表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック ――魔法使いたちの//クロスロード 異世界トリップ篇(D篇)単独掲載版――  作者: 庭廷梛和
第二章 狐の懸想曲 【赤狐さまはご執心】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/41

【tp33】正直者たちの二十(はち)時過ぎ。目覚めと約束

――No reception but Epilogue――

 額に載せられている、生温い重みが離れた瞬間、俺の意識が戻っていた。

 まるで蓋を外されたみたいに。

 直ぐには口を(ひら)けない。口先から、喉の奥底まで干上がって、痛むなんてものじゃなかった。

 

「気が付かれたようね。具合、相当よくないのよ。⋯⋯水は飲める?」


 探るような、硬い声がした。薄暗くても、わかる。ペギーだ。

 それと同時に、冷たく滴っていたタオルが、顔を(ぬぐ)ってくる。心地よすぎて、ようやく瞬きを返す。

 それを肯定とみなされたらしい。起き上がりかけた背中を、ペギーの右手で(もっ)て、そっと支えられる。


 彼女の左腕が差し出してくれた、持ち手のある白いカップを、丸い指で掴む。小さな手のひらに籠もっていた熱が、白磁の焼き物をいっぱいにしていた冷たさと入れ違いになり、そのまま喉の奥へと落ちていく。


「⋯⋯今、何時」

「夜の八時。少し過ぎたところよ」


 はちじ。まだまだ回っているとは言い難い頭に、ゆっくりとしたペギーの返事が巡る。

 レベッカのなりをした俺が、ぼんやりしすぎているのが、不安に思われたのかもしれない。包帯を巻いた指が、両手と器の支えに入ってきた。


「⋯⋯よせよ、おとさないから、」

「大丈夫とでも? 見えないからね、ずっと高い熱のままでいたんだし」

「でも、起きれたし。俺、子供じゃない」


 幼女(レベッカ)扱いされたくない。そんな一念で、ひび割れまくりの囁きで反論すると、呆れた風な言葉が、即時で手渡される。


「だから(たち)が悪いのよ。水を飲んだら休んでなさいよ。お嬢様も、あなたも、まだ寝ているべきなんだから。⋯⋯私もだけどね。鋏でつけた傷、責任を取ってもらいますから」


 はさみ⋯⋯? なんの? 数秒経っても追いつけなかった思考が、険しい顔になったペギーによって、睨まれる。


「⋯⋯あっきれた。二人して、すごい剣幕だったのに。ポーリャ殿は、覚えてないの? レベッカ様も?」


 棘付きのセリフ。俺の手から()(さら)った、中身が半分以上残る茶器を、側机にカチンと置くと、部屋の明かりを改めて灯した彼女が、振り向きざまに、襟元の生地を引いた。

 日焼けしていないペギーの首筋が露わになるかわりに、巻かれていた包帯が、視界に飛び込んでくる。どこか色めきだった予兆とともに、頭に上りかけていた血が、一息に落ちたのが、自分でも分かった。


 彼女のか細い首に、《鋏》を突きつけた手触りをようやく思い出して、ツイ。どうすべきなのか掴みきれないまま、俺は視線を泳がせる。


「――ごめん」「謝罪は要らないよ。痕が残るほどじゃなかったから」

「⋯⋯⋯⋯」


「包帯だって、兄様がうるさく言うから巻いただけ。手当なんて、本当はなくても、平気なくらいなんだもの。――ポーリャ殿は、どのあたりまで覚えてる?」

「⋯⋯レベッカ様が、泣き出したくらいまでは」

「なら、ほとんど大体、か。どうして逃げ出そうとしたの?」

「どうしてって、それはあんたが」

「私が?」


 あっけらかんとした口調が反転した、冷や水としか思えない口ぶりを、浴びせ掛けられて、俺は押し黙る。

 いくつもの行き違いがあったことを、今から、きちんと解きほぐして、過不足なく伝えられるだろうか。


 自問自答するまでもなく、できそうな自信なんて、まるきり欠けていた。そんなひと刹那を経て、最後に呼び起こされた口(ごも)りを、どうにも処理しあぐねている俺に、お仕着せの襟を整え直した少女は、あからさまなため息を零してみせた。


 いずれにしても、こうなった発端は彼女の方からなのだ。だからこそ、ペギーだって、いくらかは弱っていたに違いない。少しだけ拡がりかけた、(スミレ)色の瞳孔と、その目の中から、なにかを探り当てようとしていた俺の視線が絡まる。


