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姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
10 サンリク城
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姫様、出陣!

 遅くなったと慌てて貴賓室に戻ったマリイだが、まだ誰も、帰ってきてはいなかった。


「まだ、あたし一人?」


 父王も、こんな時にこそやってこない。


「あたしも,作戦会議に行っちゃおうかしら!」


 ふてくされて、そう言ってみたはものの、大人しくベッドに潜る。

 明日はウバクロに向けて発つのだ。

 どれだけ厳しい道のりになるか分からないのだから、今夜は何としてでも寝ておかなければならない。


 目を閉じると、先ほどのゾフィの姿が浮かんだ。

 冷たく暗い牢の中だったが、相変わらず美しくしていた。


 やっぱり、ゾフィがあたしを殺そうとしたんだ……。


 それはとても悲しかったが、マリイは、ゾフィが騙されていなかったことに胸をなで下ろす。


 セツゲンを追い払ったら、必ず助ける……。

 

 やがて、マリイは眠りについた。




 翌朝、出陣式である。

 隊長は寝不足にも関わらず、生き生きとしていた。


「戦がそんなに楽しいのかよ?」


 寝不足で不機嫌なグリーンが、軽蔑の目でなじったが、


「一般市民と、戦闘民族との違いだ。

 私たちが戦ってきたからこそ、おまえらはそんなのんきな思考が持てる」


 と不敵に微笑む。

 皆が装備を固めて貴賓室を出ようとした時、隊長は、


「あ、忘れてた」


 と、鞄から兜を取り出して被った。

 目以外の顏をすべて覆う革の兜で、さらに、城に入る際にグリーンが身に付けていたマントまで羽織って身体も隠す。


「今から着けたら、暑いぞ?」


「どこの誰か分からないわよ?」


「行軍中はこれでいい」


 隊長は言う。


「私の美しさは、二人の初陣をペンペン草にしてしまうからな。

 暑いのを我慢して身を隠しておくから、せいぜい目立って印象づけろ。

 戦闘中は、どうせ役立たずで活躍の場なんかない」


「!」

「……」


 けなされたのだが、『初陣』というプレッシャーの方が重くて、二人は黙った。


「おいおい、お二人さん。

 まだ何も始まってないのに、緊張してどうする!

 リラックスしていこうぜ!」


 無神経な励ましを受けて、2人は足取り重く中庭に向かった。

 集められた兵士は5000人ほどで、ちょっとした朝礼のようになっている。


「5000って、心許ないな。

 大丈夫だろうか?」


 ズラッと並んだ列を見回して、グリーンがつぶやく。


「仕方ないわ。

 もともとはあたしの葬儀に集められた兵士なんだもの。

 5000人の葬列だったら、すっごく豪華よ?」


「葬式じゃなくて、戦争だからな……」


 しかも、集まっているのはどう見ても見た目優先の若者達で(葬列に花を添えるため?)、美形に偏見がある訳ではないが、きっと彼らは戦力外としておいて行かれた者たちだろう。


 マリイ隊長は言う。


「カイソク国境から、主力部隊が戻ってくる。

 戦力はそっちを当てにしよう。

 まあ、ウバクロ近辺は道が悪いから、3列、もしくは2列で進むのが限界だ。

 ヘタに大軍で渋滞するより、徐々に駆けつけてもらった方が、効率が良い」


 3人が指定された中央列の一番前に並ぶと、高らかにラッパが鳴り、国王陛下ダンギが姿を現した。

 正装のせいだろうか。今日の陛下は威厳に満ちている。


「マリイ=サンリク」


 名を呼ばれて、マリイは前へ出る。

 御前に跪いた。


「我が兵をおまえに預ける。

 ウバクロを守り、サンリクの国土からセツゲン兵を追い払って参れ」


「お任せ下さい。国王陛下」


 マリイは父王からサンリク国旗を受け取る。


「グリーン、そして、虹の谷のマリイ」


 呼ばれた2人は、それぞれ返事をして、マリイ王女の左右に並び立つ。


「共に王女を助け、サンリクを蛮族の手から守るがよい!」


「お任せあれ、国王陛下!」


 隊長が自信満々に請け負い、


「全力でお守りします!」


 グリーンは緊張を伴って承った。


「では父様、行って参ります!」


 父に挨拶をしたマリイは、振り返って全軍に命じる。


「出陣!

 これより、ウバクロを目指します!」


 うおおおおおお!と、時の声が上がる。


「行こう、マリイ!

 旗は私が預かる」


「お願いします!」


「皆様方、馬はこちらに!」


 マリイたちは用意された馬に跨がった。

 視線が高くなり、身が引き締まる。


「私が先導しよう!

 グリーン、後れを取るなよ!」


「頑張るさ!」


 隊長は旗を翻し、列を左右に割りながら中央を駆ける。

 マリイが続き、グリーンが続き、その後を1000の騎兵たちが、さらに歩兵たちが追って城門を出た。



 最後の一兵までその場で見送っていたダンギ国王は、


「マリイが戦士になるとはな……」


 メアリ王妃に話しかけるように、つぶやいた。

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