究極の解体ショーと勇者たちのドン引き
ズシン、と。
俺がインベントリから取り出したドワーフ特製の巨大ミスリル包丁が、王都の石畳を砕いた。
「ギィルルルルルルオオオオオオオオオオオオッ」
邪竜が俺を完全な敵と認識し、その巨大な顎をガチガチと鳴らして威嚇してくる。
「おいおい、そんなに暴れるな。」
俺は巨大包丁を肩に担いだまま、まるで散歩にでも行くような足取りで邪竜へと近づいていった。
「肉にストレスがかかると味が落ちるんだよ。」
「ええええええええええええええっ」
勇者の健太が、素っ頓狂な声を上げた。
「肉って言ったか今。」
「健太さん、あの人、あの恐ろしい邪竜を食材としてしか見ていませんわ。」
聖女のセレスティーナも、顔面蒼白で震えている。
俺はそんな外野のツッコミを完全にスルーした。
「さあ、授業の時間だ。」
俺の言葉に、クロエ、ララ、ミミの三人が目を輝かせて俺の背後に並んだ。
「まずは血抜きだ。」
俺は神速の【影移動】で邪竜の首元へと跳躍した。
「ギシャアアアアアアアアアア」
邪竜が前足で俺を叩き潰そうとするが、遅すぎる。
「クロエ、鱗の隙間を狙え。」
「ラジャーだぜ師匠。」
クロエのミスリル短剣が、邪竜の首の関節にある一番柔らかい鱗の隙間に的確に突き立てられた。
「そこだ。」
俺はその隙間に巨大ミスリル包丁を滑り込ませ、一息に頸動脈を断ち切った。
ブシャアアアアアアアアアアアアアアア。
まるで噴水のように邪竜の血が噴き出す。
「よし、これで臭みが抜ける。」
俺は血の雨を【魔力障壁】で完全に防ぎながら、着地と同時に邪竜の腹の下へと潜り込んだ。
「ララ、ここから腹の肉を叩け。」
「にゃっ。」
「筋繊維をほぐすんだ。」
「任せるにゃ。」
「【虎咆拳・連牙】。」
ドガガガガガガガガガガガ。
ララの肉球ガントレットから放たれる闘気のラッシュが、邪竜の分厚い腹の肉を完璧な力加減で叩きほぐしていく。
「すごい、あんなに硬そうな鱗越しに肉が柔らかくなっていくのが分かるぜ。」
クロエが感心したように頷いている。
「ミミ、鮮度が落ちないように低温の【広域浄化】をかけ続けろ。」
「はいですウサ。」
「【聖なる氷結浄化】。」
ミミの杖から放たれる冷気を帯びた神聖魔法が、巨大な肉塊となりつつある邪竜を優しく包み込み、最高の保存状態を保っていく。
「(……嘘だろ。)」
健太が、持っていた折れかけの聖剣を取り落とした。
ガラン、と虚しい音が王都の広場に響く。
「(あれ、俺たちが全滅しかけた神話級の邪竜だよな。)」
「(健太さん、わたくしたち、とんでもない料理番組を見せられていますわ。)」
セレスティーナが、震える両手で顔を覆っている。
「(それに、あの聖女様の回復魔法の使い道……食材の鮮度保持だなんて、教会の教えが崩壊してしまいますわ。)」
勇者と聖女が完全にドン引きして現実逃避を始めている中、俺たちの解体ショーは佳境に入っていた。
「よし、最後は三枚おろしだ。」
俺は邪竜の背骨に沿って、巨大ミスリル包丁を一気に滑らせた。
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン。
魔法と体術の完璧な融合により、家ほどもある邪竜の巨体が、見事なまでに美しい三つのブロック肉へと分断された。
「おおおおおおおおおおっ。」
「綺麗だにゃー。」
「芸術的ですウサ。」
弟子たちが拍手喝采を送っている。
ドスゥン、と。
最高級の霜降りが美しい超巨大なドラゴンステーキ肉が、広場の石畳に横たわった。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ。」
その時、広場の隅から情けない悲鳴が上がった。
「ば、化け物……。」
全ての黒幕であるあの大貴族が、自慢の最終兵器を一瞬で精肉された光景を前に、完全に腰を抜かしてへたり込んでいた。
「ひいっ、く、来るなああああああああ。」
大貴族は恐怖のあまり失禁し、白目を剥いて気絶した。
「やれやれ、これで下ごしらえは完了だな。」
俺は包丁をインベントリにしまい、極上の肉塊を満足げに見下ろした。




