第十一話「王都からの招集」
王都までは、馬車で四日の道のりだった。
同行することになったのは、アレンたち四人と、護衛役としてダグ、そして石板の専門家としてセイラの計六人だった。
「黒崎さん、王都って初めてですよね。びっくりしますよ、規模が全然違うので」
アレンの言葉に、涼介は窓の外を見ながら頷くだけだった。
馬車に揺られながら見る景色は、これまで見てきたどの場所とも違っていた。
整然と区切られた農地、行き交う商隊、街道沿いに点在する小さな村。
「この国、思ったより広いんだな」
「黒崎さんの故郷は、もっと狭かったんですか」
「狭くはない。ただ、移動の手段が違う。馬車より速い乗り物がいくつもあった」
アレンが、興味深そうに身を乗り出したが、涼介はそれ以上詳しくは話さなかった。
説明しても、信じてもらえるかどうか分からないし、今はそれよりも優先すべきことがある。
この世界にも、当然のように人々の暮らしがある。
転移してきてからずっと、自分一人が異物のように浮いている感覚があったが、こうして眺めていると、その感覚も少しずつ薄れていく気がした。
四日目の午後、王都の城壁が見えてきた。
これまで見てきた町とは、規模も様式も全く違っていた。
高くそびえる尖塔、整備された大通り、行き交う人々の数も比べものにならない。
「すごいでしょう。僕も、来るたびに圧倒されます」
アレンが、興奮を隠せない様子で言った。
馬車は、城壁の内側を抜け、魔導院と呼ばれる、ひときわ大きな建物の前で止まった。
石造りの外観には、見たことのない紋様が彫り込まれ、そこからわずかに、これまで感じたことのない種類の気配が漂っていた。
「ここが、魔導院か」
「はい。この大陸の魔法研究の中心です」
セイラが、わずかに緊張した声で言った。
「セイラ、お前でも緊張するのか」
「当然です……ここの上層部に評価されるかどうかで、研究者としての将来が決まりますから」
ダグが、建物を見上げながら、らしくない神妙な顔をしていた。
「俺なんかが入っていい場所なのか、これ」
「招集状には、同行者の同伴も認められている。問題ない」
涼介の言葉に、ダグは小さく息を吐いてから、覚悟を決めたように足を踏み出した。
中に入ると、案内係の指示で、涼介たちは応接用の一室に通された。
待つことしばらく、現れたのは、白髪の交じった、落ち着いた佇まいの男だった。
「私はファルコ・レンドル。魔導院の上級研究員だ。今回の件、責任者としてお前たちと話をすることになる」
「黒崎涼介だ」
ファルコは、涼介の顔をしばらく見つめてから、小さく頷いた。
「噴飯ものの報告だと思っていたが、実際に会うと、納得せざるを得ないな。迷い人、しかも魔力を一切持たない人間か」
「珍しいのか」
「珍しいどころではない。記録に残る範囲では、お前のような人間は、ここ百年で数人といない」
「百年の間に、何人来て、何人が、どうなった」
涼介の問いに、ファルコは一瞬、表情を消した。
「……その質問には、今すぐ答えられる準備がない。後ほど、改めて話そう」
その曖昧な返答に、涼介はそれ以上食い込まなかった。
今ここで問い詰めても、得られる答えは少ない。
ファルコは、机の上に、涼介たちが持ち込んだ石板と、アレンたちの写しを並べさせた。
「まず、この二つについて話そう。そして、お前自身についても、聞かせてもらいたいことがある」
涼介は、その言葉に短く頷いた。
ここからの話が、これまで積み重ねてきた違和感の答えに、少しでも近づくものであることを、願わずにはいられなかった。
―― 第十二話「学者たちは枯れ谷をどう見ているか」へ続く ――
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