表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
10 サンリク城
22/36

サンリク城と、美女

「虹の谷のマリイだ。

 長老からの書簡を預かってきた」


 隊長は虹の谷の正装をし、美しく化粧までしていた。


「た……、ただいま、すぐに担当者を……」


 あっという間に魅了された2人の兵士は、『すぐに』と言っておきながら、ぽ~っと口を開けて城門から動かない。


「担当はガルド外務大臣か?」


「あ、はい!

 先ほど城下町のご自宅にお帰りになりましたが、御使者殿がいらしたとなれば、すっ飛んで戻るかと……!」


「そうか」


 障害が1つ消えて、都合が良い。

 隊長はニヤリとほくそ笑んだ。


 が、門番の2人には、なまめかしく微笑んだように見えたらしい。

 目が、メロメロに溶けた。


 隊長はトドメとばかりに優しい声を出す。


「城門が閉じてるということは、もう5時を過ぎているのだな。

 ガルドを呼び戻す必要はない。

 今日中に国王と面会することは、諦めよう」


「と、とんでもありません!」

「虹の谷からの御使者殿なのですから、お伝えすれば、きっと!」


 美女を帰すまいと、2人は全力で引き留める。


「いや、馬で駆けてきて、私も疲れた。

 急ぎの書簡ではないのだから、お会いするのは明日でいい。

 どこか、宿を紹介してもらえないだろうか?」


「宿などと!」

「すぐに、侍従を呼んで、貴賓室にご案内します!」


 ことは、思惑通りに進んでいる。

 マントのフードを深く被り、隊長の後ろに控えているマリイとグリーンは、心の中でガッツポーズをした。


 あとはゾフィに気をつければ良いだけだ。


「どうぞ、中に」

「馬をお預かりします」


「うむ」


 隊長は当たり前のごとく、自分で積み荷を降ろそうとした。


「わああああ!」


 グリーンが大声を出す。


「待って! 隊長、持たないで!

 荷物は俺が運びます!!」


 いつも通りにひょいひょい大荷物を担がれては、せっかくの美女ぶりが台無しだ。

 隊長には、なんとしてでも美女を継続して、兵士たちの目をマリイから遠ざけてもらわねばならない!


 裏でこっそりジャンケンをして勝った方の兵士が、


「御使者殿、応接の間にご案内します!

 荷物はお任せ下さい!」


 ここぞとばかりに隊長の荷物を引き受けた。

 負けたもう1人は、悔しくも見張りを続行である。


 マリイ隊長は手ぶらで、グリーンとマリイは自分で自分の荷物を持って入城する。

 城内では、男も女もすれ違う者みなが隊長に釘付けで、作戦は大成功だった。


 誰もそこにマリイ王女がいることに気づかない。



 応接の間で少し待たされ、案内されたのは2階の貴賓室。


「御使者殿、すぐにお茶をお持ちしましょう。

 ケーキが良いですか? それとも果物が?」


 使用人が、少しでも長く隊長とお話したいとサービスを持ちかける。


「おや、お付きのお一方は男性ですね。

 もう1部屋ご用意いたしましょうか?

 もしお部屋が暑ければ、半分しか開きませんが窓を開けていただいて、いや、私が開けていきましょうか?」


 なかなか部屋を出て行ってくれない。


「いろいろありがとう」


 隊長は、美しく微笑んだ。

 そして『お一方の男性』を指さして、


「こいつは男だが、私の護衛だから別室で休ませる訳にはいかない。

 ここには4つもベッドがあるのだから、どうぞお気になさらずに」


 とグリーンだけ別室に移されるのを断った。

 実際のところ、グリーンの護衛に隊長が必要になっても、隊長が護衛を必要とする時にグリーンは役立たずなのだが、いい機転である。


 隊長は更に続けた。


「申し訳ないが、私は腹が減っている。

 お茶よりも夕食をいただきたい」


 グリーンは「色気がない!」とハラハラしたが、用事を言いつかった侍従はわかりやすく喜んだ。


「すぐに伝えます!

 美味しいご飯を用意させます!

