49.短気は損気
最近の私は血の気が盛んだ。
今の私の目標は「神をぶっ飛ばす」。
…うーむ、これを教会の前で言ったら例え王女でも拘束待ったなしだろうな。
セレンに聞いたところ、カタリナという女神はトラブルが大好きらしい。それも世界戦争レベルの何かを待ち望んでいるとか。
戦いを司る女神に変えたらいいのでは。
なんか愚痴っぽくなってきた。
現在は教会に来ております。
アリスでは女神様最高!みたいな風潮があるので、みんな年に一回は教会に行っている。
無宗教でもいいけど、それだと変な目で見られる。同調圧力って怖いね。
まあそういうことで教会でお祈りしているのだが、私の信心はとっくのとうに尽きている。
女神に殺されてるし、ちょっと前から手を組んでいる女神を見ていると、全然信仰する気にならないのだ。
だってあいつ、もはや人間だもん。
全然荘厳な感じがしないし、庶民的な強い奴、みたいな認識でいい気がする。
そんな女神様を敬えって?無理に決まってるじゃないか。
暇だから愚痴を言っている、という次第であります。
「わっ」
突然肩を掴まれる。
一体誰だなんて考えながら後ろを向く。
「…どちら様ですか?」
見たことあるような無いような、端正な顔が見える。
とりあえず鑑定。
ふむふむ、マキオ・ホーリーと。
…。
……え?
マキオ・ホーリー?
途端に血の気が引く。
やばい、全然会わないから忘れていた。前に私、この人の逆鱗に触れてたわ!
「第一王女様でよろしいわよね?」
…この世で一番恐ろしい笑顔を見た気がする。
この人、二年経っても根に持ってんのか。怖すぎる。
「あ、ええと、人違いなのではないでしょうか?」
離れようとするも、肩を掴んだ手が離してくれない。
「聖騎士団本部まで、ご同行願うわ」
…ああこれ、思いっきり強制だ…。
やろうと思えば簡単に逃げれるけど、ずっと逃げ続けるわけにもいかない。
ここでけりをつけるしかない。
…でもなあ、嫌だなそれ…。
*****
「ヒルア様、不届き者を連れてきました!」
「どうぞ」
連れて行かれた先は真っ白な建物。
アリスの最北にある氷の城になぞらえて、聖騎士団の本部があるこの建物は雪の屋敷と呼ばれている。
観光目的で来る分には素晴らしい建物だけど、連行されてるって考えたら胃が痛くなる。
そんな建物の最奥の部屋に入らされる。
「こんにちは。あなたがセーレ嬢ですね?」
そこにいたのは、一人の少女だった。
「あ、はい」
とりあえず鑑定。
ヒルア・ジグニス、と。うむ、聞いたことがない。
「マキオさんが騒いでいるからどんな人なのかと思ったけれど、さしておかしな様子はないわよ?」
「いいえ、彼女は一度、わたくしの元から逃げ出しています。この危険分子を放ってはおけませんわ」
「あー、強いのね。でも、あなた昔から怒りっぽかったわよね。放っておいても良かったんじゃないの?」
「…」
うん、ここに私がいなくてもいいのでは?
マキオさんがめちゃくちゃ恐いから聖騎士団全体がこんなんかと思ってたけど、別にそう言う訳ではないっぽい。
マキオさんを宥めるのはこのヒルアという少女に任せといて、離脱しても良さそうだな。
この二年でマキオさんも成長したらしく、魔力は常人の何倍かになっていたけど、それでも私の魔力量の半分にも満たない。
あと、なんでか知らないけど本能がマキオさんから逃げるべきって叫んでるんだよ。
「古の宗教には輪廻転生という概念があるが、それは確かにこの世界に存在するシステムである。普通は一回の生が終わった時に記憶などはリセットされるが、前世の記憶を持ったまま生まれてくる者も少数ながらおり、彼らは知識が元からあるため天才児とされる場合もある。また、記憶が無くても恐怖や恋慕は魂に植え付けられており、本能レベルでそれを感知したりもしている」
あー、頭痛い。
前にマキオさんと遭遇した時から、時々脳内に文章が流れ込んでくる時がある。
ありがたいんだけど、頭は痛いし謎の不快感もあるからもう少し優しくしてほしいとは思う。
脳内にねじこんでくるのはちょっとやめてほしい。
まあしかし助かった。
私、マキオさんに食べられたことでもあるのかね?
そうこうしているうちにマキオさんのイラつきが溜まっていった。矛先は私。
…こっわ。
仕組みが分かってもマキオさんが苦手なのは変わらない。
うん、逃げない方がいいとは思ったけどやっぱ無理なものは無理だ。
剣を抜く音が聞こえる。
と、なぜか体が軽くなったような気がした。
鑑定してみると、どうやら私に治癒効果が付けられている模様。
ああ、ヒルアさんがつけたのか。
ヒルアという少女もマキオさんの喧嘩っ早さは理解しているようだ。
マキオさんが不敬罪になりそうでひやひやしているっぽい。
そういえば、そんなのも最終手段で使えたわ。
まあ、そんなことはしないけど。
そして、命の危険が迫ってそうだったら逃げる癖は健在だ。
即転移で離脱。
…うーん、一回ちゃんと話し合いたいけど、あの性格だったら無理そうだな。
どうしよう。




