第九章 『海を越える、日々のうた』完成
年が明ける少し前。
ついに、夫婦合作短歌集が完成した。
タイトルは、
『海を越える、日々のうた』
表紙には、青い海と小さな花が描かれている。
中には、美咲と悠人の夫婦短歌、彩香の自然の歌、千春さんの人生の歌、そして仲間たちの日常の言葉が収められた。
日本語の短歌に加え、英語訳と短い解説も掲載した。
翻訳は、五七五七七の音数を無理に再現するのではなく、歌の景色や感情を大切にした。
完成した本を手に取った悠人は、何度も表紙を眺めた。
「本当にできたんだな」
「うん。みんなのおかげだね」
真理は編集後記を書き、田中さんはオンラインで紹介するページを作った。
彩香は町の風景写真を提供した。
千春さんは、若い頃からの夢を込めた作品を寄せた。
そして美咲は、巻頭に短い言葉を添えた。
「短歌は、特別な人だけが作るものではありません。毎日の暮らしの中で感じたことを、ほんの少し言葉にしてみる。それだけで、誰かとつながる小さな橋になるのだと思います。」
本は小さな出版社を通じて頒布され、海外の日本文化交流団体にも届けられることになった。
大きなニュースになるわけではない。
何万部も売れるわけでもない。
けれど、確かに一冊の本が、誰かの手に渡っていく。
美咲はそれだけで十分に幸せだった。




