感するには十分だった。

「よくやった」

アベルは静かに言う。

「テーヴァへ向かい、引き続き調査を継続しろと伝えろ」

そして、少し間を置いて続けた。

「それから――ロウへ伝言だ。

やってもらうことがある。準備をしておけと」

「承知しました」

報告を終えた男は一礼し、部屋を後にした。


静寂が戻る。

(ヨウ……か。

お前は何者だ?

もし、ほんの少しでも脅威になると判断したときは――)

アベルの視線が、わずかに細められる。

(その時は、覚悟してもらう)


*


酒場を出た俺たちは、宿を探すために通りへ出た。

(門番の話だと、宿泊エリアはロディン島だったな)

そう思い出した、そのときだった。

「ねえ……せっかくだし、少し観光してみたい!」

セラが、ぱっと顔を明るくしてそう言った。

思わず、俺とレインは顔を見合わせる。

明日からは、しばらく落ち着かない日々になるだろう。

今のうちに見られるものは見ておきたい――そんな気持ちなのかもしれない。

それに、気晴らしもしたいのだろう。

「……わかった」

俺は小さく息を吐き、二人を見る。

「せっかくここまで来たんだ。少し回ってみよう」

そう言うと、レインも安心したように笑った。

「最初は、どこに行きたい?」

「んー……」

少し考えてから、セラは元気よく答える。

「私、教会に行ってみたい!」

その一言で、最初の目的地は決まった。


教会は、カストル島にあると聞いていた。

俺たちはすぐに船着き場へ向かい、船に乗り込む。

船が動き出すと、セラは落ち着かない様子で水面を見つめていた。

楽しみなのが、はっきりと伝わってくる。

レインもまた、周囲をきょろきょろと見回し、どこかそわそわしている。

(カストル島には、港やエリシア城、美術館もあるって言ってたな……。

城に入るのは無理だろうが、時間があれば外からでも見ておきたい)

そんなことを考えながら、船に揺られること数分。

やがて、視界に島影が近づく。

「着いたみたいだな」

船が岸に寄り、俺たちはカストル島へと足を踏み入れた。


だが、このカストル島で思わぬことに遭遇することを俺たちは思いもしなかった。


ご覧いただきありがとうございます。

エリシアでの動き、そして帝国側も少し進展です。

ようやくセラの過去にも触れ始めました。

次回はカストル島で何が起きるのか――というところですね。

引き続き読んでもらえたら嬉しいです。

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