第19話 静夜の来訪者
少しだけ、息をつく回。
魔導王国テーヴァの街へようやく入りました。
そして、最後に少しだけ動きが…
街へ戻った俺たちは、早速店を見て回ることにした。
石畳の通りには人の流れが戻り、あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
魔法理論について議論する若者たち。
魔導具の実演を行い、派手な光とともに呼び込みをする商人たち。
通りを歩くだけで、ここが魔導王国テーヴァなのだと嫌でも実感させられる。
「……すごいな。街全体が魔法に包まれてる感じだ」
思わずそう漏らすと、レインが苦笑した。
「初めて来た人は、大体そう言うよ。
ここじゃ魔法は研究対象であり、商売道具であり、日用品だからね」
「わぁ……!」
セラは完全に目を輝かせていた。
戦い続きで張り詰めていた空気が嘘みたいに、足取りも軽い。
「せっかくだし、店を見て回ろう」
「魔法武具、薬屋、装飾店、魔導書店……一通りあるけど、どうかな?」
俺に続いてレインが言うと、セラは即座に頷いた。
こういう時の意見一致は、やけに早い。
最初に入ったのは、魔法武具店だった。
店内には杖やローブ、魔力増幅具、用途不明の奇妙な武具まで、所狭しと並んでいる。
奥には結界付きの簡易試射場まで用意されていた。
「杖って、こんなに種類あるんだ……」
セラが一本手に取ると、先端の宝石が淡く反応する。
「それは魔力制御型ですね」
店主が即座に説明に入った。
「詠唱が安定する代わりに威力は控えめですが、初心者向けです」
「へぇ……」
セラは別の杖も試し、ローブを羽織って鏡の前に立つ。
映った姿を見て、少し照れたように微笑んだ。
「……似合うかな」
「似合うじゃん!
可愛いと思うよ」
レインがさらっと言うと、セラは一瞬固まり、すぐに顔を赤くする。
「えっ、あ、ありがとう……!」
そのやり取りを横目に、俺は少しだけ肩の力が抜けた。
2人の様子を眺めつつ、俺も店内を見て回る。
ふと、一角に無造作に置かれた1本の杖が目に留まった。
古びた見た目だが、どこか違和感がある。
近づいた瞬間、眼が反応し、情報が浮かび上がった。
――穢れた杖
わずかに聖光が残っている……
(……穢れ? 聖光?)
意味を掴みきれず手を伸ばそうとした、その時。
「すみません、それは売り物じゃないんです」
店主が気づいて声をかけてきた。
「価値がないのか?」
「ええ。どう試しても何も発動しないんですよ。
役に立たない壊れた杖なので、買取も無料で引き受けたものです」
困ったように説明する店主を見て、俺は少し考えた。
「……それなら、もらってもいいか?」
「え?」
店主は驚いた顔をする。
眼の反応を見る限り、ただの壊れた杖とは思えなかった。
何かがある。そう直感していた。
「処分予定でしたし、それは構いませんが……何に使うんです?」
「いや、特に考えてるわけじゃない。ただ、気になっただけだ」
「……そうですか。
では、お譲りしますよ」
「ありがとう」
こうして俺は、穢れた杖を手に入れた。
邪魔にならないよう、すぐにポーチへしまう。
いずれ使い道が見つかる――
そう思うと、胸の奥が少しだけ弾んだ。
次に入ったのは薬屋だった。
棚には回復薬だけでなく、
疲労軽減、集中力向上、魔力循環促進、毒消し――
旅人向けの薬がずらりと並んでいる。
「この国、薬もえげつないな……」
「魔導研究の副産物だね」
レインが棚を見ながら言う。
「戦闘用だけじゃなく、修練や学習用の薬も多い」
セラは興味深そうに瓶を覗き込む。
「これ……飲むと一日眠くならないって書いてある」
「それはやめとけ」
俺は即座に止めた。
続いて装飾店。
ここは完全に、セラの独壇場だった。
指輪、首飾り、耳飾り。
どれも魔法効果付きで、見た目も洗練されている。
「これ、防御魔法が1回だけ自動発動するんだって!」
「……高そうだな」
「見るだけ、見るだけ!」
そう言いながら試着しては、くるりと回る。
そのたびに、店内が少し明るくなる気がした。
「こういう時間、久しぶりだな」
レインがぽつりと呟く。
俺も同感だった。
(余裕ができたら、また来るのも悪くないな)
そう思えるほど、装飾品の質は高かった。
最後は魔導書店。
棚一面に並ぶ書物は、魔法理論、実践書、研究書まで幅広い。
「魔導学園もあるし、勉強には最高の場所だな……」
「テーヴァだからね」
レインは慣れた様子で言う。
「実践も研究も、一流の専門家が揃ってる。他国から学びに来る人も多いよ」
セラは基礎魔導書を何冊か手に取り、真剣な表情になる。
「……もっと勉強したい」
その横顔は、戦いの時とは違う、純粋な向上心に満ちていた。
(本来なら、まだ学生の年頃だよな……)
いずれ余裕ができたら、魔導書くらい買ってやってもいい。
そんなことを、自然と考えていた。
店を一通り巡り終え、外へ出ると、いつの間にか日が傾いていた。
