45.恐竜
さて、そこから人里に向かうのを再開する。
わけではなかった。
なにせ、魔物は食糧である。
食べ物を素通りする空腹の人間がどこにいるかって話。
そして、魔物は強けれ強いほど美味しいと先生が言っていた。
美味しい果物が毒を身につけるのと同じ感じなのだろうか。
まあそれはともかく、調理に入る。
だが、ミツメウルフは巨大だ。私の2倍、3倍くらいの重さの動物の肉を、私が一回で食べ切れるはずがない。
多分、この夏休みはひたすらミツメウルフの美味しい食べ方を研究する期間になるだろう。
まずは簡単に焼いて食べてみようということで厨房を漁っていたら見事に沢山の調理器具を発見した。
一応、ここら辺はいたれりつくせりなんだな。
で、焼いて食べてみた。
塩を振っただけなのに、とんでもなく美味しかった。
食べたことはないけど、最高級の黒毛和牛と同じぐらいの味な気がする。
獣臭さが全くなく、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくる。
どこにでもあるはずの塩すらも今まで食べたことのないくらい美味しく感じる。
…すげーな、この肉。
これから先、ミツメウルフが食べ物にしか見えなくなりそうだ。
少し膨れたお腹を撫でながら、後片付けをする。
気分は一人暮らし。こうしていると、孤児院から出て初めて大学に行った日を思い出す。
遥か遠い記憶なのでバイトがキツかったなあ、くらいしか思い出せないけど。
ていうか、お風呂はどこにあるんだろ。
お風呂というか、シャワーか。
まあ体を洗うのは金持ちの特権的なところもあるし、なければそれでいい。
多分魔法でなんとかなる。
なんて考えてると、体が横に吹っ飛んだ。
多分スマ◯ラみたいに盛大に吹っ飛ばされてるな、私。
明らかに異常事態だが、異常事態すぎてもはや面白い。
探知で状況確認。
「うっわ」
大トカゲがいた。
イグアナの10倍ぐらいのでかさの、とんでもない魔物がいた。
ここまで言うとどんなんだかだれでも分かるだろう。
そう、魔物の見た目がまんま恐竜だった。
恐竜に詳しくないけど、多分この感じ肉食だな。
しかし、恐竜のフォルムの魔物は聞いたことないぞ。
こいつが見た目通り強かったら、魔法が使えるのを加味しても人類はここまで発展していないと思うのだけど。
鑑定して、この恐竜が最近から発生し始めたのを知る。
魔物が発生する原理はよく知らないけど、突然変異ってやつなのか?
まあ昔からいるわけではないのなら納得。
そうこうしているうちに私の体が岩の地面に投げ出される。
「った」
どうせ体にダメージを負うんだろうなあなんて思ってたのに、防御を張っていなかった。
もはや防御が日常から張られてるって認識しちゃってたのか。
ミスったなあ。
「治癒」
背中からお尻にかけての傷をとりあえず無くす。
「防御80%」
改めて防御。
怪我しても即座に治せる上にやばくなったら転移で逃げることができるし、そもそもバリアで攻撃は全くと言って良いほど通らない。
死ぬ可能性がほとんど無いって思ったら、気が抜けてくる。
油断は大敵なんだけどなあ。
家はいつのまにか小さくなっていた。
負荷が一定以上かかると小さくなる仕様なんだろうか。とんでもなく便利だ。
…しかし、改めて見ると恐竜と呼ぶには小さい感じがする。
イグアナの10倍と言っても、象よりは大きいかな?って程度。
映画で見るようなとんでもなくでかいーそれこそティラノサウルスみたいな感じではない。
うーむ、拍子抜け。
まあ鑑定結果を見るにミツメウルフと同じぐらい強いんだけどね。
それにこの恐竜、恐竜の癖して魔法特化型っぽい。
魔法特化型には魔法を使えなくするのが一番効く。
ということで、とんでもなく短気な教会の人の魔法を使ってみる。
あの人の名前なんだっけ、マなんとかだったんだよな。
それはともかく『精霊に愛されし乙女』、もとい魔力操作魔法を使ってみる。
と、恐竜が魔法を放ってきた。
当たったら体に穴が空いてしまいそうな熱光線がバリアに当たる。
ハッハー残念。私の防御は私の魔力が続く限り最強なのだー!
なんて言っている間に恐竜が不機嫌になっている模様。
心の声が聞かれてるとは思えないから、自慢の技が弾かれて悲しくなったのかな。
「静まれ魔力」
対象は恐竜の体内に循環している魔力。
恐竜が放とうとした熱光線が、魔力の抑制によって無かったことにされた。
おお、成功してるっぽい。
『精霊に愛されし乙女』が魔力を操作できる魔法なら、魔力を吸収することも出来るかもしれない。
もし出来たら結構強いのでは?
攻撃手段である魔法を封じられ、相手は自分の魔力を使ってこちらを攻めてくる。
え、強。
魔力を私に取り込むのを意識。
恐竜の魔力に私の魔力だ、と上書きする感じかな?
すると、恐竜の魔力がぐんぐん減っていく。
と同時に恐竜から減った分私の魔力増えていく。
体の内から力が溢れてくる感じがする。
ああ、魔力を吸収するのってこんな感じなんだ。
恐竜の魔力の数字がゼロになった。
だが、恐竜は口を開く。
…魔力が無くなったのに魔法を放とうとしているのか?
出来ないとは分かっていても、私の勘が危険を察知する。
「防御100%」
超音波のような、耳障りな音が耳を逆撫でた。
「っ…!」
耳と頭が痛い。くらくらする。
なるほど、このバリアは音や光は遮断されないからこういうこともあるのか。覚えておこう。
「治癒」
鼓膜が死んだようなので、治癒しておく。
と、私の周りが水になった。




