Ep.14 魔宮
神代暦3525年、冬月10日。
フィル大陸西部、リーベル丘陵。
レデーナを後にしたソラ達は、またグルダリアを目指して旅をしていた。
海を遠くに見据えながら、丘陵を吹き抜けていくのどかな風と共に歩く。
見下ろす先には森が広がり、遥か彼方には大陸南西の海岸までもが目に入る。
ソラ
「よし。ここら辺でちょっと休憩しようよ。」
リュウガ
「そうだな。そろそろ昼時だ。」
二人はそう会話を交わし、近くの岩に腰を下ろすとそこに背中を預けた。
背中を通して岩肌の冷たさが伝わってくる。
リュウガ
「エリアス。お前も休もうぜ?」
エリアス
「あ、もうそんな時間か。」
エリアスは振り返るとこちらの方に歩いてくる。
そうして、リュウガ達の隣に腰を下ろした。
すぐ近くには一本の木が立っており、その枝には鳥の巣があるようだ。
数羽の小鳥が少し身を乗り出しているのが見える。
エリーゼはその鳥の巣の方をずっと見つめている。
ソラ
「気になるの?」
ソラは自身の腕に抱えられたエリーゼにそう声を掛ける。
エリーゼはソラを真っ直ぐに見つめ、頭を縦に振った。
リュウガ
「動物だからか分かんねぇが、何か気になるんだろうな。」
ソラ
「そうかもね…」
ソラはエリーゼの頭を撫でながらそう言う。
エリアス
「やっばい…眠い…」
リュウガ
「昼寝でもするか?」
リュウガは少しからかうように笑ってそう言った。
エリアス
「んー、まだ昼寝はいいかな。
どうせならもっといい所があるだろうし。」
ソラ
「それじゃ探す間にもっと眠くならない…?」
ソラは苦笑しながらそう言う。
エリアスは立ち上がると、少し辺りを見回した。
エリアス
「…あ、あれは……」
突然、彼はそう呟いた。
ソラ
「エリアスさん?何か見つけたの?」
エリアス
「あ、うん。
あそこに…」
彼はそう言って遠くを指差す。
そこは、少し高くなった丘の横に穴が空いている場所だった。
苔むした石畳が敷かれており、辺りには崩れた石造りの柱や装飾が転がっているのが確認出来る。
ソラ
「何だろ、遺跡?」
リュウガ
「お?何か見つけたか?」
エリアス
「…『魔宮』だね。
しかもあの感じだと…誰にも入られてなさそうだ。」
エリアスは目を凝らしながらそう言った。
ソラ
「ほんと!!?
私ずっと行ってみたかったの!!」
ソラはエリアスの言葉を聞き、目を輝かせながらそう言う。
ソラ
「行ってみてもいい?」
エリアス
「そうだね。もしかしたらお宝とかもあるかも…」
エリアスは明らかに悪い笑みを浮かべながら言った。
リュウガ
「おいおい…」
リュウガはそんなエリアスの姿に苦笑する。
そうして、三人は丘の洞穴へと歩き出した。
─────
洞穴の内部は真っ暗だった。
数メートル先すらも目視出来ない程だ。
近くにあった枝を拾い上げる。
エリアス
「〚 薄明の灯火 〛。」
エリアスがそう唱えると、枝の先に魔法の光が点く。
辺りが白く照らされ、地形を把握出来るようになった。
リュウガ
「エリアスって魔法も結構使えるのか?」
エリアス
「魔法って言っても、今みたいな冒険で役立つちょっとしたものばっかりだよ。
知識もそんなに無いし。
ほら、あんまり学が無いんだよ…」
エリアスは失笑して答えた。
エリアス
「ま、学校なんて行くより冒険の方がずっと楽しいからさ。」
ソラ
「ふふ、根っからの冒険者なんだね。」
リュウガ
「冒険バカとでも呼んでやろうか?」
リュウガの言葉にエリアスは吹き出してしまう。
それに釣られ、他の二人も笑い出した。
三人がそうしていると、
エリアス
「…と、どうやらこのダンジョンの住人さんのお出迎えみたいだ。」
ソラ
「お出迎え…??」
エリアスは暗闇の方を見つめている。
すると、その中から紫色の光がこちらを見ているのが分かった。
間もなく、数体の魔物が現れる。
ゴブリンの群れのようだ。
リュウガ
「魔物か…!」
ソラ
「そういうことね…!」
ソラとリュウガはそれぞれ戦闘の構えを取る。
エリアス
「僕は松明持ってるから戦えないよー。
エリーゼは僕が抱えとくから、二人で頑張ってね。」
彼は肩にエリーゼを乗せ、そんな事を言っている。
リュウガ
「はぁ!?お前も戦──
っ、と!」
そう言いかけた直後、リュウガの方に棍棒が振り下ろされる。
ソラ
「行くよ!!
