食後の腹ごなしと見えない師匠の神サポート
宿屋の周囲を包囲した数百の気配。 窓の外には黒装束の暗殺者たちと、異形の高位魔族たちがずらりと並んでいた。
「フハハハハ!逃げ場はないぞ、忌まわしき王家の残党ども!」
外から、あの恰幅の良い大貴族の下品な笑い声が響いてくる。
「貴様らの命運もここまでだ!我が精鋭と魔王軍の力をもって、塵一つ残さず消し去ってくれるわ!」
大貴族の勝利宣言が夜の王都にこだまする。 だが、俺たち『スローライフ希望』のパーティーに焦りの色は一切なかった。
「……ふあぁ。なんだか眠くなってきたぜ」
クロエが欠伸をしながら、愛用のミスリル短剣を抜く。
「せっかくの美味しいディナーの余韻が台無しだにゃ!」
ララは怒りで虎耳を逆立て、肉球ガントレットを打ち鳴らした。
「わ、わたくしたちの平和な夜を邪魔するなんて……絶対に許しませんウサ!」
ミミも怯えることなく、世界樹の杖をしっかりと構えている。
俺は、弟子たちの頼もしい背中を見て満足げに頷いた。
「よし。それじゃあ、食後の腹ごなしといこうか」
俺は椅子に深く腰掛けたまま、インベントリから食後の爪楊枝を取り出した。
「俺はここで見学だ。お前たちの成長の成果、存分に見せてみろ」
「「「了解!」」」
三人の声が重なった瞬間、戦闘の幕が切って落とされた。
「まずはボクからだ!」
クロエの姿が闇に溶ける。 【影移動】を駆使した神速の歩法。 彼女は暗殺者たちの死角を完璧に突き、次々と急所を刈り取っていく。
「な、何だ!?どこから攻撃が……ぎゃあっ!」
「馬鹿な!我ら暗殺ギルドの精鋭が、ただの小娘一人に……!」
クロエの刃は、魔力で強化された鎧の隙間すらも的確に貫いていた。 俺のスパルタ指導の賜物だ。
「お次はララの番だにゃ!」
ララが、大柄な魔族の集団に真正面から突撃する。
「愚かな獣人め!我ら高位魔族の装甲は砕け……」
「【虎咆拳・連牙】!」
ドガアアアアアアン!
ララの闘気を纏った拳が、魔族の自慢の装甲を紙切れのように粉砕した。 吹き飛んだ魔族たちが壁に激突し、次々と気絶していく。
「ミミもやりますウサ!【聖域の盾】!」
ミミの杖から放たれた光の壁が、敵の魔術師部隊の攻撃を全て弾き返す。 さらに【広域浄化】の光が魔族たちの動きを鈍らせ、クロエとララの戦いを完璧にサポートしていた。
「……な、なんだこいつらは!?」
大貴族の顔から余裕が消え失せる。 数百の軍勢が、たった三人の少女に蹂躙されているのだ。
「チッ!人間の小娘どもが調子に乗りおって!」
敵の指揮官である高位魔族が、ついに前に出た。
「我が絶望の結界で、息絶えるが良い!【死霊の猛毒領域】!」
高位魔族が禍々しい魔力を放つ。 即死級の猛毒の霧が、クロエたちを包み込もうとした。
「(……おっと、それは初見殺しすぎるな)」
俺は椅子に座ったまま、手に持っていた爪楊枝を指先でピンッと弾いた。
【神聖魔力付与】と【超振動】を乗せた、ただの爪楊枝。 それが音速を超え、猛毒の霧の中心にある魔力の核を的確に撃ち抜いた。
パァン!
爪楊枝の直撃を受けた核が砕け散り、猛毒の領域が一瞬で霧散する。
「なっ!?我が必殺の結界が、自然消滅しただと!?」
高位魔族が驚愕に目を見開く。
「(今だ、ミミ!)」
俺は念話でミミにだけ指示を飛ばす。
「は、はいぃ!【ホーリー・ジャッジメント】!」
ミミの放った極太の聖なる光線が、隙だらけの高位魔族を完全に飲み込んだ。
「ギャアアアアアアアアア!」
指揮官を失い、敵の軍勢は完全に崩壊した。 クロエとララが残党をあらかた片付け、俺たちの宿屋の周囲は静寂を取り戻した。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
腰を抜かした大貴族が、後ずさりをしている。 自慢の精鋭部隊が全滅し、彼の目には恐怖しか映っていない。
「もう逃げられないぜ、デブ貴族」
クロエが冷たく言い放つ。
「く、くそっ……!こうなったら、あれを使うしかない!」
大貴族が懐から、禍々しい紫色の魔石を取り出した。
「王都の地下に眠る古の邪竜よ!今こそ目覚め、我が敵を焼き尽くせ!」
大貴族が魔石を地面に叩き割る。 その瞬間、王都全体を揺るがす巨大な地震が発生した。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
王都の中央広場の地面が砕け、凄まじい咆哮と共に、天を突くほど巨大な邪竜が姿を現したのだ。
「……うわぁ。また面倒くさいのが出てきたな」
俺は窓から巨大な邪竜を見上げ、本日二度目のため息をついた。




