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姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
10 サンリク城
25/36

サンリクと、美女

 ゾフィ=クールは名門貴族家の3女だった。

 上には10歳以上年の離れた姉が2人、下には5歳年下の弟がいた。


 姉たちは、まだ実家が裕福だった時代に育ち、相応の支度をしてもらって嫁に行った。

 当然、自分もそうなるものだと思っていた。


 ゾフィが13歳となり嫁ぎ先を考える頃、クール家は名門であるが故に時代の波に乗れず、没落の陰を落とすようになった。


 やがてそれは、病にかかった弟の治療費すら困窮するほどに浸潤する……。


 名門に嫁いだ姉たちは、弟を助けてくれなかった。


 4人目にして念願の跡継ぎが生まれ、娘たちに目も向けなくなった父親に、大きな反抗心があったのだろう。



 程なくして、弟は死んだ。



 さて、これで名門クール家を継げるのはゾフィより他にいなくなった訳だが、3女として姉たちに差を見せつけられ、嫁に行くものとして弟とは待遇に差をつけられて育ったゾフィである。


 すっかりひねくれていた。


 今さら持ち上げても、すでに遅い。

 わたくしをクール家の生命線としたいなら、最初からそう扱うべきだったのだ。


 ゾフィが15の年、ゾフィの母親はゾフィの結婚を見ぬまま、やはり貧しいまま、弟と同じ病で死んでいった。


 この頃から、ゾフィには数えるのが面倒なほどの求婚が来る。

 貧したとはいえ家柄は申し分無く、しかも、目を見張るほどの美少女だったからだ。


 この時期に誰かと結婚していたら、ゾフィは幸せになっていたかもしれない。

 が、ゾフィは全てをはねつけた。


 父の勧める相手は、成金ばかり。


「クール家は名門なのでしょう?

 相手にも、相応の身分を求めます」


 家柄だけの男たちも無視した。

 没落の憂き目を二度味わうのはご免である。



 一切の妥協を許さず、16、17の年を過ごす。

 生活は貧しいままであったが美貌は際立ち、他国からも噂を聞きつけた求婚者が現れるようになった。


 18の時に、待ちに待った縁談が持ち上がる。


「サンリクの王太子で、年はゾフィと同じ18歳。

 国家間の同盟を強めるため、名門貴族の娘を探している」


 最初、父は反対した。


 父が探しているのはあくまでクール家を継いでくれる『婿』であり、ゾフィを嫁にやるつもりは毛頭なかったからだ。


 そんな父を尻目に、ゾフィは話を進める。

 貧乏な名門に、もとより思い入れなどない。


 ゾフィが欲していたのは、姉たちを見返せるほど裕福で、家柄の良い求婚者。


「王家の姻族ともなれば、それなりの援助が見込めるだろう。

 クール家は、姉たちの子を養子にして継がせよう」


 父親が皮算用して娘を嫁がせる気になった頃、突然、「この話はなかったことに」と立ち消えになった。


 なんでも、ダンギ王太子が視察先の僻地で女戦士に一目惚れし、その場で求婚したとの笑止な話。


 婚約を渋っていた立場となるゾフィは、抗議すらできなかった。

 父親の反対で、承諾が間に合わなかったのが悔やまれる。



 ダンギ王太子が結婚した同じ年に、ゾフィは適当に身分と金のある男と結婚した。

 もはや、姉たちの旦那に引けを取らなければ、誰でもいいという結婚だった。


 そして、その結婚生活はゾフィの気位の高さから不和を招き、やはり気位の高さゆえに8年で幕を引く。


 離婚後に、ゾフィの父親は亡くなった。


 ゾフィは、解放されたかのように男友達と遊び歩いた。

 美貌は衰えることなく年と共に妖艶が増し、再婚を求めるものも大勢いた。


 サンリク王家の野外パーティに出席することになったのは、そんな求婚者の友人としてである。

(相手は、婚約者と思っていたかも知れない)


