第三章 夫婦歌人、世界進出計画
日曜日の午後。
美咲と悠人は、近所のカフェで向かい合っていた。
テーブルにはノート、スマートフォン、コーヒー、そして悠人の持ってきた謎の企画書。
表紙には大きく書かれていた。
『夫婦歌人・世界進出計画』
美咲は額に手を当てた。
「悠人、これは何?」
「僕たちの未来の企画書だよ」
「ずいぶん壮大ね」
「まずは夫婦合作短歌集を作る。次に海外の人と交流する。そして世界の人に読んでもらう!」
「最後は?」
「世界平和!」
美咲は吹き出した。
「短歌集から世界平和まで、距離がありすぎる!」
悠人は真剣だった。
「でもさ、歌って、人の気持ちを知るきっかけになると思うんだ」
美咲はうなずいた。
「うん。私もそう思う」
二人は夫婦合作短歌集の企画を始めることにした。
タイトルは、
『ふたりで五七五七七』
テーマは、夫婦の日常。
朝の寝坊。
夕食の献立。
洗濯物。
休日の散歩。
小さな喧嘩。
仲直りのコーヒー。
そして、何よりも大切な「一緒に暮らす」ということ。
悠人は最初の一首を書いた。
妻の歌
世界に届く
その日には
僕の寝ぐせも
翻訳される
美咲は笑いながら返歌した。
世界より
まずは洗濯
お願いね
山積みのシャツ
海より深し
「それは厳しい!」
「現実は厳しいのです」
二人の合作短歌集は、少しずつ形になっていった。




