↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令和女流歌人・花村美咲の和歌日記365日 ~三十歳、独身、会社員。笑って、怒って、恋をして。今日も五・七・五・七・七~  作者: さざ波和音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第二章 千春さんの引き出し

 ある土曜日、美咲は千春さんの家を訪ねた。


 千春さんは六十代の短歌愛好家で、美咲にとって大切な師であり友人でもある。


 小さな庭には季節の花が咲き、縁側には古い本が積まれていた。


「海外で短歌を紹介してもらえるんですって?」


 千春さんは嬉しそうに笑った。


「はい。でも、翻訳って難しいですね」


「そうね。短歌は日本語の音や余白も大切だから」


 千春さんは本棚から一冊の古いノートを取り出した。


 表紙は少し色あせている。


「これは、若い頃に書いたものよ」


 中には、若い千春さんの短歌がたくさん記されていた。


 ページの隅には、海外の街並みや見知らぬ言葉のメモもあった。


「千春さん、海外に行きたかったんですか?」


「ええ。若い頃、外国の文学や詩に夢中だったの。いつか日本の短歌を外国の人に紹介したいと思っていたのよ」


 千春さんは窓の外を見つめた。


「でも、仕事や家族のことがあってね。いつの間にか、その夢を引き出しにしまってしまった」


 美咲はノートをそっと閉じた。


「まだ遅くないですよ」


 千春さんは笑った。


「そうね。あなたが海を渡るなら、私も一緒に行ってみようかしら」


「一緒に?」


「オンラインでもいいし、いつか実際にね。私も、もう一度歌を届けてみたくなったの」


 その日、千春さんは一首を読み上げた。


 遠い日の

 夢をしまった

 引き出しに

 春の光が

 また差し込めり


 美咲は胸が熱くなった。


 人は何歳になっても、新しい夢を持っていい。


 三十六歳の美咲は、六十代の千春さんから、そんな大切なことを教わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。