第12話 交わされた覚悟
少し長めの回です。
ついに第三区への作戦決行です。
今回はヨウとレインの会話パートもありつつ、
後半は一気に戦闘へ入っていきます。
第三区を抜け、評議塔の方へ足を向けようとした、そのときだった。
「ヨウ!」
呼び止められて振り返ると、そこにはレインの姿があった。
「ザックさんから通達だ。いよいよ作戦を実行するってさ。
俺たちもギルドに向かおう」
「わかった」
(今回こそ、エルゼルと決着をつける)
そう心の中で呟き、俺はレインと並んでパイオニアへと向かった。
ギルドに到着すると、すでにザックとホライゾンの面々が揃っていた。
「来たか、お前ら」
ザックは短く頷き、すぐに本題へ入る。
「では、作戦を伝える」
「第三区そのものを潰すことは認められなかったが、ダークエルフの殲滅については黙認が出た」
どうやら、ヘルディ家から正式な許可を取り付けたらしい。
作戦内容は単純だが、危険なものだった。
昼間の強行突入は避け、夜を待つ。
その間に、2人から4人編成でアジトと思われる建物の周囲へ潜伏。
アジトは複数あるものとみられる。
夜十時を待って各所へ一斉突入。
最も疑わしい3か所には――
俺とレイン、マーカス、コールがそれぞれ向かう。
「ダークエルフは殲滅対象」
「エルゼルに加担している者は、可能な限り生け捕りだ。
準備を整えろ。今夜が正念場だ」
そう言って、ザックは会議を締めた。
各自が動き出そうとした、そのときだった。
「……少し、いいか」
マーカスとコールがこちらへ歩み寄ってくる。
「君の力については聞いているが、油断はするな」
マーカスは低く言った。
「この件、ホライゾンでも調査を続けてきたが、アウトライダースも絡んでいる可能性が高い。
君がメルで最初に会った男、ヴィクターを覚えているか?」
「ああ。
面白い奴だって言われたよ。遊びに来いってさ。
……厄介な連中なのか?」
「厄介だな」
答えたのはコールだった。
「長いこと第三区と繋がっている。
非合法な稼ぎも、数え切れないほどやってきた連中だ。
ならず者の集まりだが、パイオニアに籍を置けているだけあって実力は本物だ」
マーカスが静かに言葉を継ぐ。
「準備は怠るな。
作戦が終われば祝杯だ。必ず生きて戻れ」
そう言い残し、2人はその場を離れていった。
(……やっぱり、あの人たちは別格だな)
その直後――
レインが小さく息を吐いた。
「アウトライダースか……」
「どんな連中なんだ?」
「パイオニアの一角を担うパーティだよ。
でも、稼ぎの大半は非合法。中では完全に“はみ出し者”扱いだ。
隊長のヴィクターがそれなりの実力者でね。
だから余計に厄介だし、もしやり合うことになったら、油断できない相手だよ」
少し間を置いて、レインが苦笑する。
「それにしても……無口なマーカスが、あそこまで言うなんてな」
「ホライゾンからも期待されてるってことだね」
(マーカスのため、というわけじゃないが……期待は裏切らないようにしないとな)
そう心の中で呟き、俺たちはギルドの出口へ向かった。
ギルドを出ると、レインが隣で口を開く。
「いよいよだな、ヨウ。
これが片付けば、ここでの立場も安定するし、居住地ももらえると思う」
「……確かに、悪くはない」
だが、すぐに言葉を継いだ。
「でも、俺にはやることがある。
そのためには、もっと強くならなきゃいけない」
「……何をするつもりだ?」
一瞬、迷った。
だが、なぜか――
この男になら話してもいい気がした。
「場所を変えたい」
そうして向かったのは、第一区居住区。
レインの家だった。
「狭いけど、気にすんな」
部屋に通され、向かい合って腰を下ろす。
俺は一度、息を整えてから口を開いた。
「復讐だ。
グラディウスで、結婚するはずだった人を殺された。
俺はその皇帝を殺す、そして邪魔をする連中も、同じく殺す」
静かな部屋に、重い沈黙が落ちる。
レインはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……なるほどな」
「それで各地を旅して、力を求めるってわけか」
そして、予想外の言葉が続いた。
「だったら、俺もついていく」
思わず、目を見開いた。
「俺にも、復讐したい相手がいる。
それに……ヨウとなら、やりたいことができそうな気がするんだ。
足手まといにはならない。各地を回ってきた経験もある」
真剣な目だった。
冗談でも、勢いでもない。
「……本当にいいのか?