「今日はこのくらいにして、宿を探そうか」
そう言うと、二人とも名残惜しそうに頷く。
戦いも、復讐も、帝国も、世界樹も――
どれも重く、逃げられない。
だが今は、
魔導王国の喧騒の中で、ほんのひととき肩の力を抜いていられる。
(……こういう時間も、悪くない)
束の間の休息を胸に刻みながら、
俺たちは宿屋を探して石畳を歩き出した。
宿を見つけ、部屋を取ろうとした時のことだ。
「3人とも一部屋ずつでいいよな?」
そう聞くと、彼女は首を振った。
「……1人は寂しい」
俺とレインは顔を見合わせる。
冷静に考えれば、セラはまだ子供だ。
本来なら、家族と過ごしている年頃だろう。
「わかった。少し余裕を持って、4人部屋にしよう」
俺が言うと、レインもセラも頷いた。
こうして部屋を取り、
俺たちは静かな夜へと身を委ねることになる。
皆が寝静まった深夜。
ふと、俺は目を覚ました。
(……目が冴えちまったな)
再び眠れそうになかった俺は、少しだけ夜風に当たろうと静かに宿を出る。
宿屋の外には小さなベンチがあった。
そこに腰を下ろして、月明かりに照らされた通りをぼんやりと眺めていた。
――その時だった。
「初めまして」
背後から、唐突に声がかかる。
「――っ!」
反射的に立ち上がり、距離を取り、剣を抜く。
さっきまで、そこに“誰かがいる気配”など、まったく感じなかった。
目の前に立っていたのは、1人の女だった。
「いきなりで驚かせてしまいましたね」
落ち着いた声音。
敵意は感じられないが、それがかえって不気味だった。
「私は――アルケイナ女王陛下の配下。
セリーナ・ロレンスと申します」
そう名乗ると、彼女は一歩も近づかず、丁寧に頭を下げる。
「女王陛下の使いとして、ヨウ殿にお会いしに参りました」
――セリーナ・ロレンス
アルケイナ・リオーネ側近
剣術:A+
魔術:B+
技
隠密Ⅱ
(……隠密?)
意識した瞬間、眼が反応する。
<隠密Ⅱ コピー>
(なるほど……気配をまったく感じなかったのは、この技のせいか)
今の一瞬で、彼女がただ者ではないと確信した。
そして同時に、この力は――後で必ず役に立つとも。
「女王の使いだと……?」
剣を構えたまま、俺は問いかける。
「何の用だ」
「アルケイナ女王陛下は、あなたに直接お会いしたいとお考えです」
セリーナは静かに続けた。
「明日、王城へお越しいただけませんか。
重要なお話があるとのことです」
「……」
一瞬、言葉を失う。
「俺に、何をするつもりなんだ?」
探るように問うと、彼女は首を横に振った。
「女王陛下は、あなたを敵視しておりません。
ただ――伝えたいことがある、とだけ申しておりました」
(……敵意は、ない)
もし害するつもりなら、さっきの奇襲で終わっていたはずだ。
「……わかった」
剣を収め、俺は答えた。
「明日、王城に行く」
「ありがとうございます」
その言葉に、セリーナはほっとしたように微笑む。
「ではこれをお持ちになってください。
これがあればすんなり入ることができますので」
そういってバッジのようなものを手渡された。
よくわからないがこれがないと入れないってことらしい。
「それとお仲間の方々も、ご一緒にお越しください」
そう告げると、彼女は背を向けた。
次の瞬間――
彼女の気配は、闇の中へ溶けるように消えていく。
消えた、というより――
限りなく気配を抑え、その場を離れたのだろう。
(……隠密をコピーできたおかげで、動きが見えたな)
また1つ、力を手に入れた。
そして同時に、
この先、自分が進む場所の“重さ”も感じ取っていた。
帝国を相手にする覚悟を決めた以上、
ここで立ち止まるわけにはいかない。
「……飛び込むしかない、か」
小さく呟き、
俺は再び宿へと戻った。
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【陽】
種族:人間
称号:冥奪の眼保持者
加護:憎悪の神エルロキス
眼のレベル:Ⅱ
剣術:S
魔術:B++
弓術:E
魔法
火 火炎
疾風 暴風砕破
回復
隷従契約
聖
技能
毒操作
暗殺剣:Ⅱ
隠密:Ⅱ
装備
魔剣アルティエルン
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【レイン・ミスティールス】
種族:人間/エルフ混血
剣術:B
魔術:A++
弓術:A++
魔法
氷 氷結
水 洪水
回復 状態回復
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【セラ・ルクシア】
種族:人間
称号:光の魔術師
魔術:B++
魔法
光の雫 光線
光
聖
ご覧いただきありがとうございます。
テーヴァの街でのひととき。
セラの年相応な一面や、少しだけ穏やかな時間を書いてみました。
そしてラストでは、新キャラ「セリーナ」が登場。
次回、王城へ。
少し核心に近づくかも。




