邪竜降臨と、焦げた肉への怒り
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
王都の中央広場を突き破り、天を突くほど巨大な邪竜がその姿を現した。
「ギィルルルルルオオオオオオオオオ。」
空気を震わせる咆哮に、王都の住民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「フハハハハ。」
腰を抜かしていたはずの大貴族が、狂ったように高笑いしている。
「見よ、この圧倒的な力を。」
「この邪竜の前では、いかなる小細工も通用せんわ。」
まさに王都滅亡の危機だった。
「待て。」
「ここは俺たちが食い止める。」
その絶望的な状況に飛び込んできたのは、勇者である健太と聖女のセレスティーナだった。
「健太さん、あの竜は魔力が桁違いですわ。」
「それでもやるしかないだろ。」
健太は折れかけの聖剣を構え、果敢にも邪竜の正面に立つ。
「ギルルルルル……」
邪竜は矮小な人間たちを見下し、その巨大な顎を開いた。
喉の奥で、全てを焼き尽くす極大のブレスが圧縮されていく。
「(……おお、あれは)」
俺は宿屋の窓枠に足をかけながら、その光景をじっと観察していた。
俺の【万物鑑定ゴッド・アイ】が、邪竜の喉元を完璧にロックオンしている。
(あのブレスを圧縮している最中の喉肉……絶対に柔らかくて美味いぞ)
(焼肉にしたら最高級の『極上ネギ塩タン』になるに違いない)
俺が完全にグルメな妄想に浸っていると、眼下ではセレスティーナが必死に杖を掲げていた。
「わたくしの全魔力で防ぎます。」
「【ホーリー・イージス】。」
聖なる光の巨大な障壁が展開される。
邪竜の極大ブレスが放たれようとしていた。
「(……おい、ちょっと待て)」
俺は舌打ちをした。
(あの光魔法の障壁とブレスが正面衝突したら、その熱の余波で喉肉が丸焦げになるだろ。)
(せっかくの超高級食材が台無しじゃないか。)
俺は居ても立っても居られず、窓から夜空へと飛び出した。
「消し飛べえええええ。」
健太が叫び、邪竜のブレスが解き放たれる。
俺は神速の【影移動】で、ブレスと光の障壁のど真ん中に割り込んだ。
「邪魔だ。」
俺は右手に極限まで魔力を集中させ、迫り来る極大ブレスを裏拳で天高く弾き飛ばした。
ズドオオオオオオオオオオオオン。
空の彼方でブレスが爆発し、夜空を昼間のように照らし出す。
「なっ。」
「ええっ。」
健太とセレスティーナが、信じられないものを見る目で俺を見上げていた。
俺はゆっくりと地上に着地し、振り返って二人を怒鳴りつける。
「聖女。」
「お前の光魔法で肉が焦げたら味が落ちるだろうが。」
「……はい。」
セレスティーナがぽかんと口を開ける。
「それに勇者。」
「お前のそのナマクラな聖剣で斬りつけたら、最高級の肉の繊維がズタズタになるんだよ。」
「お前、こんな状況で何言ってんだよ。」
健太がツッコミを入れるが、俺には関係ない。
「師匠ー。」
俺の後を追って、クロエ、ララ、ミミの三人が地上に降り立った。
「ユート、あいつ鱗が硬すぎてボクたちの攻撃が全然通らないぜ。」
クロエが悔しそうにミスリル短剣を構える。
「お兄ちゃん、ララのお手てが痛いにゃ。」
ララも肉球ガントレットを擦りながら涙目になっている。
「わ、わたくしの魔法も弾かれましたウサ……」
ミミが世界樹の杖を抱きしめて震えている。
俺は呆れながら、大きくため息をついた。
「はぁ……お前たち、硬い食材の下処理の仕方も教えてなかったか。」
俺はインベントリの奥底から、ドワーフの帝王が鍛え上げた巨大なミスリル包丁を取り出す。
「いいか、よく見ておけ。」
俺は包丁を肩に担ぎ、邪竜に向かってゆっくりと歩き出す。
「これは戦闘じゃない。」
「究極の解体ショーの始まりだ。」