「統のことも、《鋏》のことだって、俺の独断。だから、レベッカ様を叱らないでやって。それと、次にこの子が起きてきたら」

「私からも謝ってほしい?」

「うん。レベッカ様は全然割り切れてないみたいだしね。彼女の夢、小さい子が見るにしてはさ、結構、酷かったんだ」


 俺のほうは夢ってわかってたから、わりかし、なんとも無かったけどね。


 荒れた喉の奥で、引っかかっていた、譲歩のためのそら言を、どうにか舌の上まで引き上げ、転がしてやりながら、続ける。

 胸中に詭弁を忍ばせたまま、落ち窪んだ目元の上に苦笑いを浮かべた俺へあわせてか、今度こそ完全に毒気を抜かれた声で、ペギーが応じてきた。


「いやだって言ったら?」

「言うの? それ、想定外なんだけど」

「ポーリャ殿自体が想定外よ、私としてはね」

「ひでえ言い草。⋯⋯あ。レベッカ様が、起きそう。水、おかわりしても――」


 むず痒く震え始めている、口元。産毛と変わらぬくらいに不確かなその感覚を指し示そうと、頼りなさ気な指先を、まだ乾いたままの唇に()わせると、俺は、尋ねた。


「――いい?」

「いいに決まってる。⋯⋯レベッカ様、お加減はいかがですか?」


 恐る恐るを体現したかのような、絞り込まれた声と共に、レベッカの侍女(マーゴット・アデリー)が、眉根を寄せながら、俺の正面までにじり寄ってくる。

 額が触れ合いかねない距離に、渡してもらったばかりのカップを口にしかけた格好で、馬鹿正直に固まってしまった、お嬢様姿の俺の(ひわ)色の瞳が、ペギーの菫色の虹彩の中で、上目遣いのまま、大きく一度だけ、(またた)いた。(まばた)きをさせたのは、俺じゃない。レベッカだ。


「へいきよ、ペギー。あたま、すごくいたいけど」


 俺といっしょくたになって、ひとしきり(うな)ったあとで、案外しゃんとした口調を示したレベッカに向かい、ペギーが覗かせたのは、明らかな安堵のように、俺には思えた。


「熱がありますからね、雨に打たれて、冷え過ぎて仕舞われたんです。でも、じきによくなるはずですから」

「⋯⋯なら、リベ、起きててもいい? 笙真君に会いたい」


 侍女が羽織らせてくれた、若草色カーデの袖口を、銅色(あかがね)の髪と同じように、肩先から垂らしたまま、お嬢様が呟く。

 聞かん気だけで出来ている、大層な頑固者に違いない、口振りだった。


「――それは明日の朝にしましょうか」

「いやよ。どうして?」


 言い淀む少女に、噛みつくような勢いで、レベッカが言葉を被せた。いかにも苦り切った(てい)で、ペギーが言葉を探り探り、(こた)えてくる。


「宮代笙真はまだ、起きれてもいないんです。レベッカ様。出水先生がついていますから、心配は要らないと思いますけれど」

「おきれても⋯⋯? でも、ポーリャは起こしてあげてって」

「ペギー。俺にも説明、させてもらえる? 『明かし』や夢の中のことなら、あんたより、俺のほうがきちんと伝えられるはずだし」

「どうぞ」


 一向にギアの合いそうにない、女の子二人のやり取り。レベッカの苛立ちと魔力を、押し付けられそうになって、たまらず割り込んだ俺に、ペギーがほとんど即答する形で、乗っかってきた。すぐさま謝意を(ひょう)す。


「サンキュー、ペギー。⋯⋯あんな、レベッカ様。笙真は、起きれるようになるまで、少し時間がかかるんだ」

「少し? それっていつ? 今日はだめってこと?」


 レベッカからダイレクトに届く内圧を、頭痛といっしょに感じ取りつつ、俺は彼女が爆発することなしに、理解できるよう、後退りするような心持ちで、とにかく、言葉を組み立てることにした。


「うん、早くても明日、かな。『読み』が勝手に突っ走ってっちゃうだろうから――。笙真が落ち着けるようにして、あいつが自分で起きられるまで、できるだけ、部屋を暗くして、そうっとしてやるしかないんだ。魔力切れと両方だから、目が覚めるとしても、そうだな。一日二日(いちんちふつか)か、三日は要るだろうしね」「三日も!? そんなにまてないよ! リベ、笙真君が心配だもん⋯⋯!」

「俺だって心配。でも、レベッカ様が騒ぐのは、今の笙真には、ちょっとばかし、(きび)⋯⋯キツイと思う。今、俺たち、頭、痛いだろ? それよりもずうっと苦しい思いを、笙真にさせちまうんだ。だから、だめ。⋯⋯静かにできるなら、明日の朝かそのあと、少し顔を見るくらいは平気だと思うけどね」


 強く口走りながら、魔法の《鋏》を無理やり呼びつけにかかる、レベッカ。彼女に巻き込まれて、頭痛が二段ほど激しさを増した。

 俺たちの目に、涙の膜を張らせた痛み。酷すぎるそいつを引き合いに、俺は、彼女が安心出来るよう、可能な限り落ち着いた言い回しを、ほとんど歯噛みがてらに、連ねてやる。


「嘘じゃない?」

「ないよ。俺の思ってること、レベッカ様には、ちゃんと、わかるでしょ?」

「⋯⋯⋯⋯わかる。でも、リベ」


 揺らぐ息遣いで、短く尋ねた彼女の眼前に、仕上げとばかりに、右手の小指を差し出して、俺は聞き直す。

 納得しきっては、まだ、いないのだろう。お嬢様は、俺とシェアせざるをえない呼吸を、詰まらせながら、今度はおずおずと、左手とともに言い返してくる。


「⋯⋯約束だからね? 明日は絶対に笙真君と会えるよって」

「もちろん」


 返事は、一瞬。

 少々不器用そうなハートに似た形に絡み合う、自らの小指同士を、笙真を抱えていたときと同じくらいまじまじと見つめたあとで、彼女は、左右の手のひらごと俺との指切り(やくそく)を、そっと握りしめた。

次回から新章です。先が気になったら、是非お気軽にブクマや感想お願いいたします⭐️


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