第18話 魔導王国テーヴァ
少し長めの移動を経て、ついにテーヴァへ。
関所でのロスの立場や、帝国側の動きも描かれる回です。
物語がさらに広がっていきます。
洞窟を後にしてから半日ほど。
石畳の街道の先に、ようやく目的のものが見えてきた。
高く積み上げられた石造りの門。
その両脇には、魔法陣を刻んだ結界柱と、ローブに見包んだ魔法使いと、武装した兵士たち。
――魔導王国テーヴァの関所だ。
「……着いたな」
俺がそう呟いたとき、どこか張り詰めていた空気が、わずかに緩むのを感じた。
ここまで来れば、ロスを無事に送り届けられる可能性は高い。
だが、そのまま素通りさせてもらえるほど、現実は甘くなかった。
「おい、そこの3人――いや、4人か」
関所の警備兵が、鋭い視線を向けて呼び止める。
「テーヴァへは何の用だ?」
一瞬、レインが口を開こうとした、その時だった。
「失礼」
穏やかな声とともに、ロスが一歩前へ出る。
「私は、ロス。
彼らは私の護衛だ」
そう言って、懐から1枚のカードを取り出す。
金属製のそれには、精緻な紋章と、細かな魔法刻印が施されていた。
警備兵はそれを見た瞬間、はっと息を呑み――
慌てて姿勢を正す。
「……し、失礼しました!
ロス殿! どうぞお通りください!」
深々と頭を下げ、道を開ける。
(……すごいな)
思わず、そんな感想が浮かぶ。
「それは?」
俺が視線を向けると、ロスは苦笑して説明してくれた。
「メルを代表していることを示す、身分証のようなものですよ」
(なるほど……)
商業都市メルの“代表”。
その肩書きが、国境すら容易く越えさせる。
レインとセラも、ほっと息をついたようだった。
こうして俺たちは、
魔導王国テーヴァの地へ、足を踏み入れた。
*
その頃――
遥か西。
グラディウス帝国、皇城にて。
「陛下、報告がございます」
重厚な玉座の間で、1人の男が片膝をつき、頭を垂れた。
「何用だ、アベル」
応じた声に、感情の揺らぎはない。
グラディウス帝国皇帝――
カイゼル・グラディウス。
その前に跪く男、アベルは、
皇帝直属守護騎士団団長。
絶対的な忠誠と、帝国随一と謳われる武を持つ男だ。
「先日、異世界より召喚された男女を覚えておられますか」
「ふむ……あいつらか」
カイゼルは、さほど興味なさげに応じる。
「男の方が牢より脱獄し、国外へ逃亡した可能性が高いと判断しております」
「それがどうした」
皇帝は冷ややかに言い放つ。
「逃げたところで、何ができる。
どうせ、どこかで野垂れ死んでいるだろう」
だが、アベルは引かなかった。
「先日、商業都市メルにて、ギルドの内紛と思われる事件が発生しました」
「……ほう」
「脱獄の時期と、事件の時期が、あまりにも一致しています。
何かしらの力を得て、行動を開始した可能性を否定できません」
沈黙。
やがて、カイゼルは小さく鼻を鳴らした。
「たかがギルドの揉め事だ。
それだけで判断するには弱いな」
「承知しております。
ですが……気になるのです」
しばしの間を置き、皇帝は言った。
「分かった。
そこまで言うなら、監視でも何でも好きにしろ。
何かあれば、すぐに報告しろ。いいな?」
「はっ」
深く頭を下げ、アベルは踵を返す。
玉座の間に、再び静寂が戻る。
(不穏な芽は、早めに摘んでおくに限る)
アベルは、そう胸中で呟いた。
*
――魔導王国テーヴァ。
ノクス連邦を構成する3国の1つ。
フィアネア王国、バルグンド王国と並び、連邦の“魔法”を担う国だ。
この国を治めるのは、
魔導女王アルケイナ・リオーネ。
高位魔法の使い手を多数抱え、
魔導の研究を国家規模で推し進める、世界屈指の魔導国家。
魔法とは力であり、学問であり、そして――
支配の要でもある。
そんな国の中へ、
俺たちは今、足を踏み入れたのだった。
「テーヴァは初めてですか?」
関所を抜け、石畳の街道を歩き始めたところで、ロスが穏やかな声で問いかけてきた。
