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姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
10 サンリク城
23/36

姫様、お父様に会う

 中は暗くてよく見えない。

 が、壁際の天蓋ベッドの後ろから、ぼんやりと灯りが漏れている。


「父様……?」


 マリイは、緊張を漂わせて声をかけた。

 返事がない。

 人の気配が感じられないから、王がベッドに寝ていないことは確かだ。


「マリイ、行こう」


 2人は、天蓋ベッドの後ろへと進む。

 壁にはズラッと本箱が並んでいるが、ベッドに隠れてちょうど入り口からは見えない場所に、1カ所。

 ドア1枚分をくり貫いたかのように何もない、カーテンだけが掛かっている入り口があった。


 灯りはそこから漏れている。


「これが窓2つ分の秘密部屋……」


「月に1度は来てたのに、全然、気づかなかったわ……!」


 中から、声が聞こえてきた。


「……メアリ……。ああ、メアリ……。

 私の大事なマリイが、死んでしまった……。

 良かれと思った婚約が、裏目に出た。

 天国で、君と一緒かい……?

 早く私もそっちに行きたいのに、合わせる顔が、ない…………!」


 サンリク王が泣いている。

 メアリ、マリイと、交互に2人の名前を呼んでいた。


 マリイは、父を疑ったことを後悔した。

 こんなにも悲しい声で泣いている父が、娘を『生死を問わず』なんて非道な指名手配をするはずがない。


 被っているフードを外し、そっとカーテンをめくった。


「父様……」


 声をかける。


「!?」


 驚いて振り向くサンリク王。


「マリイっ!?」


「父様……!」


 国王はマリイを認めると、飛びつくように抱きしめた。


「マリイ! マリイ! マリイ!」


 父親に抱きしめられるなんて、何年ぶりだろう。


「化けてきてくれたのか!?

 よく来た! よく来てくれた!

 私のマリイ……!!」


 サンリク王はやつれ果てていた。

 目の下には隈ができ、顔色も悪い。

 マリイを抱きしめたまま、激しく泣いている。


「父様、ごめんなさい!

 あたし、死んでない。

 心配掛けて……ごめんなさい……!」


 マリイの目からも、涙がこぼれる。


 嬉しい。


 姿を見せた瞬間に、捕縛されることも覚悟していた。

 ずっと、父親に愛されていないと思っていた。

 興味を持ってもらえないことが、寂しくて、悲しかった。


 でも、今、こうしてマリイは抱きしめられている。


「マリイ、リヨク王子との結婚がそんなに嫌だったのか……!?

 父様が悪かった!

 お前の意見も聞かず、王子に会わせようとした父様が悪かった……!」


「違うの、あたしがワガママだったの。

 何も知らないで、自分のことだけを考えて城を出てしまった。

 本当にごめんなさい……!」


「4ヶ月も……、おまえ1人で、4ヶ月の間よく……!」


「あたし…………、1人じゃなかったの。

 ずっと、グリーンに助けてもらってた」


「グリーン?」


 サンリク王は顔を上げる。


「旅商人の、グリーンよ。

 グリーン、来て。

 父様に紹介するわ」


「俺のことはいい」


 グリーンはカーテンの外にいて、入ってこない。


「紹介させて」


 マリイは父王のもとから離れると、グリーンの腕をぐいぐい引っ張って御前に差し出した。


「あたしを助けてくれた、グリーンです」


「…………カイソクの、グリーンです……」


 仕方なくフードを外したグリーンの顔が、室内のランプで照らされる。


「マリイ、これは……!?」


 国王、絶句。


「どういうことだ?

 結婚を嫌がって家出したと聞いたが、まさか、駆け落ち――!?

 このグリーンは――!

 いや、リヨク王子のことは……!」


「父様、落ち着いて」


 マリイは男親に無理な要求をした。


「駆け落ちじゃないわ。

 グリーンとは王都で会ったの。

 あたしたち、旅商人の兄妹ということにして、お店を出してたの」


「旅商人? 兄妹だって?」


 誰もがそう思う通り、無理がある、という顔を国王はした。


「ちっとも似てないとこは、グリーンが『父親が違う』ことにすればいいって」


「違う、俺は『母親が違う』と言ったんだ」


「どっちでもいいじゃない。

 とにかく、2人でなんとかやってこれたわ!」


「――そうだったのか……」


 意外が混乱を収束させ、サンリク国王はようやく安堵したのだろう。

 その場にペタリと座り込んだ。


「――良かった……。良かった。

 元気そうで、本当に良かった……!」


 噛みしめるように涙を流す。


「父様……」


 マリイは床に膝をついて、父の手を取った。


「心配を掛けて、ごめんなさい……!」


 再び涙をこぼしあう。

 サンリク国王とマリイは、よく似ている。


 しばらくして、2人が落ち着きを取り戻した頃、グリーンが静かに本題を切り出した。


「陛下、4日後に――いえ、もう3日後にはセツゲン軍がウバクロに侵攻します」


「――なんだと?」


 鼻をすすりながら泣いていた父王の顔が、急に為政者に変わる。


「外務大臣のガルドが裏切っています。

 彼は虹の谷を怒らせ、セツゲンの侵攻を助けている。

 虹の谷は今回、サンリクを助けません」


「どういうことだ?