 マリイ王女誕生の後に先王が崩御し、ダンギは王太子から国王陛下となっていた。


 このパーティで、初めてゾフィは実物のダンギを見る。

 数年前に見た姿絵より爽やかな青年になっていて、なにより誠実そうな男だと思った。


 わたくしは、この男と結婚し、王妃になっていたかも知れない――。


 ダンギの隣にいる王妃は、そこそこ整った顔立ちをしていたが、ゾフィと比べては気の毒になる程度だ。

 女戦士だったというだけあって無防備に日焼けをし、引き締まった身体には柔らかさがない。


「初めまして。

 ○○公(この男の名前はもう覚えていない)の友人で、ゾフィ=クールと申します」


 挨拶をしたら、


「私はメアリ。よろしくね」


 と返してきた。

 笑顔が魅力的ではあるが、親しみやす過ぎて上品さに欠ける。


 ダンギは、こんな者に魅了されて私を袖にしたのか――。


 ゾフィの中に黒いものがわき上がる。

 とても会話を楽しむ気にはなれなかった。


 一人、人混みを離れ、丘の上にある馬の放牧地を見に行く。

 午後は遠乗りを楽しむと聞いている。

 馬に乗ったダンギ国王は、さぞかし素晴らしかろう。


 何頭もの馬たちが気ままに放たれている中、一際美しい白馬に目がとまった。


 これが、国王の馬だろうか。


「お姉さん、あたしの馬、気に入った?」


 不意の声に驚いて振り向いたが、誰もいない。


「あたし、ここよ?」


 視線を下に移すと、ピンクのドレスを着た小さなお姫様がそこにいた。

 これが、マリイ王女との初対面である。


「初めまして。マリイ=サンリクです」


 王女は行儀よくお辞儀した。


「――わたくしはゾフィ=クール」


 王女を相手に失礼と分かってはいたが、礼儀を正す気になれず、ゾフィはまた馬を見た。


「お姉さんも、馬が好きなのね?」


 ピョコピョコまとわりついて、うるさい。


 他の馬たちとは離れたところに、一周り身体の大きい、見事に黒光りする孤高の馬を見つけた。


「あれが、国王の馬……?」


 馬上のダンギは、雄々しくて頼もしそうだ。


「ブラッキーは、母様の馬なの」


 マリイ王女がまた教えてくれた。


「気位が高い上に、気性も荒いから、父様には乗れないわ」


「――そう」


 ゾフィは出会って間もないが、この王女が嫌いになった。


「お姉さん、乗ってみたいなら、あの馬はどう?」


「わたくしは馬になど乗らぬ」


 不愉快な子だ。

 母親が女戦士だったから知らぬのだろうが、貴婦人は馬に乗ったりしない。


 ゾフィはプイッとその場を立ち去ろうとした。


「父様の馬は大人しくて優しいから、乗せてくれると思うけど……」


「国王の、馬?」


「あの茶色いのは、父様の馬」


「――――乗ってみよう」


 ゾフィは柵を開けて中に入った。


 本来なら、国王の馬など手を掛けるのも畏れ多いのだが、王女が是非にと言っているのだ。

 断るのも悪かろう。


 途中、柵に立てかけてある鞭を拾った。


「お姉さん、乗馬は初めて?」


 いちいち癪に障る小娘だ。


「初心者のように言われるは心外。

 乗っている人を見たことがある」


 近づくと、馬は大きかった。そして獣臭い。


 やはり、よそうか……。


 ゾフィは馬から視線をそらせた。

 と、遙か遠くだが、丘の下にいるメアリ王妃と目が合ったような気がした。


「!」


 馬鹿にされた?


 あの黒馬を乗りこなし、ダンギに一目惚れをさせた王妃である。


「馬など別に、怖くない!」


 ゾフィは乗る覚悟を決めた。

 が、座るはずの背が目の高さにある。


「…………」


 はて、どうやってあそこに座るのだろう?


