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収奪の復讐者 ~奪われた全てを取り戻す悪魔の眼~  作者: 冬野 ヨル


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第14話 血に染まる夜

ついにアジトの奥へ。

今回はヴィクターとの対峙、そしてその先にいる本命との戦いです。

ヨウの力や変化も含めて、大きく動く回になっています。

ヨウとレインは、目標とされていたアジトの建物へ静かに踏み込んだ。

気配を極限まで殺し、扉をわずかに開く。

中から、くぐもった会話が漏れてくる。

「……ねぇ、本当に大丈夫なの?」

女の声だった。


「あぁ。俺にもしものことがあったら、あの兵隊はあんたに託すさ。

 裏で私兵にすればいい。あいつらはそれなりに使える」


「もし、この密会がばれたら……私はこの国を出なくちゃいけなくなるのよ。

 そうなったら、あなたとは会えなくなる」


「それは困るな。

 あんたに惚れてるんだ」


「私だって同じよ。

 だから、いなくなったりしないで。約束よ?」

女の声が、ほんの僅かに笑った。

それは、別れを惜しむ声ではなかった。


「わかってる。心配するな」


衣擦れの音。

唇が重なる気配。

男と女の会話が終わる。


ほどなくして、足音が遠ざかっていった。

沈黙。

「……盗み聞きはよくないって、ママに教わらなかったか?」

低く、嘲るような声。

レインと同時に身構える。

奥の闇から、男が姿を現した。


アウトライダースの隊長――ヴィクター。


薄い笑みを浮かべ、こちらを値踏みするように見ている。

「まさかお前らが来るとはな。

 遊びに来たのか? それとも……俺を狩りに来たのか?」


「ヴィクター……」

レインが名を呼ぶ。

俺も覚えている顔だった。

まさか、ここまで深く関わっているとは。

「新人の坊や、久しぶりだな。

 こっち側に来てりゃ、もっと楽しい思いをさせてやれたんだが……残念だ」

「別に興味はない。

 お前らとつるむ気もない」

俺は淡々と言葉を返す。


「エルゼルはどこだ?」

「さぁな」

ヴィクターは肩をすくめる。

「教える義理があると思うか?」


「さっきの女は誰だ?」

レインが鋭く問う。

「女? ……そんなの、いなかったぜ」

両手を広げ、白々しく笑う。


「それより」

「俺を殺しに来たんだろ?」

そう言って、剣を抜いた。

空気が一気に張り詰める。

「相手になってやるよ」

俺は一歩前に出る。

「レイン、ここは俺に任せてくれ」

「……わかった」

「危なくなったら、すぐ入る」

「あぁ。周囲の警戒を頼む」

レインが静かに後方へ下がる。

俺は剣の柄に手をかけた。

(せっかくだ……

 魔剣アルティエルン、試し切りといこう)

静かに、刃を抜く。

闇の中で、妖しく淡い光が走った。


まずは――剣のままでいく。

俺は一歩踏み込み、そのままヴィクターへ斬りかかった。

(……軽い)

踏み込みも、振り抜きも。

これまでとは明らかに違う。

身体が、自然と最短距離を選んで動いている。


――マーカスからコピーした剣術。


その効果を、嫌というほど実感する。

「……おっと」

ヴィクターは一瞬だけ表情を歪め、慌てて受け止めた。

(これは……思ったより楽かもしれないな)

俺は距離を取り、剣を変形させる。

刀身がほどけるように形を変え、弓へと変化する。

そのまま構えると、弦に魔力が集まり、光の矢が形を成した。

ヴィクターへ向けて矢を放つ。

だが――


予想以上に矢は遅く飛んでいく。

ヴィクターは軽く身をひねり、あっさりと躱した。

「面白い武器を持ってるな、兄ちゃん」

余裕の笑み。

「兄ちゃんを殺したら……その武器は俺がもらってやるよ」


(……なるほど)

後方で様子を見ていたレインが、わずかに目を細める。

(剣の動きが、さっきまでと別物だ……

 しかも武器が変形する? あんなもの、聞いたことがない……

 ……一体、何をしたんだ、ヨウ)

レインは言葉を失っていた。

ヨウの背中が――ほんの少し、怖く見えた。


そんな視線を背に、俺はさらに武器を切り替える。

今度は――槍。

間合いを伸ばし、一気に詰める。

だが。

これも遅い。

剣の時ほど、身体が応えてくれない。

「何のつもりだ、兄ちゃん?」

ヴィクターが鼻で笑う。

「その動きじゃ……ただの的だぜ?」

振り下ろされる剣。

俺は即座に槍を解除し、剣へ戻す。

刃同士がぶつかり、火花が散った。

(……危なかった)

(やっぱり、武器ごとに扱いの“格”が違う。

 剣以外は、まだ実戦レベルじゃないな)

我ながら判断は早かった。

俺は再び剣に集中し、攻めに転じる。


打ち合い。

踏み込み。

受け流し。

斬撃の応酬。


「くそ……なんだ、こいつは……!」

ヴィクターの呼吸が乱れ始める。

(……いい感じだ)

脳と身体が、ようやく完全に噛み合ってきた。

動きが研ぎ澄まされていく。

刃が、空気を切り裂く音すら心地いい。


――強くなっている。


はっきりと、そう感じていた。

やがて。

ヴィクターは後退し、壁際まで追い詰められる。

息は荒く、足運びも鈍い。

そして――

俺は、無意識のまま口元を吊り上げていた。

(終わりだ)

