第一章 五七五七七は世界に通じるのか
数週間後、美咲はオンライン会議に参加していた。
画面には、海外の日本文化交流団体の担当者、翻訳者、イベントスタッフが並んでいる。
担当者の女性が笑顔で話しかけてきた。
「花村さんの短歌は、日常の中にある小さな感情がとても魅力的です」
美咲は少し緊張しながら答えた。
「ありがとうございます。私は、会社や家庭で感じたことを歌にしているだけなんです」
翻訳担当の男性が尋ねた。
「この歌にある『日曜のまま』という感覚は、英語でどのように表現したらよいでしょう?」
美咲は考えた。
日曜日のまま。
休みが終わってしまう寂しさ。
月曜日が始まる憂鬱。
それでも、心だけは自由でいたいという小さな願い。
単純に言葉を置き換えるだけでは、伝わらない気がした。
「日曜日という言葉だけではなくて、休みの日の心が、まだ自分の中に残っている感じなんです」
翻訳者はうなずいた。
「なるほど。言葉を直訳するより、気持ちを伝えることが大切ですね」
そのとき、美咲は気づいた。
日本語の五七五七七という音数は、日本語だからこそ生まれるリズムなのだ。
外国語に同じ音数を押し込めても、同じ歌にはならない。
けれど、歌に込めた感情や情景は、別の言葉でも伝えられるかもしれない。
会議が終わったあと、美咲は悠人に話した。
「短歌って、言葉を翻訳するだけじゃないんだね」
「じゃあ、何を翻訳するの?」
「心かな」
悠人はしばらく考えた。
「それなら僕にもできるかもしれない」
「どういう意味?」
「美咲が怒っているときの心を翻訳すること」
「それは危険な仕事です」
今日の一句
音数は
海を越えれば
形変え
心の景色
そっと伝わる




