姫様、出陣!
遅くなったと慌てて貴賓室に戻ったマリイだが、まだ誰も、帰ってきてはいなかった。
「まだ、あたし一人?」
父王も、こんな時にこそやってこない。
「あたしも,作戦会議に行っちゃおうかしら!」
ふてくされて、そう言ってみたはものの、大人しくベッドに潜る。
明日はウバクロに向けて発つのだ。
どれだけ厳しい道のりになるか分からないのだから、今夜は何としてでも寝ておかなければならない。
目を閉じると、先ほどのゾフィの姿が浮かんだ。
冷たく暗い牢の中だったが、相変わらず美しくしていた。
やっぱり、ゾフィがあたしを殺そうとしたんだ……。
それはとても悲しかったが、マリイは、ゾフィが騙されていなかったことに胸をなで下ろす。
セツゲンを追い払ったら、必ず助ける……。
やがて、マリイは眠りについた。
翌朝、出陣式である。
隊長は寝不足にも関わらず、生き生きとしていた。
「戦がそんなに楽しいのかよ?」
寝不足で不機嫌なグリーンが、軽蔑の目でなじったが、
「一般市民と、戦闘民族との違いだ。
私たちが戦ってきたからこそ、おまえらはそんなのんきな思考が持てる」
と不敵に微笑む。
皆が装備を固めて貴賓室を出ようとした時、隊長は、
「あ、忘れてた」
と、鞄から兜を取り出して被った。
目以外の顏をすべて覆う革の兜で、さらに、城に入る際にグリーンが身に付けていたマントまで羽織って身体も隠す。
「今から着けたら、暑いぞ?」
「どこの誰か分からないわよ?」
「行軍中はこれでいい」
隊長は言う。
「私の美しさは、二人の初陣をペンペン草にしてしまうからな。
暑いのを我慢して身を隠しておくから、せいぜい目立って印象づけろ。
戦闘中は、どうせ役立たずで活躍の場なんかない」
「!」
「……」
けなされたのだが、『初陣』というプレッシャーの方が重くて、二人は黙った。
「おいおい、お二人さん。
まだ何も始まってないのに、緊張してどうする!
リラックスしていこうぜ!」
無神経な励ましを受けて、2人は足取り重く中庭に向かった。
集められた兵士は5000人ほどで、ちょっとした朝礼のようになっている。
「5000って、心許ないな。
大丈夫だろうか?」
ズラッと並んだ列を見回して、グリーンがつぶやく。
「仕方ないわ。
もともとはあたしの葬儀に集められた兵士なんだもの。
5000人の葬列だったら、すっごく豪華よ?」
「葬式じゃなくて、戦争だからな……」
しかも、集まっているのはどう見ても見た目優先の若者達で(葬列に花を添えるため?)、美形に偏見がある訳ではないが、きっと彼らは戦力外としておいて行かれた者たちだろう。
マリイ隊長は言う。
「カイソク国境から、主力部隊が戻ってくる。
戦力はそっちを当てにしよう。
まあ、ウバクロ近辺は道が悪いから、3列、もしくは2列で進むのが限界だ。
ヘタに大軍で渋滞するより、徐々に駆けつけてもらった方が、効率が良い」
3人が指定された中央列の一番前に並ぶと、高らかにラッパが鳴り、国王陛下ダンギが姿を現した。
正装のせいだろうか。今日の陛下は威厳に満ちている。
「マリイ=サンリク」
名を呼ばれて、マリイは前へ出る。
御前に跪いた。
「我が兵をおまえに預ける。
ウバクロを守り、サンリクの国土からセツゲン兵を追い払って参れ」
「お任せ下さい。国王陛下」
マリイは父王からサンリク国旗を受け取る。
「グリーン、そして、虹の谷のマリイ」
呼ばれた2人は、それぞれ返事をして、マリイ王女の左右に並び立つ。
「共に王女を助け、サンリクを蛮族の手から守るがよい!」
「お任せあれ、国王陛下!」
隊長が自信満々に請け負い、
「全力でお守りします!」
グリーンは緊張を伴って承った。
「では父様、行って参ります!」
父に挨拶をしたマリイは、振り返って全軍に命じる。
「出陣!
これより、ウバクロを目指します!」
うおおおおおお!と、時の声が上がる。
「行こう、マリイ!
旗は私が預かる」
「お願いします!」
「皆様方、馬はこちらに!」
マリイたちは用意された馬に跨がった。
視線が高くなり、身が引き締まる。
「私が先導しよう!
グリーン、後れを取るなよ!」
「頑張るさ!」
隊長は旗を翻し、列を左右に割りながら中央を駆ける。
マリイが続き、グリーンが続き、その後を1000の騎兵たちが、さらに歩兵たちが追って城門を出た。
最後の一兵までその場で見送っていたダンギ国王は、
「マリイが戦士になるとはな……」
メアリ王妃に話しかけるように、つぶやいた。