皇帝を殺す旅だぞ」
「それでもいい」
短く、はっきりとした返事。
俺は、静かに頷いた。
「……わかった」
そう答えた、その瞬間だった。
「おう、よろしくな」
レインが先に手を差し出してきた。
俺もその手を伸ばす。
強く、しっかりとした握手だった。
言葉はいらなかった。
この一瞬で、互いの覚悟が伝わった気がした。
――このときはまだ、ただの仲間だと思っていた。
ヨウは旅の中で、この男が“相棒”程の存在になることを知らなかった。
それから俺たちは、他愛のない話をしながら時間を潰し、夜を待った。
そして、作戦時刻。
第三区へ向かう路地裏で、レインが小さく呟く。
「いよいよ始まるな。
……必ず、終わらせよう」
俺は無言で頷き、闇へと足を踏み出した。
(待ってろ、エルゼル)
――そして。
各所で待機していた部隊が、合図と同時に一斉に踏み込んだ。
「なんだ、お前らは!」
第三区の各アジトで、ほぼ同時に怒号が上がる。
ホライゾンの面々は、迷いなく突入し、内部制圧にかかった。
修羅場をくぐってきた連中だ。動きが違う。
「返り討ちにしろ!」
「くそ……まさか、こんなに早く!」
ダークエルフたちも必死に応戦するが、奇襲と連携の差は大きかった。
次々と叩き伏せられ、床には黒い血が広がっていく。
アジトの奥へ進むにつれ、ダークエルフの躯が積み上がっていった。
マーカスとコールの担当区域でも、同様だった。
マーカスは正面から踏み込み、圧倒的な剣圧で敵を切り伏せていく。
「……お前たちは、やり過ぎた」
振り下ろされた一撃で、最後の一体が崩れ落ちる。
「メルの外で殺人にまで加担した連中を、放置するわけにはいかない」
「ヘルディ家が黙っちゃいないぞ!」
倒れかけのダークエルフが叫ぶ。
マーカスは冷たく言い放った。
「そのヘルディ家から、お前たちに関しては黙認が出ている」
「……観念しろ」
その直後だった。
「――なんの騒ぎだ!」
奥の通路から、見慣れた顔が現れる。
「マーカス……!
なぜ、こんなところにお前がいる……!」
ーーブレイク
アウトライダース所属。
ヴィクターの片腕と呼ばれる男だった。
「……ブレイクか」
(やはりな。情報通りだ)
マーカスは剣を構える。
「チッ……やるしかねぇか」
「ここでお前を始末できりゃ、兄貴も喜ぶだろうよ!」
こうして、マーカスとブレイクの戦いが始まった。
――一方。
別区画を制圧していたコールは、まるで影のように動いていた。
暗殺剣。
気配を断ち、背後から一撃。
叫び声すら上げさせず、淡々と命を刈り取っていく。
「こちらは終わったな」
短く息を吐いた、その瞬間だった。
背後から、鋭い殺気。反射的に跳び退く。
そして暗闇の中から、男が姿を現す。
「……お前か。
マーカスの言ってた通りだな」
コールは既に把握していたので慌てることもなく向き直る。
「こんな場所で会うとはな、コール」
ーーレオ。
アウトライダース所属。
ヴィクターのもう一人の片腕。
「兄貴から聞いてたぜ。ホライゾンが嗅ぎ回ってるってな」
「だが、まさか今日襲撃されるとは思わなかったぜ」
レオは、剣を抜きながら薄く笑う。
「兄貴のためにも……ここで負けるわけにはいかねぇな」
暗殺剣の使い手同士。
殺し合いが、静かに始まった。
ご覧いただきありがとうございます。
レインとのやり取りを経て、
第三区での戦いもいよいよ本格化してきました。
マーカスやコールの戦いも始まり、
次回はさらに動きが大きくなりそうです。