 ほんの少しお待ち下さい!」


「ありがとう。さっさと伝えに行ってくれると嬉しい」


「はい! すっ飛んで行ってきます!」


 彼は期待に応えるべく、部屋からぶっ飛んでいった。


「—―—―すごいな。誰もマリイを見なかった」


 グリーンはやれやれと、マントを脱ぐ。


「仕える姫に気づかないなんて、失礼な人たち!」


 進入成功なのに、マリイは面白くない。

 隊長は、ごろんとベッドに横になった。


「疲れた。頬の筋肉が硬直しそうだ」


「こんなところで隊長の美人が役に立つとはな。

 ムダ美人がようやく日の目を見た」


「なんだよ、ムダ美人って!」


 安堵してはしゃぐ2人を尻目に、逃げ出した城に戻ってきたマリイは落ち着かない。

 虹の谷からの使者なのだから、相応の客室に通されるとは思っていたが、まさか、2階の貴賓室に通されるとは思わなかった。


「――グリーン、マリイ隊長、こっちに来てもらっていい?」


 マリイは2人を窓辺に呼んだ。

 この建物は中庭を囲むように『コ』の字型をしていて、2階部分は、貴賓室と王族の部屋が向かい合わせに建っていた。

 王の親族のために用意された貴賓室なのだ。


「この部屋の、ちょうど向かいが父様の部屋。

 右から窓8つ分」


 はたして、あの部屋にいる父はマリイの味方だろうか……。


「左はあたしの部屋で、建物の端から窓4つ分」


 夕日が向かいの窓に反射して射し込み、眩しい。


「さすが、王の部屋は広いね」


「昔は、真ん中に母様の部屋があったの。

 亡くなった後に、壁を取って一部屋に改装したから」


 ちなみに、この貴賓室は窓が4つあり、それでも4台のベッドを置ける広さがある。


「この窓――」


 グリーンは取っ手を掴んで開けようとしたが、途中でガコンと止まってしまった。


「本当に半分しか開かないな。

 こりゃ、窓から進入するのも、逃げるのも無理だ」


「防犯のために、全開しないよう作られてるの」


「バルコニーもない」


「すぐそこの、ホールにならあるわ。

 あんな暗殺者の隠れやすい場所、わざわざ私室に作らないわよ」


「じゃあ俺たち、どこから王の部屋に忍び込めばいいんだよ?」


「――あたし、思うのだけど、」


 マリイは言った。


「王族の部屋って、侵入者向けに作られてないのよ」


「そりゃ、そうだな……」


 グリーンは頭を抱える。


 コンコンとドアがノックされ、マリイは慌ててフードを深く被った。

 グリーンの合図で、隊長が「どうぞ」と声をかける。


「お食事をお持ちしました」


 なんと、コック長(男)自らがワゴンを引いてきた!


「虹の谷からわざわざお越しいただいたそうで、わたくし、腕をふるいました!」


 チラチラと隊長を見ながら、テーブルに料理を並べる。

 コック長にただ付いてきただけの男2人は、


「暗くなってきたので、ランプを灯しますね! カーテンも引きます!」


 と、チラチラ隊長を覗き見しながら火を入れていく。


 マリイは、テーブルに着くべきかどうか迷ってグリーンを見た。

 食卓に着くなら、マナーとしてフード付きのマントを脱がなくてはならない。


 隊長はしつこくまとわりつく視線に辟易とし、無言ではあるが、


「無駄な客が増えてるぞ!

 おまえの美女作戦のせいで!」


 冷たい視線でグリーンを責めた。

 左右から対処を求められ、グリーンはため息交じりでコック長に声をかける。


「後は私がいたします。

 どうぞ、お戻り下さい」


 コック長は即答。


「いえいえいえいえ、とんでもない!

 私めの料理が御使者殿のお口に合いますか、心配でなりません!

 給仕いたしますので、皆様方、どうぞ席にお着き下さい!」


「俺たちも、ここで控えています!

 何かご用がありましたら、なんなりと!」


 誰一人として帰りそうもない。


「私は――」


 イラついた隊長が、それでも声を押さえながら言った。


「草原育ちの戦士なので、見られながら食事をするのに慣れていない。

 出て行ってくれなければ、ごちそうを前にしたまま飢え死にすることになる。

 町に戻って食事をするべきだろうか?」


 彼らは慌てる。


「あああ、それは申し訳ありません! すぐ出ます!」

「今すぐ出ます!」


 わたわたと出てゆこうとする男たちの背に、隊長は釘を刺す。


「私は小食ゆえ、お代わりとか、食後のお茶はいらない。

 食べたらすぐに寝るので、次に会うのは明日の朝だ」


 つまり、朝まで来るな、と。

 そして、最後に『ああ、私は美女だったか』と思い出したように魅惑的に微笑んだ。


「朝食を、楽しみにしている」


「は、はいっ!」


「そちらの2人も、明日、また会おう」


「はい……!」「はい……!」


 男達はフワフワした足取りで、部屋を出ていった。


「なんだよ!

