表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
9 帰路にて
19/36

虹の谷の虹

 下山中、にわか雨に見舞われた。

 先頭を行くマリイ隊長は速度を緩め、後ろをついているマリイと、その後ろのグリーンに声をかけた。


「なあ、すぐ先に、馬車を止められる草場がある。

 大したことない雨だが、休憩しておやつにしないか?」


「そうだな。ちょうど小腹が減ってきたし」


「この天気だから、きっといいものが見せてやれる」


「?」


 隊長は、マリイとグリーンに期待を持たせて先を行った。


「なにかしら?」


「食えそうな木の実がある、とか?」


 そこは、虹の谷を目指す途中、昼食を取るために立ち寄った、あの草場だった。


「奥に湧水が流れてて、馬を休めるのにちょうどいいんだ」


「行きの道中もここで休憩したんだ。

 あまりにうってつけだけど、誰かが手入れしてるのか?」


「いや。みんながここで休むから、草が踏み固められているだけ。

 ここで休む理由は――。

 後で分かるさ」


 グリーンと隊長は「馬に水をやってくる」と、マリイを残して木々が生い茂る奥へ行った。

 マリイは一人、幌馬車の中で、ダリアが持たせてくれたおやつの用意をする。


 なんだろう。この淋しさは。

 前回、ここに立ち寄った時は、希望で溢れていたような気がする。


 そうだ。あたし、グリーンとずっと旅していたいと思ったんだ……。


 馭者台でおしゃべりしたり、一緒におやつを食べたり。

 雨が降っても、泥を被っても。

 足場が悪くて舌を噛みそうになっても、楽しくて仕方がなかった。


 それが今—―—―—―—―。


 マリイは馬に乗り、グリーンは馭者台で一人手綱を握り、別々に下山。

 さみしくて、さびしい。


「こころを、つよくもたなきゃ……」


 マリイは、自分に言い聞かせるために声に出した。

 油断すると、すぐに泣きたくなる。


「旅を諦めて、城に戻る。

 自分で決めたことだわ。

 まだグリーンと一緒なんだから、楽しく行こう……」


 泣くものかと、唇を噛みしめる。

 やがて、二人が戻ってきた。


「雨だから、中で食べましょう。

 少し、片づけておいたの」


「どれ、お邪魔しようかな」


 隊長はひょいと幌の中に乗り込む。そして、物珍しげに中を見回した。


「すごい荷物だな!

 全部売り物なんだろ?」


「これでも減った方だよ。なかなか仕入れができなくて」


 グリーンも入ってきて、二人はマリイがに広げた絨毯の上に腰を下ろした。


「湖畔の町で、織物とか仕入れたかったな」


「一仕事終えた後に、また寄ればいい。

 民芸品屋は見たか?」


「そんな暇、なかった。宿と散策だけ」


「目玉商品に、ダリアが作ったショールがある。

 おまえには原価で売ってあげよう」


「勝手に約束して、後で怒られるんじゃないか?」


 グリーンと隊長の会話が弾んでいる。

 その買い付けの時、マリイはそこにいない……。


「—―—―こら、マリイ。落ち込むな」


 グリーンに頭を小突かれた。


「あたし――、別に落ち込んでないわよ?」


 どうして見破られたのだろう?


 マリイは先ほどした決心を思い出し、なんだか恥ずかしくなってダリアのパンケーキにかぶりついた。


「あ、おいしい。とってもしっとりしてる!」


「熱々のパンケーキはフワフワがいいけど、冷めてから食べるならしっとりだよな。

 そこら辺、ダリアは心得ているんだ」


 自分のことのように、隊長は自慢する。


「ダリアさんが来てくれてたら、目の前でフワフワを焼いてくれたんだろうな」


「なんだよ! 私が来たからこそ、しっとりが食べられているんだろうが!」


 言い合いをしながら、二人はガツガツ食べる。マリイも負けずに食べた。


「あ、そうだ」


 何かを思い出すグリーン。


「今夜はウバクロで1泊するから」


「あら。前と同じ宿?」


「何、悠長なこと言ってんだ?

 ここは夜通し突っ走るべきだろうが。

 セツゲンが来るまで、時間が無いことを忘れたか」


「突っ走ったって、ウバクロが戦場になるのには間に合わないじゃないか」


 グリーンは嫌な予言をした。


「どういうこと?」


 マリイは青ざめる。


「計算しろ。

 隊長、地面が乾いてセツゲンが来るまで、どれくらいだ?」


「まあ、軍隊が通れるようになるのは、1週間後だな」


「王都から虹の谷まで、早馬を飛ばしても4日。

 俺たちが王都に着いて、すぐに軍を派遣してもらえたとしても、最短で8日かかる。

 サンリク軍が到着する頃には、すでにウバクロは落ちている」


「そんな……!」


 マリイはパンケーキを落とした。


「あたしは、結局間に合わないの……!?」


「だから、あの長老は喰えないんだ。そうとう腹黒いババアだよ」


 言って、グリーンは「しまった!」と口の悪さを悔やんだ。


 その「ババア」はマリイの祖母で、マリイ隊長の上司なのだ。

 言い訳をするように、理由をつけ加える。


「虹の谷に、ウバクロを守る気はない。

 静観するって言ってたけど、独立を諦めていないなら、ウバクロはサンリクではなく、セツゲンに落とされていた方が都合がいいからな。

 最初っから見捨ててるんだろう」


「気づいてたか」


 マリイ隊長は不敵に微笑む。


「まあ、虹の谷がサンリクより谷のことを第一に考えるのは当たり前だし、そこを突っ込むつもりはないよ」


「待って!