〚 魔導閃波 〛ッ!!」
一筋の閃光が洞窟を駆け抜ける。
ゴブリンの群れの内数体が吹き飛んだ。
リュウガ
「俺も行くぜ!
〚 瞬連脚 〛ッ!!」
ゴブリンの一体に距離を詰めると、数発ほどの脚撃を放つ。
一体を倒し、また次へと向かう。
数分の内に、ゴブリンの群れは地面に倒れていた。
エリアス
「これで全部みたいだね。
二人ともお疲れ様!」
リュウガ
「お前戦ってなかっただろ…」
両手を払いながら、リュウガは苦笑してそう言う。
エリアス
「〚 光の息吹 〛。」
エリアスの手の中に淡い緑色の光が生み出される。
リュウガとソラにその手を当てると、二人の傷がすぐに回復した。
リュウガ
「回復魔法か。ありがとよ。」
ソラ
「ありがと。はぁー…癒される…」
リュウガ
「ソラも魔法得意だろ。
こういう感じで回復魔法とか使えるのか?」
ソラ
「学院生だった頃から神聖魔法は苦手でさ…
ほんとエリアスさんのお陰で助かってるよ。」
エリアス
「いやいやぁ、それほどでも。
さて、それじゃあ奥に進もうか。」
エリアスの言葉に頷くと、リュウガとソラも彼に付いて歩き出した。
─────
ソラ
「エリアスさん、これは?」
彼女は足元に置かれている古びた箱を指差す。
長年放置されていたのか、表面に苔が生えていたり、蔦も絡まっていた。
エリアス
「それは!!」
彼はその箱に駆け寄ると、しゃがみ込んでそれを見つめた。
エリアス
「かなり昔のものだ…
もしかしたら珍しいアイテムが入ってるのかも…」
キラキラと目を輝かせ、彼は箱をまじまじと見つめる。
リュウガ
「…なぁ、その箱が一体何だってんだ?」
エリアス
「これを知らないのかい!?
宝箱に決まってるじゃないか!!」
リュウガ
「た…宝箱…?」
エリアス
「これこそダンジョン探索の醍醐味だよ…
開けるまで中身も分からないし、
ましてや喰人の箱の可能性だってある。
このギャンブル性がたまらないんだよなぁ…」
エリアスはしみじみとしたような顔でそう呟く。
少しばかり困惑しながらも、リュウガとソラもその箱を見つめる。
ソラ
「何が入ってるんだろうね。
どうせなら開けてみようよ。」
ソラはおもむろに箱に手を掛け、開こうとする。
しかし、引っ張っても開く様子は無い。
ソラ
「あれ…こんな硬いもんだっけ…?」
エリアス
「…ソラ。
今、宝箱の中身の判定の魔法使ってみたんだけどさ…
その…離れたほうがいいと思うよ。」
ソラ
「え?」
次の瞬間、突然ソラの腕が宝箱の中に引き込まれる。
ソラ
「わっ!!
ちょ…助けてぇ!!!」
─────
ソラ
「はぁ…助かった…」
エリアス
「いやぁ…まさかミミックだったとはね。」
ソラ
「分かったんなら早く助けてよ…
まぁ無事だったしいいけど。」
リュウガ
「中々面白かったな。
エリアスが剣をミミックの口に挟み込んで力尽くで開いて、
ソラの腕を引っ張り出した所で俺がミミックを殴り飛ばして…」
ソラ
「あんな目に遭うのは二度とごめんだよ…」
ソラは苦笑しながら言った。
─────
また更に奥へと進むと、突き当たりまで辿り着いた。
どうやらここが最深部のようだ。
エリアス
「分かれ道も全部探索し切ったし、これで終わりで間違いなさそうだね。」
リュウガ
「やっぱお前、冒険関係の事には手慣れてるんだな。
何年くらい旅してんだ?」
エリアス
「あれ。言ってなかったかな。
8年くらいだと思うよ。」
リュウガ
「ちょっと待て…お前何歳だ?」
エリアス
「あはは。そんな混乱しないでよ。
年齢を訊かれても分からない。
旅してる中で忘れちゃったからね。」
エリアスは陽気に笑ってそう言う。
ソラ
「ダンジョンにも慣れてるし、やっぱ本当に冒険が好きなんだね…」
ソラは半ば呆れながらもそうエリアスに言った。