 何とか出来るなら、さっさとしてくれればいいじゃないか!」


「思ったより、役立たずだったな。

 マリイ、食べよう」


「え、ええ……」


 マリイは怒っているグリーンを気にしながらマントを脱ぎ、3人は食卓に着いた。


「この肉、うまいな」


「盛りつけがおしゃれすぎて、物足りない」


 グリーンと隊長はもりもり食べる。

 マリイは、食が進まなかった。


「どうした、マリイ?」


「……」


 腹が減っていないわけではない。


「父様に……お会いするのかと思ったら、緊張して……」


 城を出る前から、緊張感なしで会うことができなかった父なのだ。

 『生死を問わず』で手配したのは父なのかもと疑っている今は、なおさら怖い。


「でも……」


 父と最後に会った日を思い出す。

 リヨク王子との結婚を言い渡された。


「あの時は、ひどいと思って泣いたけど、父様の言うことは正しかった。

 同盟がもたらす成果を考えたら、カイソク王子との結婚は、彼を捕らえて監禁してでも必要だわ……」


「……」

「……」


 グリーンと隊長は、どう返して良いか分からない。


「父様、ウバクロのために兵を出してくれるかしら?

 お会いして、そのまま監禁されたらどうしよう……」


「あー、なんだ、その、」


 隊長は興味本位で質問した。


「サンリク王ってのは、そんな恐ろしいヤツに変わってしまったのか?

 昔、虹の谷で会った時は、へなちょこ王子だったのに」


「父様は――」


 答えようとして、マリイは続きが出てこないことに気が付いた。


 はて、国王はどのような人物だろう?

 母が生きていた頃には、よく遊んでもらった記憶がある。

 が、ここ数年は遊ぶどころか、長い会話すらした覚えがないのだ。


「……そう言えば、父様のことは全部ゾフィからの又聞きだわ」


 それでなんとなく、娘に理解がなく、また関心も無い父だと思い込んでいた。

 これが誤解という可能性はない?


 旅をしてきて、マリイは噂がどんなにいい加減なものかを知った。

 安易に又聞きを信じてはいけない。


 ゆえに、


「父様のことは――、よく分からない……」


 そうとしか言えなかった。

 人から聞いたことを伝えるより、自分の中の、確実なことだけを伝えたくなったのだ。


「なあ、虹の谷ではどんな人だったんだ?」


 グリーンも国王に興味がある。


「うーん、あの頃はまだ王子だったけど、なんか、いけ好かないヤツだったな」


 隊長は続ける。


「ほら、私たちは戦士を見慣れているから、男って言うとデカくてムサくて強いってイメージがあるだろ?

 サンリク王子は、グリーンみたいなヒョロっと弱っちろい男だった」


「……」


 例え話で貶められたグリーン……。


「ただ、」


 隊長は、懐かしそうに言った。


「メアリは何かと世話を焼いちまったんだ。

 あいつ、弱い者を放っとけないからな」


「メアリって、マリイのお母さんだろ?」


「そう。

 少女の頃、私は気弱で臆病な乙女だったけど、こんな風に強くしてくれたのがメアリだ」


「「ええーっ!?」」


 意外な展開に、グリーンとマリイは驚いた。


「いや、本当よ? 人前に出ることすら怯えてたんだから。

 草原じゃあ、当たり前に仲間はずれにされてて、メアリだけが私を根気強く鍛えてくれた。

 おかげで、今や、こんなにも堂々とした戦士だ!」


「マリイ、おまえの母さん――」


 なんてことをしてくれたんだ!

 可憐な美女が、デリカシーのない怪力のムダ美人になってしまった!