 ちびっ子に聞くのは自尊心が許さない。    

 そして、馬を座らせれば良いのだ、と思いついた。


「座れ」


 ゾフィは馬の尻を鞭で叩いた。


「お姉さんっ!?」


「ヒーン!!」と、馬は悲鳴のような声を上げ、前足を上げた。


「!!」


 怖い!


 蹴られはしなかった。

 が、一頭のいななきに他の馬たちが驚き、牧柵の中は騒然となった。


 パニックを起こし、それぞれに暴れだす馬たち。


「母様、助けて……!」


 マリイ王女が震えながら、ゾフィの足にしがみついている。


 ゾフィが王女を抱きしめたのは、安心させるためではない。

 自分も何かにしがみつきたかったからだ。


 馬たちは、狂ったかのように柵の中を走り回る。


「ブラッキー!」


 甲高い指笛の音と共に、遠くから、メアリ王妃の声が響く。


 瞬間、あの黒い馬が駆けだし、地響きを上げてゾフィたちの前を走り抜けた。

 立ちはだかる柵を、その巨体に似合わぬ俊敏なジャンプで飛び越え、丘の下で待つ王妃の元に駆けつける。


 ゾフィは柵の隙間から、王妃が馬に飛び乗るのを見た。


 丘の上のここまで、一気に駆け上がってくる。

 馬はまた、柵を飛んだ。


「マリイ! ゾフィ!」


 王妃は裸馬にまたがり、走らせたままで身を乗り出し、二人に手を伸ばす。

 不自然な体勢のままゾフィのウエストに腕を回すと、むんずとマリイごと、馬の背に引き上げた。


「母様!」


「マリイ、前を向いてしがみつけ!」


「王妃……!」


「しっかり、しがみつけ!」


 次の瞬間、メアリ王妃は姿勢を崩し、その後は自ら馬から落ちていった。

 幸いにも、マリイ王女は言いつけを守り、母が落ちるのを見ていない。


 ゾフィは、他の馬に蹴られる王妃を見た。


 ブラッキーは2人を乗せたまま柵を飛び、丘を下る。

 パーティの参加者たちは、それで何が起こっているのかを知った。


 メアリ王妃が突然、馬を呼んで駆けていったのだ。

何かが起こっているのだろうとは予想できたが、こんな地獄絵図が繰り広げられているとは想像だにできなかった。


 馬にしがみついて泣いているマリイと、それを抱きながら震えているゾフィを見て、ダンギは青ざめる。


「メアリは!?」


 ダンギは、もちろん丘を駆け上がる。


「メアリ!」


 瀕死の王妃は、


「落馬するなんて、恥ずかしい……」


 と、ダンギに笑いかけたという。


 当然ながらその場はお開きになり、メアリは担架で運ばれた。

 ゾフィの男友達は累が及ぶのを恐れてか早々に逃げ帰ったが、ゾフィは帰らなかった。


 状況説明のために呼び戻されたり、最悪、手配されるようなことになるのなら、このまま、ここに居た方が良い。

 突然の惨事に皆が慌て、マリイ王女が取り残されている。


 この王女を味方につけよう。


 馬に乗れと言ったのはマリイ王女なのだ。

 私は何も悪くない。


 ゾフィは、泣き止まない王女をずっと抱きしめていた。


 ゾフィとマリイが王妃に面会できたのは、事故から三日後。

 腕、あばら、足の骨が折れ、内蔵も何カ所か損傷していると聞いた。


「母様!」


 マリイ王女が駆け寄り、えんえんと泣く。

 ゾフィには聞き取れなかったが、王妃はなにやら優しい言葉を繰り返していた。


 扉付近に立ったままのゾフィに気がつくと、


「おまえも無事だったか……」


 と笑ってくれた。

 王妃はゾフィの身をも案じてくれていたのだ。


「わたくしは……」


「マリイを――」


 言い切らぬうちに、容態は急変する。


「母様! 母様!」


「メアリ!」




 王妃は、帰らぬ人となった――――。




 葬儀の間中、ゾフィはマリイのそばに居た。

 葬儀が終わっても、カイソクには帰らなかった。


 求められた状況説明には、


「馬が突然、暴れ出した」

「王妃が助けに来てくれた」とだけ、答えた。


 余計なことは言わなかったし、追求もされなかった。


 ゾフィは王女のそばから離れなかったし、王女もまた、ゾフィのそばから離れなかった。






 わたくしは、なぜ、カイソクに帰らなかったのだろう……?


