王都の不穏な影と、師匠の極上フルコース
王都アークランド。
大陸最大の都市であるこの場所に、俺たち『スローライフ希望』のパーティーは足を踏み入れた。
「うおおおおおお!広い!でかい!人がいっぱいだぜ!」
クロエが目を輝かせてはしゃいでいる。
「にゃはー!屋台がいっぱいあるにゃ!お兄ちゃん、お肉の匂いがするにゃ!」
ララも虎耳をぴんぴんさせて落ち着きがない。
「あ、あの……人が多すぎて、はぐれそうですウサ……」
ミミは俺の服の裾をぎゅっと掴んで離さない。
「お前ら、田舎者丸出しだぞ」
俺は呆れながらも、内心ではガッツポーズをしていた。
(ついに来たぞ、王都の巨大市場!)
(辺境では手に入らないレア食材の宝庫だ!)
俺の【万物鑑定ゴッド・アイ】が、市場のあちこちに眠る極上食材を次々とロックオンしていく。
一方その頃、王都の裏社会を牛耳る大貴族の屋敷では不穏な密談が交わされていた。
「間違いないのだな?」
「ハッ。あの『白亜の森』の生き残り、王家の血を引く獣人姉妹に間違いありません」
肥え太った大貴族が悪魔のような笑みを浮かべる。
「さらに、斥候の赤毛は暗殺ギルド『闇蛇の牙』を壊滅させた裏切り者のクロエ」
「共にいる男は、ただのDランク冒険者ですが、何か妙な術を使うとのこと」
大貴族の対面に座る、黒衣に身を包んだ高位魔族が冷たく笑う。
「我が魔王軍の邪魔になる芽は、早めに摘んでおくべきだな」
「ええ、我ら暗殺部隊と魔族の混成部隊を差し向けましょう」
彼らは、自分たちの圧倒的な戦力で標的を容易く抹殺できると確信していた。
そんな迫り来る危機を、俺の【索敵】が感知していないはずがなかった。
(……うわぁ、面倒くさい)
(あのデブ貴族、絶対ミミたちを売ろうとした奴の親玉だろ)
俺は市場で買い込んだ幻の食材『ゴールデントリュフ』と『飛竜の霜降り肉』をインベントリに収納しながら、大きなため息をついた。
(だが、俺の至福のディナータイムを邪魔する権利は誰にもない)
その日の夜、俺たちが借りた王都の高級宿屋の一室。
「うおおおおおおおお!」
「にゃああああああああ!」
「ひゃああああああああウサ!」
テーブルの上に並べられた極上のフルコースを前に、三人の弟子たちが絶叫した。
「ユート!なんだよこの肉!口に入れた瞬間に溶けたぞ!」
「『飛竜の霜降り肉』の赤ワイン煮込みだ。味わって食えよ」
「ソースが!この黒いソースが深すぎるにゃ!」
「『ゴールデントリュフ』をふんだんに使った特製ソースだからな」
「あふぅ……美味しいですウサ……ほっぺたが落ちそうですウサ……」
三人が夢中で料理をかき込んでいく。
その笑顔を見ていると、俺の苦労も報われるというものだ。
迫り来る暗殺者のことなど、完全に頭から抜け落ちるほど平和な空間だった。
「ふぅ、食った食った!もう食えねえぜ!」
「ララも、お腹いっぱいにゃ……しあわせだにゃ……」
「ユートさん、ごちそうさまでしたウサ」
最後のデザートである特製プリンを食べ終え、三人が満足そうにお腹をさすっている。
(よし、完璧なディナーだった)
俺が食後のハーブティーを一口飲んだ、その瞬間。
ズシン、と。
宿屋を囲むように、数百の気配が一斉に包囲網を敷いた。
「……ん?」
クロエの【気配察知】が、ようやくその異常な殺気に気づく。
「ゆ、ユート!これ……!」
「ああ」
俺はティーカップを置き、ゆっくりと立ち上がった。
「食後の運動には、ちょうどいい数だな」