 …………と責めたいところを、グリーンはグッと堪えた。


「母様、優しい人だったのね」


「優しいだけじゃなく、芯が強くて、根性もあった」


「根性?」


「王子には正式な婚約者こそいなかったけど、花嫁候補は数名いたんだ」


「あたしも聞いたことがある。

 カイソク貴族の娘が何人か候補に挙がってたって」


「最終候補まで選定が進んでて、その娘たちにはサンリク貴族の後ろ盾まで決まっていたんだと。

 だから、結婚の反対派は結構いて、メアリと王子は2人で何か月もかけて説得して回ったそうだ」


「聞いてたのより、ずっと大変だったのね……」


「まあ、メアリのハートを射止めた男だから、あいつにも、根性だけはあったんだろうな」


 隊長は、今さらながらため息をついた。

 少なくとも当時のサンリク王子は、親友を奪われても仕方ないと思わせるほどの男だったのだろう。


 今のサンリク王は、どのような人物か――。



 食事を終えたグリーンは少しだけカーテンを開け、王の私室を見やった。


「――あれ、マリイ?」


 妙なことに気づいた。


「おまえの部屋に、灯りが付いてるぞ?」


「え?」


 マリイと、隊長も窓辺に寄る。

 向かいに並んだ窓の、真ん中辺りの2つ分に、明かりが灯っている。


「違うわ、グリーン。

 あたしの部屋は、左から窓4つ分。

 父様は寝るのが早いから、ベッド脇にある手持ちランプの明かりじゃないかしら?」


「2、4、6、8」


 グリーンは窓の数を数える。


「全部で14あるぞ? 残り2つ分は何の部屋だ?」


「そんなはず――」


 マリイも数える。


「13、14……。本当だわ。14ある。

 父様の部屋の窓、10だったかしら?

 ――ううん、そんなはずない。あたし、何度も数えてるもの」


「窓を数える機会なんて、そんなにあるか?」


「家庭教師の先生と、月に1回、成績の報告をしにいくの。

 けなされっぱなしで面白くないから、あたし、窓ばかり数えてた」


「へえ……。けなされっぱなしなんだ」


「……」


 窓ではなく、成績の感想を言われた……。


「間違いなく窓は8よ。

 カーテンのタッセルだって数えたことあるんだから!」


「じゃあ、残り2つは誰の部屋だよ?」


「……」


 マリイは、もう一度数えてみる。

 右から8つが父の部屋。左から4つがマリイの部屋。


 どうしても明るく灯っている2つの窓が余る。


「貴賓室から自分の部屋を見ることなんて、なかったから――」


 こんな不思議、考えたこともなかった。


「あそこに入り口はあるのか?」


 隊長も興味津々だ。


「廊下にある扉は、父様と私の部屋だけだから、多分、父様の部屋から入るんだと思う」


「じゃあ、とにかく国王の部屋に行けば謎が解ける。

 グリーン、考えろ」


「考えろって……。

 俺にだって、無理なことがたくさんあるんだぞ!」


「そんなこと、威張るな。

 あそこに国王がいるんだから、なんとかしろ。

 明日になったらガルドが来るんだぞ」


「そんな……、今夜中に、誰にも見とがめられずにあの部屋に行く方法なんて――」


 その時、コンコンと扉がノックされた。


「開けるな!」


 隊長が大声を出し、扉が開かれるのを阻止する。

 マリイは慌ててマントを取りに行き、フードを深く被った。


「今夜はもう、来るなって言ったのに!

 マリイ、使用人のしつけがなってないぞ!」


「隊長の美人が悪いのよ!」


 窓際に立ったマリイが扉に背を向けたのを確認して、グリーンはオーケーの指示を出す。

 隊長は、


「開けてもいい!」


 美人らしからぬ許可を出した。

 扉が開き、


「失礼します。ワゴンを下げに来ました」


 はにかみながら入ってきたのは、まだ十代前半の少年だ。


「すぐに寝るからいいって言ったのに!

