表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最悪仕様のチート魔法】空飛ぶ未来スマホと、【彼女】の帰還顛末記はステラ・マズルカニクル ――魔法使いたちの//クロスロード 時間遡行篇(C篇)単独連載版――  作者: 庭廷梛和
第2章 春休み中盤の新米師弟たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/41

【#32】空飛ぶスマホが見た、銀灰色のタイニーウルフと新米師匠の『魔法練習風景』 (後編)

「ごめんごめん。でもさ、そんなうるさそうな顔しないでやって。昴が泣いちゃってる」


 少し、いや、相当盛ってある口振りで、唸るレベッカへ告げた先生(ししょー)は、わずかに首を巡らせて、彼の背後――俺の浮かぶ中空をちらりと見上げてきた。


「笙真君、普通はスマホって泣くものじゃないんだけど」

「でも、ボクにはそういうログが入ってきてるよ。嘘だと思うなら、読み上げてあげよっか?」

「…………ポーリャちゃんが信じかねないから、()してくださいよ」

「えっ、スヴァルくん、泣いてるの?」


 ほら、言わんこっちゃない。


 唸り声から一転、真剣に取り合おうとしてくれている仔狼の隣に、音もなく降下した俺は、《光学迷彩(カモフラージュ)》の見え辛さを幾許(いくばく)か緩めてやる。


 カメレオンクラス。そう命じた俺のオーダー通り、光に縁取られた筐体の輪郭だけが、彼女からも視認出来るようになったみたいだ。

 流線型の小さなスマホの姿をした俺を、不思議そうな琥珀金の目つきが追いかけてくる。


「泣いてないよ。さっきも言ったけど、俺、AIなんだし、泣いたりなんてさ、あるわけないじゃん?」


 ついさっき、仔狼の右目で涙をこぼした奴のセリフじゃあないよな。レベッカだって覚えてるに違いないんだから。

 そんな具合に、無理筋過ぎることを自覚しながら、俺は、スピーカーから流暢に再生される自分の声を押し(とど)めることが出来ないでいた。

 誤魔化しだけで(かたど)られた言葉が響く。


「それより、ポーリャちゃん。笙真君の顔を見てあげてよ? ショウ兄ちゃまが嘘をつくときの顔は、ああだから覚えておこうね」


 ここに元の身体があったなら、ジト目が伴うこと請け合いになるよう、微調整済みの口調は、うまく効いてくれたらしい。


 先生の方へ顎しゃくり風の仕草(モーション)をしてみせたスマホに向けて、レベッカから、こくん。真剣な()振りのまま頷かれる。


 ……これから()りを見て、見分け方をベッカちゃんにも教えてやんないと。

 だって、先生お得意の「半分だけ本当の言説」に、この子が巻き込まれっ放しじゃあ、さすがに気の毒過ぎだもん。


 こんなの、先生だけじゃなくて、ベッカちゃんとも共有(シェア)するわけにいかないんだから、ログに残しちゃダメだよ。一切合財ね。


 今まさに、宮代昴の肉体の代わりとなっている銀色のEAPへ、無音でそう通達すると、俺は、存在しないはずの胸の痛みは頬冠ほっかむろうと決めた。

 レベッカの気を引きたい一心でスマホの身体を点滅(ピカピカ)させながら、先生を振り返る。


 苦笑いの気配を薄っすらと残していた少年の口元が、結び直される。


 彼が口にした|練習再開の呼び掛け《さ、もういっかいだよ?》を合図に、息を吸い込んだレベッカが、三巡目の練りを開始したことが、俺や先生と同期している「あなまほ」のダッシュボード上にも、輝点として現れだした。


 レッスン初日の彼女は、気合が声として空回りしていたけれど、今日は静かなものだ。四日前(ついたちの頃)とは、えらい違いだよな。俺の助言も取り入れてるだなんて、《狐の鋏》の子供と思えないくらい、素直だしさ。


 そう思いながら俺は、エイプリルフールの日(ししょーの誕生日)に新米の師弟となったばかりの二人を、高みから俯瞰することにした。


 (グラフ)として描写されている《二つ身》――彼女の変身魔法(デュプレックス)は、型の手前、踊り場にいるくらいの出来栄え。昨日は指が掛かっていたから、少しよろしくない。


 ふうむ。こりゃあ、先生の言った、「三日四日かかりそう説」の方が正しいのかも?


