第七章 海の向こうの読者
秋のある日。
海外の日本文化交流イベントで、美咲の短歌が紹介された。
会場では、日本語の原文と英語訳が並べて展示された。
紹介された歌は、あの月曜日の歌だった。
月曜日
会社の時計
見つめつつ
心の中は
日曜のまま
英語訳には、音数ではなく、休みの日の心がまだ残っているという情景が表現されていた。
イベントの担当者から写真が届いた。
そこには、展示の前で立ち止まり、歌を読んでいる人々の姿が写っていた。
そして数日後。
美咲のもとに、一通のメールが届いた。
差出人は、海外の大学で日本語を学んでいる女性だった。
彼女は、翻訳された短歌を読んで、こんな感想を送ってくれた。
「私も月曜日が苦手です。仕事に行く朝、心だけはまだ日曜日にいたいと思います。日本語の短歌を読んで、遠い国の誰かと同じ気持ちを持っていると知りました。あなたの歌を読めてうれしかったです」
美咲は何度もその文章を読み返した。
遠い国の、会ったこともない人。
けれど、同じ月曜日を思い、同じように小さなため息をついている。
美咲は返信を書いた。
「読んでくださってありがとうございます。私も月曜日が苦手です。あなたの毎日にも、花が咲く時間がありますように」
その夜、悠人にメールを見せた。
悠人は嬉しそうに言った。
「すごいな。美咲の歌が誰かの心に届いたんだね」
「うん。なんだか不思議」
「じゃあ、僕の歌も送ってみようかな」
「どの歌?」
悠人は自信満々にノートを開いた。
妻の機嫌
天気予報より
難しく
晴れの日続く
祈る毎日
美咲は無言でノートを閉じた。
「世界に出す前に、家庭内審査があります」