 とっとと持っていけ」


 隊長は苛々が全開。

 グリーンが「美人、美人」と、小声でなだめる。


「あの……、休まるお茶でもお持ちしましょうか?」


 不機嫌の理由が分からず、少年はビクビクと聞いてきたが、


「いらん。さっさと出ていけ」


 隊長は、にべも無い。

 落ち込む少年。


 その時である。


「トルタ? トルタじゃなくて?」


 マリイがフードをめくりながら、少年に声をかけた。


「あれ、姫様!?」


「このバカ!」

「バカマリイ!」


 見事な連携でグリーンはマリイを背に隠し、隊長は扉の前に立ちはだかった。


「ごめんなさい! 懐かしくて、つい……!」


「いい加減に学習してくれ!」


 トルタは閉じ込められたことに気づかず、ポカンとしている。


「驚いたなー。なんで、姫様がここに?」


「トルタこそ、どうしてここに?」


「俺、今夜は見回り当番だから、腹ごしらえしておこうと思って食堂に行ったんだ。

 そしたら、すっごい美人が泊まってるって、盛り上がってて。

 みんながワゴン下げに行きたくても行けないって困ってたから、代わりに下げてやろうかって……」


「トルタって、確か馬番だよな?

 城内の見回りもしてるのか?」


「そりゃあ、なんだってやるよ!

 いつまでも馬番のままじゃいられないからね。

 姫様も、なにかあったら俺を使って!」


「なるほど――」


 グリーンは頷いた。

 つまり、この野心あふれる少年は、コック長に取り入ろうとして、ワゴンを下げに来たのだ。

 (隊長が「明日まで来るな」と追っ払っていたことも知らずに)


「ちょうどいい。

 トルタ、マリイは父親に会いに戻ってきたんだ。

 誰にも知られずに国王の部屋に行きたい。

 できそうか?」


「誰にも知られずに?」


「ああ」


 少年は考えた。

 姫様の願いを叶えたら、出世の道が開けるかもしれない。

 が、


「――――無理」


 どう考えても、それは無理だった。


「今夜の見回りは俺だからいいとして、王の部屋の前には、守衛が2人いるんだ。

 彼らをどかすのは、絶対、無理」


「そうね。怪しい者を近づけないのが仕事だもの。

 城では、それを徹底してるの!」


 誇らしげなマリイに、グリーンは舌打ちする。

 このお姫様は、誰のためにこうして頭を悩ませているか、分かってないらしい……。


「この部屋から国王の部屋まで、衛兵は何人だ?」


「今夜の客はあんたたちだけだから、その2人だけだよ。

 姫様がいれば奥の部屋にも守衛がつくけど、今、家出中だから」


「そうか……」


「あのね、こんな感じなの」


 マリイは、ベッド脇にあるサイドテーブルから紙とペンを持ってきて、貴賓室から国王の部屋までの見取り図を描いた。


 王族の部屋は『コ』の字型の上の棒にあり、

 貴賓室は下の棒にある。

 泊まり客はマリイたちだけなので、他の部屋を気にすることはない。


「この階の真ん中は小ホールよ。

 親族が集まった時のお食事会とかをここでするの。

 父様のお部屋に行くには、この小ホールの前を通って、左に曲がる。

 守衛はここと、ここね」


 マリイは国王の部屋の位置に丸を二つうち、『守衛』と書き込んだ。


「この2人さえ何とかすればいいんだな」


 見取り図を見ながら、グリーンは考える。

 そして、答えはわりとすぐに出た。


「よし。隊長に何とかしてもらおう」


「分かった」


 隊長は右の拳と左の拳を合わせ、ニヤリと笑う。


「ヤツらを倒せばいいんだな」


「ぶっそうなことは止めてくれ!」


 グリーンは制した。


「また、美人を使うんだよ」


「はあ!?」


 隊長はあからさまに嫌な顔をする。


「おまえ、私には夫と娘がいるんだぞ?

 さっきから何やらせやがる!」


「武力行使は、俺に向いてないんだよ!

 ムダ美人が役立つ機会なんてそうそうないんだから、黙って協力してくれ!」


「おまえの『男』こそムダだ!

