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【最悪仕様のチート魔法】お嬢様な【俺】と、たたれし恋のメヌエットはデラ・アイロニック ――魔法使いたちの//クロスロード 異世界トリップ篇(D篇)単独掲載版――  作者: 庭廷梛和
第二章 狐の懸想曲 【赤狐さまはご執心】

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【tp32】水底の夢の終(つい)え:斯くて、星明かりの名とカエルの手のひらを持つ魔法使い、斯く語りき

 ぱしん!


 大きく反響した、乾いた音。思いがけず響いたその音に、驚いた顔をしたのは、俺よりも、レベッカの方に見えた。

 ビリビリするくらいの力で俺の手を弾いた、自分自身の手のひらを、三角形(さんかく)を通り越して、剥かれた両目で、見つめる。

 

「⋯⋯レベッカ様?」

「⋯⋯⋯⋯ッ」


 腰を抜かしたように下草を擦りながら、後退(あとじ)さろうとする彼女。その足首を縛る枷が、しゃらん。()を上げた。


「落ち着きなよ。――俺が悪かった」


 余計な圧を感じさせないよう、打たれた指先に視線を向けながら、俺は呟く。

 視界の外れで、彼女がびくりと身を縮ませている仕草が、さっと像を結ぶ。

 彼女の身(じろ)ぎに合わせて、赤い足枷が、涼しく儚げに、また鳴いてみせた。


 刺激しないほうが、いいな。


 根拠は乏しいながらに、俺は思う。


 夢はね、起きてる心と比べて、ずっと動じやすいの。だからね、揺さぶり過ぎないように、細心の注意をしないと、私たちが巻き込まれちゃう。

 これ、基本中の基本なんだからね?


 夢を安全に「読む」ための、初学者向けの教本へ、いくつも貼られた色とりどりな付箋。そのひとつが付いたページを、(ニシキ)御旗(みはた)みたく振り(かざ)すようにして、俺に半眼を向けてきた幼馴染(ことり)の声音が、寂しさを伴ったまま、意識の上澄みをさっと駆け巡った。


「⋯⋯⋯⋯」


 ゆらゆらと探るような、レベッカの気配を感じる。応じようと試みた瞬間には、視界の隅からもう逃げ出している思惑を、深追いはしない。

 かわりに、水底の手前に広がっていた、薄暗い上空に向けて、俺は、目線を投げかけた。

 レベッカと一緒くたになって、彼女の頭の中で眠りこけている俺に、小鳥の当たり前すぎる指摘がどこまで効果があるかは、正直、少し疑わしかった。


 正統派の「明かし」だったお前と違って、夢を解明するのって、俺、そもそも得意じゃないんだけど。


 ましてや、(ハナ)から巻かれた夢の中で、俺が「読み手」として、どうこうしようなんざ、セオリー真っ青どころか――。

 

 前提からしてガン無視もいいとこ、だぞ?

 いくら俺だって、酔狂すぎね?


 どや顔を崩して、完全に口先を突き出してしまった、心の中の小鳥に向かって、言い訳がましく告げながら、俺はゆっくりと、右足に括られっぱなしだった、自分の分らしい赤い輪っかを、見下ろした。


 けど、そうも言ってられねえんだよね。早く起きるには、コレ、間違いなく、邪魔んなるだろうし。


 (かぶり)すら振らず、途方もないくらいまばゆくて懐かしい「宮代小鳥のかわいい(しか)めっ面」を、俺自身の感情の中から、どうにか追い払う。

 レベッカから後ろを取られた、「ついさっき」に至るまで、一通り試したのと同じようにして、細い足首と枷の間に、俺にとっての一番の利き指に違いない、右の人差し指を、すっと差し入れた。

 折り曲げてやった指の腹で探ると、帰ってきたのは、少しだけささくれた、乾いている人毛の感触。

 追加で這わせた中指とともに、クイ。軽く力を加えてみる。


 やっぱり、千切れそうな予兆すらなし、っと。

 ⋯⋯そりゃそうか、こんだけきつく編まれてりゃあな。


 ワイヤーじゃなくて、髪の毛だったとしても、五歳児の腕力でどうこうできるレベルじゃあ、「絶対にないと思うんだけどさ。なあ、あんたはどう思う? レベッカ様。答えてよ?」


 一拍を置いて、重ねて問いかけた俺に、レベッカは返事をしなかった。

 小さな女の子にしては、ひどく大人びた(かたく)なな態度で、まつ毛を伏せ、膝をきゅっと抱えてみせる。

 温度を感じさせるような、彼女のさまに、俺の方こそ息が詰まりそうだった。

 目と鼻の先にある、俺と同じつくりの、憂いを帯びた横顔。

 少しだけ()けた頬の上に穿たれている、再びこちらを窺おうとしていた鶸色(ひわ)の瞳を、俺は、思い切って覗き返した。


      ◇


 夢なわけないもん!


 だって、ポーリャの考えていることが、あとからあとから、頭にながれてくるんだもの。

 それがこわくてしかたなかったから、あたしは気がついたら、笙真君よりずっとせの高いお兄ちゃんのかっこうをしたポーリャの手を、叩いてしまっていた。

 ポーリャは、ただの夢だからって思ってる。

 でも、あたしには、わかる。


 あたしには、これ、ただの夢じゃないもん⋯⋯!

