Ep.4 のどかな町
神代暦3525年、秋月66日。
フィル大陸西部の町、ホーリッド。
次の日の朝に、二人はホーリッドの町に到着した。
ソラ
「ふぅ、ようやく着いたね。」
エリアス
「うん。とりあえず宿屋を探そう。」
通りには親子が並んで歩き、老人が散歩をしている。
人はさほど多くなく、のどかな町というイメージを感じさせる雰囲気だ。
「…バーンドロウの近くでも魔族の動きが活発化してきたらしいな。」
「勇者様は何処にいらっしゃるのか…」
「やはり我々人類魔王に滅ぼされるのか…」
歩いていると、町の人々のそんな会話が耳に入ってくる。
ソラ
「…なんだか不吉だね。
魔王なんて本当に居るのかすら怪しいのにさ。」
周りに聞こえないよう、エリアスの耳元でソラはそう話した。
エリアス
「誰も見たことがないって言われてるしね。」
魔王。
全ての闇を統べ、世界の掌握を目論む存在とされている。
しかしその姿を見た者は今まで誰一人おらず、存在しているのかすら定かではない。
エリアスは続けてこう告げた。
エリアス
「…もしくは、見た者は皆生きて帰っていないか。」
その声のトーンが低く落ちる。
ソラ
「…だとしたら、」
自身の背中に冷たい何かが走るのを感じる。
エリアス
「まぁ、本当に誰も見てないってだけかもしれないしね。」
ソラ
「う、うん、確かにね!」
少し怯えるソラを見かねたのか、エリアスはそう声を掛けた。
ソラ
「しかも勇者様なら絶対にどこかにいるしね!
魔王なんてすぐやっつけてくれるよ!」
女神が魔王を倒すために、その手によって作り出した人間。
それらが勇者と呼ばれる存在だ。
数百年前からその系譜は始まり、今まで勇者は12人生まれてきたとされている。
エリアス
「勇者かぁ。
いてくれたらいいねぇ…」
エリアスは穏やかに笑ってそう返した。
エリアス
「お、話してたらもう見えてきたね。」
エリアスは少し先にある建物を指差した。
扉の横には『INN』と書かれた看板が掲げられている。
ソラ
「宿屋だぁ!」
ソラはその建物を見るなり走り出していった。
エリアス
「置いて行かないでくれー。」
エリアスは苦笑しながら彼女の後を付いて行くのだった。
─────
エリアス
「とりあえず小さめの部屋を二つ取った。
ソラの部屋は僕の向かい側ね。」
そう言いながら彼は鍵をソラに渡す。
ソラ
「どれくらいここには滞在するの?」
エリアス
「ざっと3日くらいかな。
私用もそれくらいで終わると思うから、まぁソラは何か適当に過ごしといて。」
ソラ
「そういえば、その私用ってどんなの?」
エリアス
「んー、まぁ調べたい事がここら辺であるからそれかな。」
ソラ
「ふーん。調べ事かぁ。」
詳しい内容は教えてはくれなさそうだ。
ソラはそう心の中で考えると、エリアスに軽く手を振って部屋の方に戻った。
─────
次の日。
カーテンがそよ風と共に静かに揺れ、その隙間から朝日が部屋の中へと差し込む。
ソラ
「…ふわぁ、朝かぁ。」
ソラはベッドから起きると、手短に支度を済ませて部屋から出る。
向かい側の部屋の扉を叩き、エリアスの名前を呼ぶ。
ソラ
「エリアスさーん?いるー?」
しかし、いくら呼んでも返事は無い。
ソラ
「入るよー?」
ソラはドアノブに手を掛け、ゆっくりと押して開く。
案の定、その部屋の中にエリアスの姿は無かった。
ソラ
「もう行っちゃったのかな。」
部屋の中は、まるで誰も使っていないかのように綺麗に整頓されていた。
ただベッドの隣に鞄が一つ置いてあるだけだ。
扉を閉め、階段を降りる。
そうして宿屋から出たソラは、ホーリッドの町を散策する事にした。
朝という事もあり、人通りは昨日より多い。
立ち並ぶ店々では開店の準備が進められている。
少し町から出ると、すぐに田園地帯に出る。
西の方の海とは少し高い丘で隔てられ、海風があまり届かないようになっている場所のようだ。
町に戻ったソラは、商店街の中の店に魔法店を見つけた。
ソラ
(魔導書!!魔道具!!
見に行かなきゃ!!)
最早義務感にも近い何かに突き動かされ、ソラはその店の中に入って行った。
店内は少し狭さを感じる程度の大きさだった。
角に置かれた本棚に並ぶ本を見つめる。
ソラ
(ふむふむ…
農業用の魔法に、地面を凍らせる魔法まで…)
その中の数冊を手に取り、店員に声を掛ける。
支払いを済ませるとソラは店を出た。
ソラ
「また散財しちゃった…
けどまぁいいや!」
彼女は軽い足取りで宿屋の方に歩き出す。
その時。
焦げ臭い何かの匂いが鼻をつく。
同時に、遠くからパチパチと乾いた音が聞こえてくる。
ソラ
「ん…?
この匂いは…」
ソラは音のした方を向く。
町の東。
あの方向には、確か森があった。
「火事だ!!森の方だぞ!!」
「誰か水を!!」
人々のそんな声が聞こえ、町は一気に騒ぎに包まれた。
ソラ
(森の方…?)
ソラは本を抱えながら町の東口へと走った。
東口の数十メートル先には、炎に包まれる森があった。
十人程の魔法使いが、炎に向けて水魔法を放っている。
ソラはその様子を呆然と見つめていた。
「おい!!森の中に取り残された人は!?」
森の中から逃げてきた人に、すぐさま別の誰かが声を掛ける。
「もう私以外には…あ、
確か、背の高い青年の人が一人、森の奥の方に…」
"背の高い青年の人"。
そういえば、今日はエリアスの姿を全く見ていない。
…まさか、
ソラは本を置くと杖を取り出し、すぐさま水魔法を炎に向けて放つ。
ソラ
「私も加勢しますっ!!」
(…嫌な予感がする。
エリアスさん…まさか…)
胸をざわつかせながらも、彼女は水の波動を炎へと放ち続けるのだった。