 助平で、姑息な手段ばっかり考えやがって!」


「マリイ隊長、あたしからもお願い!」


 マリイが2人の間に入った。


「まじめに働いている守衛が殴られるなんて、かわいそうだわ。

 嫌な役を押しつけて申し訳ないけど、もう一度だけ、助けて!」


「む……」


 隊長がちょっと退いたところで、マリイはさらに押しにきた。


「グリーン、今回の作戦は、隊長ほどの美人じゃないとできないんでしょ?」


「あ? ――ああ」


 もはや隊長を美人と認めるのも嫌なのだが、仕方がない。


「絶世の美女が必要だよ」


「お願い、隊長! 美女は珍しくないけど、絶世の美女は隊長だけなの!」


「…………まあ、」


 さすがの隊長も、悪い気はしないらしい。


「力を貸すために付いてきたんだし……」


「よし。じゃあ、作戦を説明するぞ」


 グリーンは余計なことを言わずに、サクサクと進めた。




 隊長とトルタは、楽しそうに語らいながら小ホールの前を通り過ぎる。

 角を曲がって国王の部屋の前まで来た。


 二人の後ろには、フードを深く被ったマリイとグリーン。


「おい、トルタ、何やってんだ?」


 当然ながらいぶかしがられ、守衛二人に呼び止められた。


「あ、こちらは虹の谷からの御使者殿です」


 にっこりと微笑むマリイ隊長。


「こんばんは。遅くまで仕事とはご苦労だな」


 ねぎらいの言葉まで掛けた。


「いえ……、こんなの……大変でもなんでもありません」

「これが話題の美人……。本当に美人だ……」


 2人は簡単に落ちた。

 トルタは台本通りに話を進める。


「ワゴンを下げに行ったら、星の話になったんです。

 バルコニーから夜空を眺めたいっておっしゃるんで、お連れしたいんですけど、小ホールの鍵って守衛室にありましたっけ?」


 ホールにしかバルコニーがないのは確認済みだ。


「おまえが守衛室に行ったって、貸してくれるもんか」


 そう! そんな理由で鍵が貸し出される訳がない!

 マリイは職務に忠実な守衛に、心の中でグッジョブのサインを送った。


 が、もう1人の守衛が、抜け駆けとばかりに提案する。


「トルタには無理ですが、俺が行けば貸してもらえます!

 ひとっ走り行って、取ってきましょう!」


「悪いな。星空が楽しみだ」


 隊長が嬉しそうに唇に指をあてると、彼はぶっ飛んで鍵を取りに行った。


「あの野郎……!」


 もう1人の守衛は悔しそうだ。


 グリーンの作戦では、ここで隊長が「一緒にホールで待とう」ともう1人の守衛を誘い出し、残ったマリイとグリーンは王の私室に入る――という手はずだった。


 ――が、


「待ちきれないな。ホールの前で待つとしよう。

 おまえたち、行くぞ」


 マリイ隊長は守衛を誘わず、グリーンとマリイを誘ってここを去ろうとした!


「!」「!」


 慌てる二人。


 どうしよう? こんなところで手を抜かれると思わなかった。

 なんて言って守衛をどかせばいい?


 グリーンが軽くパニックになった時、もう1人の守衛が、


「お待ち下さい、御使者殿!」


 隊長を呼び止めた。


「守衛室は遠いのです。鍵が来るまで時間がかかります!

 その間、俺が城を案内しましょう!

 月明かりに照らされた城内もまた、趣があって良いのです!」


 美人を逃すまいと、誘わずとも寄ってきた。

 本当の美人とはそういうものである。


 隊長は余裕を持ってふふんと笑い、


「王の扉を無防備にする訳には行くまい。

 夜の城内は魅力的だが、諦めるしかなさそうだ」


 と言う。


 もちろん、そんなことであきらめる守衛ではない。

 トルタに「ほら、貸してやる!」と長剣を預け、


「おまえ、できることは何でもやるって言ったよな?

 今夜の守衛の名誉を譲ってやろう。

 俺が戻るまでここにいろ」


 と仕事を押しつけた。


「御使者様、守衛はこの者が代わります。

 どうか案内させて下さい!」


「子供が一人では心許ない。

 おい、おまえたち」


 隊長はグリーンとマリイを呼び寄せ、言いつけた。


「そいつを助けて、扉を守れ。

 ちびっ子でも3人そろえば、何とかなるだろう」


 そして、


「さあ、風情のある場所に案内してくれ」


 と浮き足立つ守衛を伴い、廊下を曲がって消えていった。


「—―—―あの女! 誰がちびっ子だ!」


 グリーンは口汚く罵る。

 隊長の性格を甘く見ていたのが敗因だ。


「簡単に仕事を投げ出すなんて、ひどい守衛ね!

 でもさすが、隊長だわ!

 グリーン、早く入りましょう」


「ちくしょう! トルタ、頼んだぞ」


「任せて下さい!」


 マリイとグリーンは、重たい扉を静かに開け、中に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