「自分は一度来たことがあります」
レインが先に答える。
「セラは?」
「ううん、初めてだよ」
俺に視線を向けられたセラは、軽く首を振った。
「俺も初めてだ」
そう言うと、ロスは満足そうに頷いた。
「そうでしたか。
ここは魔導国家と呼ばれるだけあって、街の店の多くが魔法に関わるものを扱っています」
歩きながら、ロスは淡々と説明を続ける。
「魔法を付与した武具、魔法を発動できる書物。
薬品や毒、調合用の素材も非常に豊富です。
見るだけでも、価値はありますよ」
「それに――あなた方には直接関係ないかもしれませんが」
一拍置き、ロスは言葉を続けた。
「この国には魔導学園もあり、若手の育成にも力を入れています。
テーヴァが本気になれば、小国程度なら魔法だけで制圧できる――
そう噂されるほどの力を、内に秘めた国です」
「なるほど……」
思わず息を吐く。
「面白い国だな。
俺は魔法が得意ってわけじゃないから、色々見て回りたい」
俺がそう言うと、レインが少し笑った。
「全然ありだよ。
俺が昔着てた服も、実はここで買ったものなんだ。
魔力の循環を早める仕組みが仕込まれててさ。
着てるだけで魔力が活性化される」
「へぇ……」
俺は相槌を打つ。
「それに、セラは魔法が主軸だろ?
杖とか魔導書とか、役に立つものを探すのもいいと思う」
「え、面白そう!」
セラが目を輝かせる。
「魔法の杖とか、魔導書とか、見て回りたいな!
いいでしょ? ヨウ!」
その目は、完全に期待に満ちていた。
断れるはずもない。
……いや、俺自身も興味はある。
「もちろん。
見て回ろう」
そう答えると、セラは楽しそうに街のあちこちへ視線を巡らせ始めた。
その様子を見てから、俺は話題を切り替える。
「ロス、護衛の件だが……目的地は王城でいいのか?」
「ええ。城の入口まで来ていただければ十分です」
そう言って、ロスは懐から数枚のカードを取り出した。
「それと、先にこれをお渡ししておきましょう」
手渡されたのは、金属光沢を帯びた薄いカード。
「これは、私が信頼している商売仲間にしか渡していない特別なカードです」
「“思念伝達装置”と呼んでいます」
レインは、目を見開いたまま固まっている。
「このカードを見せれば、大抵の商人や貴族は、あなた方を無碍には扱わないでしょう」
ロスはさらに続ける。
「そして――このカードには、もう1つ秘密があります」
「この国で作られたもので、特殊な魔法がかけられているんです。
カードに魔力を登録すれば、その持ち主同士が遠距離で会話できるのです」
(……通信、か)
「私と離れていても、思念を通じて会話ができます。
何かあれば、いつでも連絡してください」
(携帯電話みたいなものだな……)
こんな世界で、それに近いものが存在するとは思わなかった。
俺たちはカードに魔力を流し込み、登録を終える。
こうして俺たちは、
“思念伝達装置”を手に入れた。
その後、王城までロスを送り届け、報酬を受け取ると、そこで別れることになった。
城を後にした途端、話題はリンクカード一色になる。
「遠距離で会話できるとか、夢みたいな魔法だろ!?」
レインが興奮を隠さず言う。
「すごいよね……
でも、こんな高価そうなもの、もらってよかったのかな?」
セラは嬉しそうではあるが、少し戸惑っている様子だ。
「嬉しい報酬だ」
俺はカードを見つめながら言った。
「これがあるだけで、どこにいてもロスの力を借りられる。
困った時に、商業王に直接相談できる――
それだけで、旅の難易度が変わる」
2人も頷く。
「ありがたく受け取っておこう」
そうして、俺たちは城を背に――
再び、魔導王国テーヴァの街へと足を向けた。
ご覧いただきありがとうございます。
テーヴァ編スタート。
そしてロスからまさかの便利アイテム入手。
一方で、帝国側も動き出しました。
次回、テーヴァの街探索と新たな展開へ。




