第五章 美咲、歌人になる?
十二月 昔の夢が目を覚ます
年末。
美咲は本棚の整理をしていた。
すると、学生時代のノートが出てきた。
そこには、昔書いた短歌がいくつも残されていた。
恋の歌。
失恋の歌。
雨の日の歌。
将来への不安を詠んだ歌。
美咲は懐かしくなった。
「そういえば、私、短歌を書くのが好きだったんだ」
悠人がのぞき込んだ。
「今も書けばいいじゃない」
「でも、忙しいし、上手でもないし」
「上手かどうかより、美咲が楽しいかどうかじゃない?」
その言葉に、美咲はノートを抱きしめた。
十二月中旬 初めての投稿
美咲は、短歌を一首書いた。
会社員としての日常。
家事のこと。
夫婦の会話。
小さな喜びと不満。
題名は『働く私の小さな歌』。
短歌投稿サイトに、匿名で作品を投稿してみた。
投稿した歌
満員の
電車に揺られ
朝が来る
それでも今日は
昨日と違う
投稿ボタンを押したあと、美咲は少し緊張した。
誰かに読まれるのだろうか。
誰かの心に届くのだろうか。
十二月下旬 届いた小さな感想
数日後。
投稿した作品に、感想が届いていた。
「毎朝の通勤風景が目に浮かびました。私も同じ気持ちです」
美咲は画面を見つめた。
自分の日常を詠んだ歌が、誰かの心に届いた。
それだけで、胸がいっぱいになった。
「悠人、見て!」
「どうしたの?」
「私の歌に感想が来たの!」
悠人は画面をのぞき込んだ。
「すごいじゃないか」
「なんだか、うれしい」
「続けたらいいよ。美咲の歌を待っている人がいるかもしれない」
美咲は、次の歌を書き始めた。
夢の歌
小さくも
胸に残った
夢ひとつ
今日からそっと
育ててみよう




