第十五話「魔導院の研究者、同行を申し出る」
セイラの正式な配属手続きは、思っていたよりも早く片付いた。
「派遣ではなく、専任研究員として、現地調査に同行する。これで問題ないな」
ファルコの確認に、セイラは迷いなく頷いた。
手続きを終えた後、宿に戻る道中、涼介はセイラに尋ねた。
「派遣のままでも、依頼自体は続けられたんじゃないか。何か理由があるのか」
セイラは、しばらく考えてから答えた。
「派遣のままだと、いつでも呼び戻される立場なんです。中途半端な立場のまま、大事な調査に関わるのが、ずっと落ち着かなくて」
「それだけか」
「……正直に言うと、もう一つあります。私、昔から、誰も解けない謎を解くことに憧れていて。魔導院に入ったのも、そのためでした。でも、ここ数年は、決められた手順の検証作業ばかりで」
「地味な仕事が、嫌になったということか」
「嫌、というよりは……自分が本当にやりたかったことから、少しずつ離れていく感覚がありました。今回の件は、初めて、自分の判断で動ける調査に出会えた気がして」
涼介は、その言葉に、特に何かを言うことはなかった。
ただ、彼女が選んだ理由に、納得できる芯のようなものがあると感じた。
何かを変えたいと思いながら、きっかけがなくて動けない人間を、これまでも何人か見てきた。
セイラは、その一歩を、自分の意思で踏み出した側の人間だった。
王都を出発する朝、ファルコが見送りに来ていた。
「一つ、忠告しておく。お前たちが持つ情報は、すでに価値のあるものになっている。誰彼構わず話すな」
「分かっている」
「それと――お前自身についても、引き続き調べておく。何か分かれば、ギルド経由で連絡する」
涼介は短く頷くと、馬車に乗り込んだ。
帰路の道中、馬車の中の空気は、来た時とは少し違っていた。
「これでメンバーが一人増えましたね」
アレンが、明るい声で言う。
「お前は嬉しそうだな」
「賑やかな方が、いいに決まってます。それに、セイラさんがいると、知らないことも色々教えてもらえそうですし」
ガロが、外の景色を眺めながら、ぼそりと呟いた。
「俺はまだ、自分の体の使い方すら鍛え直してる途中なんだけどな」
「焦らなくていい。誰でも、最初は時間がかかる」
涼介の言葉に、ガロは小さく笑った。
馬車の振動に身を委ねながら、涼介はふと、これまでの自分の状況を整理した。
ガイドとしての仕事、枯れ谷の謎、国家間の思惑、そして増えていく仲間。
一人で枯れ谷に放り出されたあの日から、状況は確かに変わってきている。
四日後、見慣れた町の輪郭が見えてきた頃、涼介は小さく息を吐いた。
ここからまた、地に足をつけた日々が始まる。
―― 第十六話「商隊が、谷の中で足止めされている」へ続く ――
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