第四章 歌集『月曜日にも花は咲く』のその後
十月 読者からの手紙
美咲のもとに、手紙が届いた。
差出人は、地方に住む四十代の女性だった。
「花うた様。
私は毎日仕事と家事に追われています。
いつも疲れてばかりでしたが、あなたの歌を読んで、私だけではないのだと思いました。
特に、半額シールの歌が好きです。
私もスーパーで半額を見つけると、少し幸せになります。
これからも歌を楽しみにしています。」
美咲は手紙を胸に当てた。
自分が何気なく詠んだ歌が、遠くの誰かの心を温めていた。
読者の歌
遠い町
届いた手紙
春の風
知らない誰かと
同じ空見る
十一月 地域の図書館からの依頼
短歌イベントで美咲を知った図書館の職員から連絡があった。
「地域の文化祭で、短歌の展示をお願いできませんか?」
美咲は驚いた。
展示する作品は十首ほど。
テーマは「働く人の小さな幸せ」。
会社員の日常を詠んだ歌を中心に選ぶことにした。
悠人は言った。
「いよいよ地域デビューだね」
「そんな大げさなものじゃないよ」
「でも、すごいことだよ」
展示の歌
小さな歌
図書館の壁
飾られて
誰かの足を
止められたなら
十二月 文化祭の展示会
地域の文化祭当日。
図書館の一角に、美咲の短歌が展示された。
子どもたちが立ち止まる。
年配の人がゆっくり読む。
会社帰りの人が、スマートフォンで写真を撮る。
その中に、小学生の女の子がいた。
女の子は、母親に言った。
「この歌、面白いね。お母さんも会社でこんなことある?」
母親は笑った。
「あるよ。毎日いろいろね」
美咲はその様子を見て、胸がいっぱいになった。
自分の歌が、親子の会話を生んでいる。
それは、何よりうれしいことだった。