  

 むずかしい言い方、知らないおねえさんの顔。あたしのほっぺたを、勝手にさわろうとしたポーリャの、大きな手と、長いおゆび。


 ぜんぶ、ぜんぶこわい。

 ポーリャが待ってくれてたさっきまでは、全然こわくなかったのに!


 笙真君じゃないのに、なんでリベを覗いてくるの!?

 もう、ほうっておいて⋯⋯! リベは触られるのも、見られるのも、もう、やだ⋯⋯ッ!

 

 あたしは思った。これいじょう、見られる前に、目の前のあたしと、ポーリャなんて、みんな、つぶれちゃえばいいのに、って。


 そのしゅんかん。

 あたしとポーリャの足くびをつかまえるために、外にながく伸ばしていた、あたしのあかげが、ぐっときつくしまる。

 リベが、いたいと思って、あたしをにらんできた。

 赤いけのたばが、たくさんのタカラダニになって、水のなかで、むれごとぶわりと広がった。

 さっきまでリベだった、赤いあわぶくが、あがる。


 まっかな煙の中に残ったのは、おどろいたかおになった、ポーリャ。このひとも、リベとおんなじになっちゃえ――――!


      ◇

 

 意を決して、覗き込んだレベッカの瞳を起点に、彼女の姿が、唐突に弾け飛んだ。その時には、レベッカのなりをした俺の身体は、上から叩きつけられた水のさなかに、丸ごと囚われていた。

 今の今まで、間違いなく、寝間着を纏うレベッカだった赤い靄。水流に掻き乱された、そいつを抱きとめようとして、見事に仕損じる。

 わけもわからないまま、水面の上を目指して、地を蹴る。

 呼吸を求めて藻掻く、俺の腕。そのおもてを、びっしりと埋め尽くす、枷と同じ色をした小虫の一団。

 うごめき、這いずり回る、小さな赤斑(せきはん)どもへ、反射的に沸き起こった嫌悪感が、俺の意識の全てを塗り替える。

 水を飲むのを(いと)うことすら忘れて、俺はひたすらに叫んでいた。

 声は音にならず、肺腑の底まで、液体で満たされる。

 ごぼり。嫌な感触。残っていた最後の吐息が、丸い形のまま俺の指先をすり抜け、無数の小さな泡塊(あわかい)に変わりはてた。

 意識が、保てたのは、それまでだった。


「――なわけあるかっつの。これは夢だと認識していれば、大抵のことはどうにでも、なるモンなんだよ。所詮、夢だからな」

 

 さすがに、承服しかねる。そんな心持ちだった。だからこそ、目を据わらせたまま、最高に冷めきった声音を俺は、口の()に載せていた。

 笙真と同じ年の頃合に見える、俺より少し年下のティーンエイジャー。

 見事な銅色(あかがね)の髪に、鶸色の瞳をした、レベッカをそのまま引き伸ばした色合いの女の子に向けて、浄めの塩よろしく、口の辺縁(ヘリ)にとどめていた台詞を、俺は思い切り振りかけてやる。

 頭に思い浮かべるのは、チルを使うときの、薄荷油にそっくりな、たっぷりで、ぴりりとした清涼感。

 俺を睨めつけてくる相手に、言い負かされないよう、五歳の頃から慣れ親しみすぎた底知れない冷たさを抱え込みながら、彼女に分かる言い回しだけを選んで、続ける。


「自分の怖いものばっかり並べれば、俺が怖がるとでも思ったんでしょ? 別に怖かないさ、あんなの。気味が悪いのは、見た目だけだしな。足枷を消したついでだ。このまま起きなきゃって、あんたも、思いなよ?」


 その言葉通りだった。この一月の間に見せられた悪夢の中で、一番マイルドなレベッカの夢なんて、ほんとうに、さほどでもなかったのだ。


「わかんないって顔するなよ? 茶飯事まではいかないけどさ、夢絡みの仕事って、『明かし(うち)』へ、それなりによく持ち込まれる話だってこと。ただそんだけなんだけど⋯⋯、まだ、少し難しかった?」


 現に存在している、レベッカとしての肉体(カラダ)意識オレが、一足早く噛み合いつつあるみたい。

 ずきずきと痛みを覚え始めたこめかみ。俺は、そいつを軽く抑え込んだ。

 こちらの様子を懸命に推し量ろうとしているのだろう。先程までの恐慌が嘘に思えるくらい、不思議そうな感情を晒している、目と鼻の先の少女(レベッカお嬢様)に向かって、呼びかける。

 

「一つの身体に、(スバル)と二人分で紐づいてたからね。こういうことには、俺、ちぃっとばかし慣れてんだ。お嬢様が信じられないなら、聞いてみなよ。笙真を起こしてやってから、さ――」 

ここまでどうでしたか?

面白かったり、疑問に思うことがあればお気軽に反応をお寄せください。


心に浮かんだ疑問の中には、もう一つの最チーを読むと分かる事柄もあると思うので、

https://ncode.syosetu.com/n8738kl/ よかったらこちらも読んでみてね☆


次回は中間エピローグ回なのでお楽しみに〜!!

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