第三章 悠人、まさかの短歌デビュー
七月 夫の秘密のノート
ある休日。
美咲が本棚を整理していると、一冊の小さなノートが見つかった。
表紙には、悠人の字でこう書かれていた。
『短歌練習帳』
「悠人、これ何?」
悠人は慌てた。
「いや、その……」
「短歌?」
「美咲が楽しそうだから、僕も少し書いてみたんだ」
美咲はノートを開いた。
そこには、悠人が詠んだ歌が並んでいた。
妻の歌
聞いてうなずく
夜の部屋
食器の山が
明日を待ってる
美咲は大笑いした。
「なかなか面白いじゃない!」
悠人は照れくさそうに笑った。
「僕だって、日常を詠めるんだよ」
夫の歌
夫までも
歌人になりし
夏の夜
我が家の会話
五七五七七
八月 夫婦短歌対決
二人は、夕食後に短歌を作ることにした。
お題は「夏」。
美咲の作品。
夕立に
駆け込む店の
軒先で
知らない人と
空を見上げる
悠人の作品。
冷蔵庫
開ければそこに
麦茶あり
妻の笑顔も
冷えて待ってる
美咲は感心した。
「意外といいじゃない」
「意外とは何だよ」
「でも、最後のところは少し甘いね」
「夫婦だからね」
夫婦対決の歌
競い合う
言葉の勝負
夏の夜
勝ち負けよりも
笑いが勝った
九月 悠人、短歌会に参加する
悠人は、千春の短歌会に参加してみることにした。
最初は緊張していたが、参加者たちは温かく迎えてくれた。
千春は悠人の作品を読んだ。
「ご夫婦の日常が伝わってきますね」
悠人はうれしそうだった。
帰宅後、美咲に言った。
「短歌って、思ったより楽しいね」
「でしょ?」
「僕も歌集を作ろうかな」
「題名は?」
悠人は少し考えた。
「『妻に怒られる前に』」
「却下です!」