 今の先生よりは、俺のほうが宮代家の魔法使い(「明かし」)として、長いキャリアがあるから、才能の差を見せつけられたみたいで、少しだけ悔しい気持ちになる。


 先生の頭の中で展開されているのは、彼が自分で選んだ対象を「読ん」だ結果と、俺がアクセスを認めている「あなまほ」からのデータを併せての分析なんだろうけど、医療用の人工魔法の類型でもある《ドヴォルザーク》を通じて俺が扱えるのは、仔狼の身体を駆け巡る|神経信号《「上り」と「下り」の中身》だけなので、彼がどんな風に考えて居るのかは、未来の宮代笙真に師事していた俺の経験から推し量るしかない。


 悔しさ二点目だな。⋯⋯って、だめだめ。先生のことなんかより、チルの制御にきちんと集中しなきゃ。


 本物の「読み」からすれば、模倣もいいところの|レベッカのためのチル魔法ドヴォルザークで、生身しか持たない彼女から切り離している、“電子化された全身の痛み”。


 家族の元へ帰りたくって、懸命に練習に取り組んでいる小さな女の子に、こんなものを突き返すなんて、さっき以上にありえない大失態なんだから。


 EAP一台(スマホひとつ)分しかない、俺が利用可能な処理能力(リソース)。その帯域の中で、代替魔力素子生成機能(チル・メイカー)と並ぶ最大勢力として、ずっと流され続けている“数字の羅列”は、今の俺の身体上は、「主観として再現されない無味乾燥気味な情報」に違いないけれど、ベッカちゃんにとっては「そうじゃない」んだぞ。努々(ゆめゆめ)忘れるなよ。


 引き締めを図るために、作ったばかりの仮想のほっぺたを、ピシャリ、バチンと二回も打ち鳴らした俺は、レベッカの黒衣(くろご)としての役割を改めて(まっと)うしようと、EAPの中に分散させている意識(あたま)を切り替えた。


 北向きの出窓に掛けられた、カーテンの隙間。そこからわずかに望める、甲府盆地の春の夜空と、俺や先生に見()ろされているレベッカはまだ、例のしるしを、前足の爪でがっちりと押さえ込んだまま、三度目の練りの最中(さなか)だった。


 焦点が合わないことを意図してか、硝子玉のように()かされたアンバーカラーの瞳で、虚空を見つめている。

 ワンピースに(うず)もれかけた銀灰色の毛並みと小さな身体は、乱れた毛布の上で、尻尾の先まで揺らぎすらしない、集中を絵として描き起こしたような彼女の姿。

 それに呼応してか、俺の視界の端に埋め込まれているモニタリングの値が、ポンという通知音とともに、俺という手本を真似た昨日のレベッカを、軽々と飛び越えてきた。


 俺と同じように、沈黙を保った先生の目も真剣だった。好奇心で爛々(らんらん)と輝く縞栗鼠(しまりす)色が、寝台の上の仔狼に釘付けになっている。


 そして――、ブブーッ!


 型と魔力の不適合を警告するわりには、緊迫感の乏しいビープ音が、あなまほと同期している俺や先生の脳裏で、にわかに響き渡った。



「えっとね、みやしろじまんのスヴァルくんとおんなじで、べッカのしるしだってすごいから、真似っこしたら、できるかもって思ったの」


 失敗の理由を尋ねた先生へ向けて、「超絶すぎる五歳児理論」を、えっへんと振り(かざ)した、レベッカ――いや、ポーリャ・カントリー・ロードに、完全に虚を突かれたのは、幸か不幸か、俺だけじゃあなかった。


 最新版の「あなまほ用・効果音」として、今しがた鳴り響いたばかりの、軽薄過ぎるサウンド。


 満場一致でそいつを不採用にするはずだった格式ばった会議を、視線一つでひっくり返した「読み」の天才。

 そんな彼の現在むかしにあたる十四歳の少年が、俺が敬愛してやまない宮代笙真(ししょー)を微かに彷彿とさせる、涼し気な憂いを、引き攣った笑みの前にほんの一瞬だけ、()(はさ)んでみせた。


 ……たぶん本当は、もっと大人びている柔和な表情にしたかったんだろうな。


 そんな風に感じて、無言になった(スマホ)が浮かぶ、先生の目線と同じ、床上155センチほどの高さ。

 俺のすぐ隣にいたはずの先生は、ベッカちゃん(ポーリャ)の正面へ、唐突にしゃがみ込んだ。


 カメラ越しに俺が観察を続ける景色の下側で、ベッドの上の五歳児と目線を合わせる形になった先生が、口を開く。


「ねえ、ポーリャちゃん」「なあに? ショウ兄ちゃま」

「今のやり方だけどさ、それって、ポーリャちゃんだけで考えたの? よかったら、ボクや昴にも詳しく教えてよ? 昴も気になってるみたいだし、ね?」


 言葉とともに、彼はレベッカの返事を待つことなく、やおら立ち上がった。


 自らの太腿(もも)のあたりを軽く(はた)くような仕草を挟んで、机の上に放り出していた真っ赤なスマホをおもむろに握り締める。


“練習が終わったら、下で少し話そう。リン姉を交えた三人でも、もちろん平気だよね?”


 古い規格のチルが背負(しよ)った、心のこもった問いかけが、この時代では、俺と先生しか知らないであろう通信経路――《鳴神(なるかみ)》アプリが支える回廊を、凄みのある勢いのまま、駆け抜けてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