 ガルドは虹の谷の出身だぞ?

 谷を怒らせて、なんの益がある?

 虹の谷がサンリクを助けないとは?」


 マリイも頑張って報告する。


「ガルドは虹の谷を、サンリクから独立させたがってるみたいなの」


「虹の谷が、独立!?」


 グリーンは虹の谷で起こっていたことを手短に伝えた。


 ガルドの隠謀、

 サンリクの不義理、

 族長たちの怒り。


「私は、虹の谷に不義理をしたことなど――。

 いや、谷のことは全てガルドに任せてきた。

 ガルドがそれらを歪曲して谷に伝えていたとしたら――」


「そういうことだと思います。

 長老会議で、族長の1人が言っていました。

 ガルドは昔から独立派だったと――」


「信じられん――」


 グリーンはショックを受けている国王を気遣いたかったが、時間が無かった。


「世話係のゾフィも裏切っています。

 マリイを家出させたのは彼女です」


「――!?

 マリイの家出を、誰よりも悲しみ、泣いて過ごしていたのがゾフィだぞ!」


「間違いありません。

 彼女はマリイを家出させ、最初の3週間を知人の家で匿った」


「3週間……。私は最初の3週間、マリイを捜しに捜した。

 別荘も、思い出の場所も、全て自ら回って捜した……!」


「ごめんなさい、父様。

 あたし、ゾフィの指示通りに、ラオ爺とラオ婆の家に居たの……」


「その最初の3週間で、マリイの手配書が全国に広がりました。

 表では役所が保護するために。

 裏では、恐らくガルドとゾフィが手を組んで、『生死を問わず』と懸賞金を掛けて――」


「生死を問わず!?

 そんな手配書が……!?」


「あたし……ラオ爺の家から出てすぐにグリーンに会わなかったら、王都で捕まって、殺されてたと思う……」


「ああ、マリイ、よくぞ無事で……!

 グリーン君、ありがとう! 本当にありがとう……!」


 マリイも、今さらながら恐ろしく思う。

 あの時、グリーンに出会えて本当に良かった……。


「陛下」


 グリーンは声を潜めて願い出た。


「ガルドとゾフィを捕らえて下さい。

 そして、一刻も早く兵を集め、ウバクロをお救い下さい!」


 そのために、ここに来たのだ。


「分かった。まずはその2人だな。

 セツゲンの件は事実確認と同時に進めよう」


 国王は隠し部屋から出て、


「誰か、誰かある!」


 と、守衛を呼んだ。


「まずい!」


 グリーンとマリイは慌てる。

 守衛の2人は今、持ち場を離れてマリイ隊長にメロメロだ。


 国王が敵だった場合は、ホールのバルコニーから逃げる予定だったから、ホールに守衛を誘い込んで、いざとなったら捕縛しておくよう、打ち合わせていたのだ。


「あの、お呼びでしょうか?」


 呼ばれて顔を出したのは、仕事を押しつけられた代理の者。


「おまえは誰だ?」


 当然ながら、国王は問いただす。


「今夜の見回りの、トルタです……」


「あの、父様」


 さすがに申し訳なくて、マリイが弁明する。


「この部屋に入るのに、守衛が邪魔だったから……。

 ほら、あたし、死んだことになってたでしょ?