 ロウソク一本の明かりの中、地下牢の天井を眺め、ゾフィは考える。


 王妃に、頼まれたからだろうか。

 いや、わたくしはそんな人間ではない。


 マリイ王女とカイソクの王子との縁談が持ち上がった時、ガルドがゾフィに誘いかけた。

 マリイ王女を城から追い出し、ゾフィが王妃になるという話。


 ――ガルドは、わたくしの本性を見抜いていたのだ。

 そう。わたくしは、メアリ王妃に取って代わるべく、この城にいた――。


 王妃の死後は、マリイ王女をダンギから遠ざけ、2人の間には常にゾフィが入るようにした。


 母を亡くした少女を手玉に取るのは、実に容易かった。

 いとも簡単に父と娘の関係はこじれ、ゾフィの思うがままにだった。


 王女は父を捨てて城を飛び出し、国王は王女を探すためにゾフィを頼る。


 思う通りであったのに……。




 カツン、カツンと靴の音が響き、ランプの明かりがゆらゆらと石の階段を下りてきた。

 夕食の皿を下げに来た看守だろう。

 ゾフィは皿の乗ったプレートを、乱暴に鉄格子の下から押し出す。


 よくもわたくしに、このような食事が出せたものだ。

 美貌が衰えたら、どうしてくれよう。



 まだ、サンリク王ダンギを落としていないのに――――。



 看守だと思っていた者は、赤いドレスを着ていた。

 ランプの明かりに照らされた黒髪、そして、黒い瞳。


「ゾフィ、無事だった?」


「姫、様……」


 マリイだ。


 ゾフィは立ち上がる。


「姫様、なんて……!」


 暗がりに揺れる明かりでも、すぐに分かる。

 顔には日焼けが。

 そして、せっかくの母親譲りの黒髪が、所々でうねったりはねたりしている。


 さらには、


「なんて服……!

 こんな庶民の服を、どうして姫様が……!?」


「だって、ゾフィ」


 マリイは懐かしさに涙ぐんだ。


「あたし、ゾフィがいないと着替えられない。

 背中のボタンやリボンは、ずっとゾフィにやってもらってたのよ?