踏み込み、刃を振り上げる。

その瞬間。


「――殺すな!!」

レインの叫びが飛んだ。

「生け捕りだ!!」

はっとする。

振り下ろしかけた剣を、寸前でずらす。

急所を外し、肩口を裂く形で斬りつけた。

ヴィクターが膝をつく。

「……お前は、一体何者なんだ……」

荒い息の合間に、そう呟く。

「俺も……よくわからない」

正直な言葉だった。

「ただ――お前は、負けた」

その直後、レインが駆け寄ってくる。

「ふぅ……本気で殺すかと思ったぞ。

 とりあえず、生け捕りには――」

言葉の途中だった。


バタン、と鈍い音。

ヴィクターは、残った力を振り絞るように、自らの首元へ刃を走らせた。

「……っ!」

血が噴き、男は崩れ落ちる。

「レオ……ブレイク……」

かすれた声。

「……すまなかったな、……あとは、任せたぞ……」

そう言い残し、ヴィクターは動かなくなった。


静寂。

潔い最期だったが――

胸に残るのは、重い後味だけだった。

結局、何も聞き出せなかった。

なぜアウトライダースが関わっていたのか。

あの女は何者だったのか。

すべて、闇の中へ消えた。


「……なぁ、ヨウ」

レインがこちらを見る。

「お前……何者なんだ?」

当然の疑問だった。

俺は少しだけ迷い――

眼のことは伏せたまま、武器のことだけを話す。


魔剣アルティエルンの能力。

望んだ形状へ自在に変化すること。

山賊の根城の奥で偶然手に入れたという経緯。


必要な部分だけを選び、余計なことは語らない。

何か言われるかと思ったが――

レインは意外にも、深く追及してこなかった。

「……とんでもない代物を拾ったな」

そう一言だけ呟き、静かに頷く。

ただし、“眼”については曖昧に濁した。

地球の話も、今はしない。

「……落ち着いたら、ちゃんと話す」

そう言うと、レインはしばらく黙り込み――

小さく頷いた。

「……わかった」

俺たちは、同時に奥の通路へ視線を向ける。

その先にいるのは――

エルゼル。


「……いよいよ、だな」

俺は剣を握り直した。

次が、本命。

気を引き締め、闇の奥へと足を踏み出した。


闇の奥に立つ影――エルゼル。

俺は1歩、踏み出した。

「来ましたか。わざわざ死にに戻るとは、物好きですね」


「……ヨウ」

レインが小さく呼ぶ。

「死ぬなよ」

俺は振り返らず、短く頷いた。

「終わらせてくる」

剣を構える。

そして――踏み込んだ。

刃がぶつかる。

だが、次の瞬間――

エルゼルの剣に雷が纏い始めた。


ーー雷の武具イクイプメントサンダー


「――っ!?」

振るわれた斬撃と同時に、稲妻がほとばしる。

間一髪で躱すが、かすっただけで腕に痺れが走った。

(雷の剣?

 剣に……魔法を乗せているのか……!)

 

再び踏み込む。

受け止める。

だが、そのたびに雷が襲いかかる。

斬り合うほど、不利になる。

「どうしました?」

「さっきまでの勢いは?」

余裕の笑み。

(……まずい)

距離を詰めれば焼かれ、引けば押し切られる。

呼吸が乱れ、足が重くなる。

(このままじゃ……負ける…

 また…?

 こいつに負けるのか……?)

その瞬間だった。

胸の奥が、熱を持つ。

視界が澄み、周囲の音が遠ざかっていく。

世界が――遅くなった。

(……この感じはーー)

眼が、動けと命じる。

身体が勝手に踏み込む。


――暗殺剣・縮地。


一瞬で間合いを詰める。

「なっ――!」

驚きに歪むエルゼルの表情。


――斬。


雷剣の軌道を潜り抜け、刃を叩き込む。

血が飛んだ。

「ぐっ……!」

俺は止まらない。


次の一歩。

次の一閃。


押されていた立場が、入れ替わる。

「ば、馬鹿な……!」

後退するエルゼル。

呼吸が乱れ、足取りが鈍る。

エルゼルの瞳が、ほんの一瞬だけ驚きに揺れた。


――理解したのだ。

自分が、敗北したことを。


「……待て」

距離を取ったエルゼルが、息を整えながら笑みを浮かべる。

「どうだ。俺と組まないか?

 力も地位も与えてやる。ここ一帯で敵はいなくなるぞ」

俺は答えない。

というよりも何か言ってるはずなのに何も聞こえない。


目の前の敵を処理する感情だけがヨウを支配していく。


ただ、踏み込む。

「やめ――」


――斬。


言葉ごと、切り捨てる。


1撃。

2撃。

3撃。


無数の傷が刻まれ、エルゼルの声が途切れていく。

そして――

最後の一閃。

首が宙を舞い、床に転がった。

血が広がる。

静寂。


(ヨウ……)

一連の流れを見ていたレインは声をかけられなかった。

あの背中に、今触れてはいけない気がした。


……ようやく、ヨウの世界が元の速さに戻る。

その場に立ち尽くし、刃についた血を、ぼんやりと見つめる。


――口元だけが、わずかに歪んでいた。

……その笑みが、なぜ浮かんでいるのか。

ヨウ自身にも、分からなかった。




ご覧いただきありがとうございます。

ヴィクター戦、そしてエルゼルとの決着まで一気に進みました。

ヨウ自身もまだ掴みきれていない“変化”が見え始めましたね。

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