Ep.11 勇者
神代暦3525年、秋月88日。
フィル大陸西部、エネリット街道。
エリアス
「エネリット街道だね。
ここを歩いていけば安全に大陸南部まで進める。」
リュウガ
「ありがてぇ…
平原ってことで開けた場所だし、魔物に襲われる心配は無さそうだな。
んー…
にしても、風が気持ちいいぜ…」
リュウガは大きく伸びをしながらそう言う。
風が空気を裂く音が聞こえる度、一面に広がる草が一斉になびく。
エリアス
「エリーゼはどんな感じ?
あの森に住んでたんなら、ちょっと慣れない環境だと思うし。」
エリアスはソラの腕の中に抱えられたエリーゼを見ながらそう声を掛ける。
ソラ
「この子は大丈夫そう。
普通にぐっすり寝てるよ。」
小さく息を立てながら眠るエリーゼを見て、ソラは少し微笑んだ。
リュウガ
「なんかお前らと居ると、マジで色々な事が起こるな。
ま、こんなのも悪かねぇか。
旅に出るってのはいいもんだな。」
エリアス
「でしょ?
やっぱみんなを旅に連れ出した僕に間違いは無かったね…」
エリアスは一人で誇らしげに頷き、笑顔を見せる。
ソラ
「付いてきたのは私達の方なんだけどなぁ…」
ソラはそんな彼に苦笑しながらそう言った。
ソラ
「にしても、こんな所まで来たのは初めてだよ。
学院に通ってた頃は、行ってもホーリッドとかその辺りまでだったし。」
ソラは後方に小さく見えるホーリッドの町を振り返り、どこか懐かしむようにそう言った。
リュウガ
「そういやあんま聞いてなかったが、ソラって学院の卒業生なんだな。
ラピスの魔法学院だろ?」
ソラ
「そうそう!
魔法とかは大体ラピスの町中で揃っちゃうし、必然的に遠くに行くことが少なかったんだよねぇ。」
リュウガ
「へぇ、そういう事だったのか。」
遠くにはいくつかの大きな風車がそびえ立ち、その巨大な羽を回している。
雲一つ無い青空から差す弱い陽光は、静かに冬の訪れを感じさせた。
エリアス
「にしてももう冬だね。
まぁ、今年旅するのは北部地方じゃないだけまだマシかな。
あそこはえげつない寒さだからね…
生半可な準備で行けば痛い目を見るよ。」
リュウガ
「うへぇ…そんな言い方すんなよ…
行きたくなくなっちまうぜ…」
ソラ
「出来たら夏とかの間に行きたいけど…」
エリアス
「まぁ今のところあっちに向かう予定は無い。
杞憂に終わればいいけどね。」
エリアスは遥か後方、遠くで薄く浮かび上がる山脈の影を見つめる。
北部地方との境目となるルドマーク山脈だ。
そんなエリアスを他所に、ソラは少し俯く。
ソラ
「…そういえばさ。
ホーリッドの町の人は勇者様がどうだーとか、魔王がーとか言ってたよね。
そして、私たちはあの森で六天魔族?の一人に出会った。
もしかしたら、魔王って本当に…」
リュウガ
「俺も噂くらいなら聞いたことがある。
…あの炎の魔族に魔王について問い詰めてみるか?」
険しい顔でそう会話する二人を見たエリアスは笑って口を挟む。
エリアス
「魔王ねぇ。
300年前とかには確実に存在してたらしいけど。
今は分かんないや。」
一息置いて、エリアスはこう続ける。
エリアス
「ただ、その時は『勇者』って呼ばれる人もいたんだって。」
リュウガ
「おいおい、現実はおとぎ話じゃねぇんだからよ…
どうせ魔王に立ち向かった奴にそういう称号が与えられたって話だろ。」
エリアス
「どうだかねー。
ま、少なくとも300年後の現代に生きてる僕らには分からない事だよ。」
エリアスは肩をすくめ、両腕を軽く広げてそう言った。
ソラ
「…勇者は、称号とかではないと思う。」
すると、静かに二人の会話を聞いていたソラが突然口を開いた。
リュウガ
「どうした急に…」
ソラ
「勇者は女神様が造った凄い人間だって、本に書いてあったのを見たことがあるんだ。
…本当かは分からないけど。」
ソラは少し俯き気味にそう告げる。
エリアス
「そうだね。
ルミナリア大聖教の教典には、確かそう書いてあったはず。」
エリアスはそうソラの言葉に付け加えた。
リュウガ
「残念ながら俺は無神論者なんでな。
神も勇者とやらも信じねぇよ。」
エリアス
「いいんじゃない別に。
他の人に強制するようなことが無ければ、僕は基本どんな宗教でも受け入れるよ。
ま、斯く言う僕も無神論者なんだけどね。あはは。」
そう言って彼は笑った。
エリアス
「…でも、本当に勇者というのが存在するなら、居てほしいのは事実だね。
嘘でも勇者が居れば人々は心理的に救われる。
"勇者様が助けてくれる"ってなるだろうし。
今の人類には、間違いなくそういう存在が必要だよ。
…っと、話が暗くなっちゃったね。ごめんごめん。」
エリアスはまた笑ってそう言い、話を切った。
ソラ
「大丈夫だよ。
ところで、次の町まではどれくらい?」
エリアス
「次の町か。ちょっと待ってね…」
エリアスは近くの小岩に腰を下ろすと、懐から地図を取り出す。
エリアス
「今が大体ここら辺だから…」
地図上の大体の現在地を指で押さえる。
大陸西岸部の街道を下ると、少し先に町の名前があった。
エリアス
「どうやらここが次の町だね。
と言っても村くらいの大きさみたいだけど。
宿屋はあると思うし、次はここに寄ろう。
大体4日とかで着けそうだね。」
リュウガ
「分かったぜ。
そうと決まりゃ、また歩くぞ。」
エリアス
「えー…
疲れたから休みたい…」
ソラ
「あはは…
もうちょっとだけ休む?」
ソラは苦笑しながらそう言う。
エリアス
「ほらソラだってこう言ってるし?
第一、僕らはそんな急いでる訳でもないからね。」
リュウガ
「う…
ま…まぁ確かにそうだけどよ…」
エリアス
「決まりだね。
じゃ、僕は寝るから。」
エリアスはそうとだけ二人に告げると、すぐ岩の上に横たわった。
目を瞑り、小さく息を立てている。
リュウガ
「…おい、本当に寝たのか?」
ソラ
「みたいだね…」
二人はエリアスの姿を呆然と見つめる。
リュウガ
「…なぁソラ。
何か…何だろう。
こいつって全く分からねぇな…」
ソラ
「…同感するよ。」
二人は苦笑を顔に浮かべながらそう話していた。