 説明も面倒だし、彼らにはその、ちょっとよそに行ってもらってるの」


「? そうか? では、トルタ」


「はい!」


 トルタは、王に名を呼んでもらえたことに感激しているようだ。


「今、この城にいる大臣たちに、謁見の間に集まるよう申し伝えよ。

 おまえが行っても信用されぬだろうから、侍従なり、守衛に行かせるのだぞ」


「はい!」


 トルタは張り切って出て行った。


「ガルドもゾフィも、今夜は城にいない。

 恐らく一緒にいるのであろうな。

 マリイ、おまえは自室にいなさい。

 頃合いを見計らって、皆におまえが戻ってきたことを伝えよう」


「はい、父様」


 マリイは返事をしたものの、すぐには下がらなかった。

 どうしても聞きたい。


「あの……、父様、この隠し部屋は――」


「あ、ああ……」


 王は照れくさそうに頬を掻く。


 窓2つ分の部屋。

 そこには、所狭しと亡き王妃の品が飾られてあった。

 壁には、肖像画もある。

 数々のドレスまで、きれいなまま保存してあった。


「――メアリが死んだ後、おまえはドレスを抱いてずっと泣いていたんだ。

 ゾフィの提案を受けて、遺品を処分することになったのだが……。

 私にはできなかった。

 部屋を改築して、おまえの目の届かないここにすべて収めた」


「だから、あたしはこの部屋を知らなかったのね」


「この部屋を知る者は、侍従くらいだ」


「良かった……」


 マリイは言う。


「母様のものは全て処分されたと聞いて、あたし、悲しかったの。

 父様を恨んだりもしたわ。

 このお部屋を知ることが出来て、本当に良かった……!」


「私は――」


 国王は、後悔を口にする。


「おまえのことは、全てゾフィの言いなりで、任せっぱなしだった。

 ちゃんと自分で接していれば、今回のような事件は起きなかったのだな――」


「あたしも、きちんと父様に聞いてもらえば良かった……」


 マリイは今、決意する。


「あたし、今度からちゃんと自分で父様に伝えるわ。

 もう人に頼まない」


「マリイ……。私も、そうしよう」


 顔を見合わせる親子。


「あー、なんだ、その――」


 グリーンが、申し訳なさそうに口を挟んだ。


「トルタが戻ってきた。

 この後、人が集まってくると思うし、俺たちは面倒が起こる前に下がりたいんだけど――」


「ああ、そうだな。

 今はセツゲンを優先させるべきだ。

 会議は深夜に及ぶだろうから、2人はゆっくり休みなさい」


「はい、父様。

 ――あ、マリイ隊長が一緒に来てくださってるの。

 お祖母様から書簡を預かってるから、明日、隊長と一緒にお届けするわね」


「え? 虹の谷のマリイが?」


 国王の顔色がはっきりと曇る。

 十数年前、サンリク王子がメアリを谷から連れ出すとなった時、マリイ隊長がどのような意地悪で反対したのか、うかがい知れる――。


 俺には、分かるぞ……!


 同じ被害者として、グリーンは同情を禁じ得ない。


「あ、グリーン君、君にも後で話を聞きたいのだが」


 グリーンは、


「俺にも、積もる話があります!」


 と返した。


 マリイとグリーンは王の部屋を出る。

 念のため、マントのフードを深く被った。


 王が味方で、本当に良かった。

 もし、王が首謀者だとしたら、マリイは立ち直れなかっただろう。


 貴賓室へ戻る途中、2人は小ホールに立ち寄ったが、誰もいなかった。

 部屋に戻ると、隊長はすでにベッドで寝ている。

 守衛2人が大臣を呼びに行かされたことで、作戦成功を判断し、眠りに戻ったのだろう。


「俺たちも寝るか。明日が勝負になりそうだ」


「みんなに家出の言い訳をしなくちゃいけないわね……。

 気が重いけど、寝てしまいましょ」


 明かりを消し、それぞれベッドに潜り込む。

 そして、数分後。


「大変、グリーン!」


 マリイは悲鳴のような大声を上げた。


「なんだよ、ビックリさせるなあ!」


 今、まさに眠りにつかんとしていたグリーンである。


「敵襲かっ!?」


 隊長にいたっては、傍らの剣に手を掛けていた。

 消されたランプの明かりが、再び灯る。


「グリーン、隊長……、どうしよう……!?」


 マリイは涙目になっていた。


「どうした、言ってみろ?」


「何があった!?」


 マリイ、答える。


「着れるドレスが……、ない」


「—―—―—―—―は?」


「あたしの持ってる中で、一番採寸の新しいドレスが、手配書のあれだったの!

 城にあるドレスは、全部着られなくなってる!」


「はあ?」


 二人にとっては、至極どうでもいいことだった。


「明日、父様に書簡を渡すのよ!?

 誰が同席するか分かんないし、こんな服じゃ廊下も歩けない!

 グリーン、どうしたらいいの!?」


「どうって――」


 正直、どうでもいい。


「あ、ほら。メアリ王妃のドレス。

 王の部屋にいっぱいあっただろ?」


「母様……、スタイルのいいお人だったみたい…」


「そうだな。メアリは私よりも胸がデカかった」


 マリイのスタイルでは、部分的にひどくブカブカになってしまう。


「城に、年の近い子はいないのか?」


「……トルタ」


 男子の馬番に、何を期待する?


「年の近い女の子がいたら、あたし、孤独に手芸してないわ」


「……」


 くだらないと思いつつも、グリーンはちゃんと考える。


 10代のドレス、10代のドレス……。

 ホダン商店の取り扱いにマリイのサイズはあったが、馬車の積み荷は今、ウバクロだ。


「あ!」


 思い出した。


「えーと、なんて店だっけ?

 ほら、サヒロでマリイがさらし者になった時に、誰かが言ってた店!

 『シュビシュビ』!

 そうだ、『シュビシュビ』だ!

 『ウカニのシュビシュビでサイズ違いのドレスが売ってる』って、誰か言ってた!」


「シュビシュビ!

 あたしも、聞いたことある!

 そうね、—―—―サヒロで聞いたんだわ」


 ついでに、嫌なことも思い出した。

 パッツンパッツンのドレス姿をさらした醜態は、忘れてしまいたかった……。


「なあ、なんだよ、さらし者って?」


 隊長に、余計なことを知られた!


「良かったな、マリイっ! これで解決だっ!」


「え、ええ!

 作ってもらう時間はないから、あたしに合う既製服を探すわっ!」


 2人は、勢いでごまかそうとする。


「朝一番で向かうぞ!」


「早く寝ましょう!」


「なんだよ、さらし者って?」


 追及されたら面倒と、速攻、ベッドにもぐりこんだ2人は、旅の疲れと緊張が解けたのもあって、本当にすぐに寝てしまった。    


「なんだよ、さらし者って……?」

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