第十章 世界は月曜日からできている
三月。
美咲は、海外の読者とオンライン交流会を開いた。
参加者は、日本語を学ぶ学生、短歌に興味を持つ詩人、日常の言葉を大切にする人たち。
それぞれの国から、さまざまな歌が寄せられた。
ある人は朝の通勤電車を詠んだ。
ある人は子どもと食べる夕食を詠んだ。
ある人は、故郷の海を詠んだ。
ある人は、遠く離れた家族への思いを詠んだ。
美咲は参加者に尋ねた。
「皆さんにとって、歌を書くことはどんな意味がありますか?」
一人の女性が答えた。
「毎日の中で、見過ごしてしまいそうなものを見つけることです」
別の男性は言った。
「誰かに言えなかった気持ちを、詩にすることで伝えられます」
美咲はうなずいた。
言葉も文化も違う。
暮らしも考え方も違う。
けれど、誰かを思う気持ちや、明日を少しよくしたいという願いは、どこかでつながっている。
交流会の最後に、美咲は一首を朗読した。
海の向こう
同じ朝日を
見ていると
知れば世界は
少し近づく
画面の向こうから拍手が聞こえた。
悠人は隣で、少し照れくさそうに笑っていた。
その夜、二人はいつもの食卓で夕食を食べた。
「今日は楽しかったね」
美咲が言うと、悠人はうなずいた。
「うん。でも、やっぱり家のご飯が一番だな」
「海外の料理もおいしいよ」
「そうだけど、僕は美咲の味噌汁が好きだ」
「それはインスタントです」
「愛情が入っているから大丈夫」
美咲は笑った。
世界とつながっても、二人の暮らしは変わらない。
朝起きて、働いて、帰ってきて、ご飯を食べる。
そして、ときどき歌を書く。
それが美咲の人生だった。




