第五章 彩香の町、風の歌
初夏。
美咲と悠人は、地方に移住した友人の彩香を訪ねた。
彩香の住む町は、山と川に囲まれた静かな場所だった。
朝は鳥の声で目が覚める。
庭には野菜が育ち、夕方には山の向こうに夕日が沈む。
「都会の生活とは全然違うね」
美咲が言うと、彩香は笑った。
「最初は不便だったよ。でも今は、この不便さも好きになってきた」
悠人は畑を見て感心していた。
「すごいな。野菜ってこうやって育つんだ」
彩香が笑う。
「スーパーの棚から生えてくるわけじゃないよ」
「それくらい知ってるよ!」
美咲は二人の会話を聞きながら、ノートを開いた。
川の水音。
風に揺れる草。
土の匂い。
遠くの山にかかる雲。
都会では気づかなかったものが、ここにはたくさんあった。
彩香も短歌を書き始めていた。
山の風
洗濯物を
揺らしつつ
今日も私は
土と暮らせり
「素敵な歌だね」
「ありがとう。美咲の影響かな」
彩香は笑った。
「この町の景色も、いつか海外の人に紹介してみたいな」
美咲はうなずいた。
「じゃあ、私たちの短歌集に載せようよ」
「いいの?」
「もちろん。都会の歌も、田舎の歌も、みんな違って面白いから」
その夜、三人は縁側で星を見上げた。
悠人がぽつりと言った。
「世界って、思っていたより広いんだな」
彩香が答える。
「でも、暮らしって、どこにいても似ているのかもね」
今日の一句
山の町
川のせせらぎ
星の夜
遠く離れて
心は近し




