邪竜バーベキューと、星空の下の乙女たち
気絶した大貴族は、騒ぎを聞きつけて駆けつけた王都の騎士団によってあっさりと捕縛された。
彼の悪行の証拠は、クロエが屋敷に潜入してあらかじめインベントリに回収しておいた裏帳簿で完璧に証明済みだ。
王都を巻き込んだ暗殺劇と邪竜騒動は、こうして拍子抜けするほどあっさりと幕を閉じた。
「さて、と。」
俺は広場のど真ん中に鎮座する、三枚おろしにされた巨大な邪竜の肉塊を振り返った。
「せっかくの極上肉だ。」
「鮮度が落ちないうちに、ここで全部平らげてしまおう。」
俺の言葉に、弟子たちの歓声が上がった。
「うおおおおおっ。」
「待ってましただぜ師匠。」
クロエが涎を拭いながら小躍りしている。
「ララ、お腹ペコペコにゃ。」
「早く食べたいですウサ。」
ララとミミも、すっかりさっきまでの死闘を忘れて食欲モードだ。
俺はインベントリから特大の鉄板と薪を取り出し、炎魔法で一気に熱した。
分厚く切り出した邪竜の霜降り肉を、豪快に鉄板へ並べていく。
ジュウウウウウウウウウウウウウウウウッ。
暴力的なまでに食欲をそそる脂の焼ける音と、俺特製の醤油ベースの甘辛いタレの香りが王都の広場に広がった。
「さあ、食え。」
俺の合図と共に、三人の弟子たちが一斉に肉に群がった。
「あふっ、ほふっ……うめええええええええ。」
「お肉がとろけるにゃあああああ。」
「こんな美味しいお肉、初めてですウサ……。」
そのあまりの美味そうな匂いに、遠巻きに見ていた勇者パーティーや騎士団の面々もゴクリと喉を鳴らしていた。
「お前らも食うか。」
俺が声をかけると、健太とセレスティーナは恐る恐る近づいてきた。
「い、いいのか。」
「ああ、たくさんあるからな。」
健太が渡された邪竜のステーキを一口かじる。
「…………っ。」
次の瞬間、勇者の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「うわあああああああん、うめえええええええ。」
健太は地面に膝をつき、肉を噛み締めながら号泣し始めた。
「俺は、剣でも魔法でもあんたに勝てなかった……。」
「でも、いつか絶対にあんたを超える勇者になってみせる。」
「だから、また美味い肉を食わせてくれえええええ。」
「(いや、どういう理屈だよ。)」
俺のツッコミをよそに、セレスティーナも美味しいですわと頬を染めながら肉を頬張っている。
王都の広場は、恐怖のどん底から一転して、笑顔の溢れる大宴会場と化していた。
その日の深夜。
宴会を終え、大騒ぎだった一日が終わりを告げた頃。
俺たちが泊まる高級宿屋の中庭で、三人の少女たちが星空を見上げていた。
俺は自室のベランダから、その姿を静かに見下ろしていた。
「……色々あったけど、ボクたち、ここまで来れたんだな。」
クロエが夜空の星を指差しながら、ぽつりとこぼす。
「裏切り者扱いされて、森で死にかけてたボクが、王都を救うなんてさ。」
「全部、ユートのおかげだぜ。」
「そうにゃ。」
ララがクロエの隣に座り、大きく頷いた。
「お姉ちゃんと暗い檻に閉じ込められてた時、ララはもうダメかと思ったにゃ。」
「でも、お兄ちゃんが美味しいご飯をくれて、戦う力をくれたにゃ。」
「ララ、お兄ちゃんとみんなを守れるくらい、もっともっと強くなるにゃ。」
二人の言葉を聞いて、ミミが涙ぐみながら微笑んだ。
「わたくしも……ユートさんに出会えて、本当に良かったですウサ。」
「臆病だったわたくしに、魔法を教えてくれて、勇気をくれました。」
「このパーティーは、わたくしたちの本当の家族みたいですウサ。」
三人の少女たちが、肩を寄せ合いながら星空の下で笑い合っている。
(……やれやれ。)
俺はベランダの柵に寄りかかりながら、小さく息を吐いた。
俺が望んでいた静かで平穏なスローライフとは、まるで正反対の騒がしい日々だ。
だが、あの笑顔を守るためなら、こういう面倒な日常も悪くない。
俺は四度目の人生で手に入れた、この騒がしくて温かい絆を心から愛おしく思っていた。
「さて、明日はどこへ行こうか。」
俺の呟きは、夜風に溶けて消えていった。




