第十四話「各国の対応は、まったく違う」
ファルコが示した地図には、大陸に広がる主要な国々と、それぞれの対応を表す印が記されていた。
「我が国――ヴェルダ王国は、調査と研究を重視している。情報も、一定の範囲では公開する方針だ」
「他の国は違うのか」
「東のロセイユ王国は、情報統制を敷いている。国民の不安を煽らないため、という名目だが、実際には別の意図があるという見方が強い」
「別の意図、というのは」
「枯れ谷の拡大を、軍事的に利用できないか、検討している節がある」
セイラが、思わず声を上げた。
「魔法を無効化する技術を、武器にするということですか」
「敵国の魔導兵を無力化できれば、戦況は大きく変わる。発想としては、理解できなくはない」
アレンが、不安そうな顔で口を挟んだ。
「そんなことになったら、僕らみたいな冒険者は、どうなるんですか」
「直接の影響は、すぐにはないだろう。だが、長期的には、無視できない問題になる」
涼介は、その説明を聞きながら、これまで考えていた以上に、自分が踏み込んでいる問題の規模を実感していた。
学術的な謎だと思っていたものが、いつの間にか、国家間の利害が絡む話に変わっている。
「俺やこの石板の存在は、その国にも知られているのか」
「断言はできない。だが、こうした情報は、思っている以上に早く伝わる。お前のことも、すでに把握されている可能性は十分にある」
ファルコの言葉に、ダグが眉をひそめた。
「つまり、涼介を狙ってくる連中がいるかもしれない、ってことか」
「可能性の話だ。だが、念頭に置いておくべきだろう」
涼介は、特別動揺はしなかった。
危険があるかもしれない、という情報そのものは、これまでも何度も向き合ってきたものだ。
ただ、これまでとは種類が違う。山の危険なら、対処の方法は経験の中にある。だが、国家規模の思惑が絡む危険には、まだ自分の経験が通用するか分からない。
「対策はあるのか」
「お前一人に背負わせるつもりはない。少なくとも、この王都にいる間は、相応の護衛をつける。それに――」
ファルコは、セイラの方に視線を向けた。
「セイラ、お前はこのまま、彼らの調査に正式に同行する気はあるか。今までは派遣という形だったが、専任として動いてもらいたい」
セイラは、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに表情を引き締めた。
「……はい。お願いします。中途半端な立場のままでは、私自身、納得できていませんでしたから」
ダグが、軽く口笛を吹いた。
「いいコンビになりそうだな。魔法担当と、魔法なし担当」
「茶化すな」
セイラが少し顔を赤くしながら言うと、ダグは悪びれもせず笑った。
涼介は、その様子を見ながら、小さく頷いた。
少しずつ、味方と呼べる存在が増えていくことに、悪い気はしなかった。
この世界に来たばかりの頃は、誰にも頼れず、ただ生き延びることだけを考えていた。
今は、状況の規模こそ大きくなっているが、独りで対峙しているわけではない。
それだけは、確かな違いだった。
―― 第十五話「魔導院の研究者、同行を申し出る」へ続く ――
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