 あたしは……、あたしは、ウバクロを守りたい。

 ウバクロの民もサンリク国民だわ」

 

 マリイは、ガクガク震えながら言い切った。

 グリーンはマリイのパンケーキを拾って皿に戻してやる。


「ちゃんと守らせてやる。

 そのためにウバクロで1泊して人を集めるんだ」


「なんだよ?

 軍人を集めて、私兵集団でも作るつもりか?」


 隊長は興味津々だ。


「残念ながら、軍人どころか役人すら地方にはほとんど残っていない。

 みんな、マリイ王女の捜索で、王都に集められてる」


「サンリク政府は何を考えてるんだ?

 北方を手薄にしすぎだろ」


「力のある誰かが、何かを企んでるんだろ」


 それは、長老が名を上げた『ガルド』という男だろうか。それとも――。


「—―—―で、誰を集めるんだよ?」


 隊長はイライラとグリーンをにらんだ。

 長話は苦手なのようだ。グリーンは結論から答える。


「集めるのは、土木作業員。湖と川を決壊させる」


「湖を壊す?」


 マリイは、湖からセツゲンまでの道を熱心に見ていたグリーンを思い出す。


「道に沿って川が流れてたろ? あれは湖から溢れた水だった。

 その川を更に増水させて、再び道を水浸しにする。

 セツゲンへの道は、急な坂道になっているから、うまくいけば相当な距離をぬかるみにできる」


「足止め作戦か!」


 ピシャンと隊長は膝を打つ。明快な返答がお好きらしい。

 グリーンは更に解説を加えた。


「敵もすぐに対策してくると思うけど、1日、2日と足止めできれば、それだけサンリク軍が間に合う可能性が出てくる。

 ウバクロでは1人でも多く作業員を集めて、セツゲンの侵攻を遅らせたい」


「分かった、グリーン! トノイ兄弟を使うのね!」


 マリイには、ピンときた。


「あいつら、人望だけはあるからな」


「あたしがさらわれた時も、みんな2人を庇ってたしね」


「ん? マリイがさらわれた時って?」


 隊長は、聞き逃さなかった。


「おい、どういうことだ? マリイはさらわれたのか?

 まさか、犯罪者を雇おうなんて、考えちゃいないよな?」


 意外にも勘が鋭い。


「誤解しないで、隊長。

 あの人たち、悪気があってあたしを誘拐した訳じゃないのよ」


「悪気が無い人さらいがどこにいる?

 グリーン、利用するにも人選はちゃんとしろ!」


「いや、俺は――」


 グリーンは考えれば考えるほど、今回の旅にマリイ隊長は不適だと思えてならない。

 なんて面倒くさいのだろう!


「あ、ねえ! 外が明るくなってきた!

 雨が止んだんじゃない?」


 マリイは矛先を変えようと、ちょっと無理目に話題をそらした。


「なに!?」


 意外なほどに引っかかる隊長。


「おい、外に出るぞ!」


「え……?」


 引っかかりすぎだ。

 まだ、おやつの最中だというのに、晴れを確認しに出る必要がどこにある?


「食べてからでいいよ。そんなに急ぐこと――」


「いいから、出ろ!」


 隊長は幌をめくりあげると、ひょいと馬車から飛び降りる。

 グリーンとマリイに「早く来い!」と怒鳴る。


「面倒くさいなー!」


「グリーン、逆らう方が面倒だわ。出ましょう」


 二人と、幌馬車を降りる。


「見ろ」


 そう言われて、隊長が指さす先を見上げると――。


「わあ……!」


「すごい!」


 雨上がり、青く晴れた空にクッキリと七色の虹が架かっていた。


「きれい……!」


 隊長が、自慢げに語る。


「草原や湖畔の町が、なぜ虹の谷って呼ばれてるか、不思議に思わなかったか?

 ここらから見ると、ちょうど虹の根元にあるからだ」


「これが、虹の谷の由来なのね……!」


「そうか!

 だからみんな、ここで休憩するんだ!」


「山の天気は変わりやすいからな。よく雨が降って虹が架かる。

 縁起がいいだろ?

 この先、きっと良いことがあるぞ」


「そう、ね……! きっと良いことあるわ……!」


 マリイの頬がバラ色に上気する。

 それを見て、グリーンと隊長はホッと安堵した。


 二人とも、マリイに元気がないことをかなり心配していたのだ。


 再び、一行は山を下る


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