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令和女流歌人・花村美咲の和歌日記365日 ~三十歳、独身、会社員。笑って、怒って、恋をして。今日も五・七・五・七・七~  作者: さざ波和音


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第一章 匿名歌人、美咲の小さな人気

 一月 通勤電車の歌人


 美咲は、毎朝の通勤時間を短歌を書く時間にした。


 電車の窓から見える景色。

 眠そうな乗客。

 スマートフォンを見つめる人々。

 駅のホームで走る会社員。


 ある朝、電車が急停車した。


 車内アナウンスが流れる。


「安全確認のため、しばらく停車いたします」


 美咲は時計を見た。


 始業時間まで、あと二十分。


 通勤電車の歌


 満員の

 電車の中で

 息をして

 今日も私は

 社会に向かう


 投稿すると、思いがけず多くの反応があった。


「わかります!」

「毎朝これです」

「会社に着く前に疲れますよね」


 美咲はスマートフォンを握りしめた。


「みんな、同じように頑張っているんだな」


 二月 会社員歌人、誕生


 ある日、投稿サイトでメッセージが届いた。


 差出人は、短歌投稿サイトの編集スタッフだった。


「日常の観察が面白く、言葉に親しみがあります。ぜひ特集企画に参加しませんか」


 美咲は画面を何度も読み返した。


「えっ、特集?」


 悠人に見せると、彼は目を丸くした。


「すごいじゃないか!」


「でも、私なんかでいいのかな」


「美咲の歌を読んで、声をかけてくれたんだよ」


 美咲は、参加を決めた。


 小さな知らせの歌


 誰かから

 届いた言葉

 春を呼ぶ

 私の歌にも

 翼が生えた


 三月 初めての掲載


 特集ページに、美咲の短歌が掲載された。


 ペンネームは「花うた」。


 掲載された歌は、会社員の日常を詠んだものだった。


 掲載作品


 月曜日

 目覚まし時計

 鳴り響く

 夢の続きは

 金曜に見る


 美咲は、会社の昼休みに何度も掲載ページを見た。


 後輩が声をかけてきた。


「花村さん、何を見ているんですか?」


「ちょっとね。趣味のページ」


「楽しそうですね」


 美咲は笑った。


 まだ、自分が歌人であることを会社の人には話していなかった。


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