 一人じゃあ、この服が精一杯だわ」


「姫様……!」


 ゾフィの大きな青い目から、涙がこぼれる。

 次々と溢れて流れた。


「わたくしは……、姫様が美しくなるよう、大切に大切に育てて参りました……!」


 ゾフィは二人を隔てる鉄格子を震える手で握った。

 その手で、今にも崩れ落ちそうな身体を支える。


 偏食の激しい王女に野菜を食べさせようと、毎回食前に野菜ジュースを飲ませた。

 ドレスの似合う体型を維持するために、食事は腹八分目を意識させ、満腹まで食べさせることはしなかった。

 毎晩、9時には就寝させ、たっぷりと睡眠を取らせた。


「それなのに……!」


 今、マリイの顔には疲労の色。


 自分のせいだ。

 自分がマリイを追い詰め、目の下に隈をつくってしまったのだ。


「姫様……」


 せっかく美しく育ててきた数年間を、ここ数ヶ月で台無しにしてしまった。


「わたくしは、なんて……!」


「泣かないで、ゾフィ」


 マリイは言う。


「姫様は――、もう、わたくしのしたことをご存じなのですね」


 ゾフィは悲しみを確認した。


「あたしを殺そうとしたって、本当?」


 マリイも、悲しいことを確認する。


「本当ですわ」


 迷いなく答える。


「わたくしは王妃になりたかった。


 ――――最初は、王女の母親として、王妃になろうと思った。

 けど、陛下は新しい母親を欲しておられない。


 だから、わたくしは、ガルドの策に乗ったのです。

 一人娘を失い、嘆き悲しむ陛下を慰める者として、王妃の座に着こうとした」


「――ラオ夫婦も、ゾフィの仲間?」


 マリイにとっては、懐かしい親切な老夫婦だ。


「あの者たちは、ガルドの知人です。

 マリイ王女の悪い噂が広がるまで、三週間ほど匿ってもらう約束をしました。

 民が新しい王妃を喜んで受け入れるよう、王妃の娘を、死んで当然と蔑むよう、陥れるつもりでしたのに―ー。


「あたし……、ラオ婆にレース編みを教わったわ。

 食事が美味しくて、手芸をする時間がたっぷりあって、あっという間だった」


「そう指導しましたもの。

 姫様が退屈しないように、決して、早々に表に出ないように」


「サンリク金貨は目印?」


「ええ。

 サンリク金貨で買い物をする若い娘なんていませんから。

 すぐに居所が知れる予定でした」


「そう――」


 スラスラと答えるゾフィに、マリイは少しだけ、落ち込む様子を見せた。

 見当を付けていたことを、確認しただけ、だったのに。


「ゾフィ……」


 名を呼ばれ、ゾフィは身構える。

 7歳の頃から「ゾフィ、ゾフィ」と、くっついて離れなかった姫君が、今、離れていく。


 向けられる感情は、憎悪か、侮蔑か――。


 マリイは言った。


「あたし、怒ってるのよ?」


 怒りであったか――と、ゾフィは受け入れる。


 マリイはランプを持たない方の手で、2人を隔てる格子を掴んだ。

 すぐそばに、同じく格子を握るゾフィの手がある。


「父様のお部屋で、母様の肖像画を見たわ。

 不細工ではないけど、ちっとも美人じゃなかった」


「え……?」


 何を言っているのか、よく分からない。


「ゾフィ、よく言ってたじゃない。

 母様は誰よりも強くて賢くて、ゾフィなんか足下にも及ばないほど美しかったって。

 実際はそれほどじゃあなかったし、虹の谷でだって、そんな評判聞かなかったわ」


「な――、何をおっしゃるのです!

 王妃は間違いなく、お美しい方でした!

 あの、馬にまたがるお姿は、並ぶ者があろうはずもないほどに!」


 なぜ、こんなにムキになってしまうのか。

 ゾフィにも分からない。


 マリイは、さらに言った。


「あたし、感謝もしてるわ……」

 

 耳を疑う。

 さっきから、姫様はどうしたのだろう?


「ゾフィがあたしを城から出してくれなかったら、あたし、何も知らないままだったし、知ろうともしなかった」


「姫様?」


「城から出て、いろんな人に会った。

 くじける時もあったけど、みんなが慰めたり、励ましたりしてくれた。


 あたし、ゾフィに教わった刺繍でお金を稼いでたの。

 いっぱい褒められた。

 ゾフィのおかげだわ」


「――」


 理解できない。

 なじられる覚悟しかしていなかったから、どう返していいかも分からない。


「ゾフィ」


 マリイはもう一度、名を呼んだ。


「父様のことはごめんなさい。

 あたしもゾフィが母様になってくれたら嬉しいれど、父様は母様を忘れそうにない。


 あたし−−、ゾフィをここから出してあげるわ。

 もう少し待ってて。

 セツゲンを追い払ったら、必ず、出してあげるから!」


「姫様?」


「もう遅いから、寝るわね。

 9時にはベッドに入っていないと、ゾフィ、怒るでしょう?」


 呆気に取られたゾフィを残し、王女は階段を上がっていく。

 ランプの明かりが遠ざかり、カツカツいう靴の音が聞こえなくなった。


「わたくしは――」


 夢でも見ていたのだろうか。

 自分に都合の良い夢を――。


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