第一章 初めての短歌イベント
一月 招待状が届いた
昨年末に届いた編集スタッフからの手紙。
美咲は、短歌イベントへの参加を正式に申し込んだ。
イベントの名前は、
「ことばの花祭り・全国短歌交流会」
全国から短歌愛好家が集まり、作品を発表したり、朗読したり、交流したりする催しだ。
美咲は参加者紹介のプロフィールを考えた。
「会社員歌人・花うた。日常の小さな喜怒哀楽を短歌にしています」
書いてみると、少し恥ずかしい。
「会社員歌人かあ……」
悠人が言った。
「いいじゃない。名刺も作ったら?」
「名刺?」
「そう。花うた先生」
「先生はやめて!」
名刺の歌
名刺には
歌人と書いて
照れ笑い
会社の肩書き
係長のまま
二月 朗読の練習
イベントでは、作品を一首朗読することになった。
美咲は自宅で練習を始めた。
「月曜日、目覚まし時計、鳴り響く……」
声が小さい。
「夢の続きは、金曜に見る」
今度は少し大きく読んだ。
悠人が拍手した。
「いいね!」
「本当?」
「うん。最後の金曜が特にいい」
「そこだけ?」
美咲は何度も練習した。
最初はぎこちなかったが、次第に言葉に気持ちが乗るようになった。
朗読の歌
声に乗せ
言葉を届ける
練習日
照れた心も
少しずつ咲く
三月 会場での出会い
イベント当日。
会場には、さまざまな年代の人が集まっていた。
学生、会社員、主婦、退職後の人、専門的に短歌を学ぶ人。
美咲は受付で名札を受け取った。
「花うたさんですね。お会いできてうれしいです」
声をかけてくれたのは、同じイベントに参加する女性だった。
名前は、月島千春。
六十代の短歌愛好家で、長年、地域の短歌会に参加しているという。
「あなたの歌、読ませていただきました。会社員の日常がとても面白いですね」
「ありがとうございます。まだまだ勉強中です」
千春は優しく笑った。
「短歌はね、人生のどの年齢からでも始められるのよ」
美咲は、その言葉が心に残った。
出会いの歌
初めての
会場に咲く
言葉の花
知らない誰かと
心がつながる




