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姫様、お逃げください!!  作者: 一本松
7 暗殺兄弟
14/36

姫様、倉庫にて

 訳の分からぬままマリイが担ぎ込まれたのは、裏通りの倉庫だった。


 マリイは生きていた。

 が、それも風前の灯火かもしれない。


「はあ……、ふう……」


 ナイフを手にし、今にも刺さんという構えで狙っている男が、マリイのすぐ目の前にいるからだ。

 倉庫の壁際まで追い詰められたマリイは、拾った小犬を胸元に抱きしめ、ギュッと目を閉じた。


 ――――と、そこから、すでに30分は経過している。

 マリイはその体勢に疲れてきた。


 どうなってるのかしら……??


 恐る恐る目を開けると、


「きゃっ……!」


「はあ、はあっ……」


 マリイが30分前に見たのと同じポーズのまま、彼はダラダラと汗をかき、タラタラと涙を垂れ流していた。


「うう……っ、うっ……」


「もういい、ジム。

 俺が殺るから貸せ」


 倉庫の真ん中で荷物に座っていた、もう一人の男がやってくる。

 マリイを抱えて走った方の男だ。


 ずっと見守っていたが、さすがにしびれを切らしたらしい。

 ジムと呼んでいる男から、ナイフを取り上げようとする。


 その瞬間、


「うおーっっっっ!!!」


 ジムが、狂ったかのように叫びだした。


「どうした、ジム!?」


「無理ーっ、絶対、無理!

 こんな女の子殺すなんて、絶対、無理い!」


「バ、バカ!

 大声を出すな! 俺が代わる!」


「無理ーっ、絶対、無理!

 女の子が殺されるとこ見てるなんて、絶対、無理い!」


 なんと、ジムはマリイの前に大の字で立ちはだかった。


「――――なんのつもりだ?

 どけ。

 そして、ナイフをよこせ」


「無理……。

 うう……、ダンの兄貴に、人を殺させるなんて、絶対、無理……」


 ジムはしくしくと泣き出し、ペタリと床に座り込む。


「ちっ!」


 ダンは諦めた。

 多分、普段からジムはこうなったら手が付けられないのだろう。


「なあ、兄貴い……」


 ジムはスンスンと鼻をすする。


「裏の連中に、ここに来てもらおう?

 サリイ王女は生きてても死んでてもいいんだろ?

 生かしたまま、ヤツらに引き渡そうよ」


「おまえの精神上、そうした方が良さそうだな。

 いいよ。

 それでいこう」


 二人は決着したようだ。

 つまり、マリイはここで、裏の賞金を掛けている連中に引き渡される。


 ちっとも良くない!!


「あたし、サリイ王女じゃない……!」


 まだ怖かったが、マリイは頑張って声を張った。


「あたしは、サリイ王女じゃない!」


 兄弟は一瞬、キョトンとした。

 ダンがポケットから手配書を取り出して見比べる。


「嘘、つくな。

 黒目、黒髪。十四歳。

 サリイ王女だろ?」


「違うわよ。

 サリイ王女なんて知らない」


「あ、兄貴」


 ジムが気づいたようだ。


「サリイ王女じゃなかった。

 マリイだよ。マリイ王女」


「あ、本当だ。

 いつからサリイになったんだ?」


「犬のサリーちゃんと混ざったんだねえ」


 どうでもいい。

 ダンはマリイに向き直って、


「さっきのは間違いだ。

 おまえ、マリイ王女だな」


 と言い直した。


 マリイはここで、「違う」と言えばいい。

 それで解放されるかもしれない。


 が、マリイには言えなかった。


 だって……、あたしはマリイ王女だわ――。


 危うい場面は、これまでだって何度もあった。

 が、その都度グリーンが先んじて「俺の妹だ」と言ってくれた。

 マリイは「あたしはマリイ王女じゃない」と嘘をつく必要がなかったのだ。


 一言違うと言えば良いのに、今、それが言えない。


「う……っ、うえっ……」


 泣き出した。

 キャンキャンと、犬が吠える。


「なんだよ、おまえ、マリイ王女だろ?

 さんざん悪いことをしたそうじゃないか。

 諦めて、俺たちの役に立って死んでくれ」


「あなたたちに迷惑かけてないじゃない。

 グリーンの所に帰してよ……!」


 キャンキャンと、犬が吠える。


「グリーンって、一緒にいた男だな。

 恋人か?」


「へえ。

 マリイ王女って、十四の若さで駆け落ちだったの?」


 兄弟が、興味津々で覗き込んでくる。


「グリーンは……、兄さんよ」


 この設定は心が痛むことなくスッと出た。


「嘘をつけ!

 金髪のあいつと黒髪のおまえが、どういう遺伝子操作で兄妹だよ?」


「父様が違うの」


「え?」


「あたしたち、父様が違うの。

 旅商人だから、よくあることなんですって」


 父親は本当に違うのだから、心も傷まない。


「へえー!

 やっぱり旅人って、そういうこと、よくあるんだねえ!」


 ジムは(旅人に失礼だが、)素直に受け入れた。


「旅商人だって?」


 ダンは、違うところに引っかかってくれた。


 マリイは言う。


「あたしたちも旅商人よ。

 ホダン商店って、幌馬車のお店やってるの。

 この町ではお店を出してないけど、よく市場に出店してるわ」


「あ、俺知ってるよう、ホダン商店!

 子供服とお菓子の店だろ?

 子どもの頃、かーちゃんに、焼き菓子を買ってもらった!」


 ジムの言う『ホダン商店』は、年齢からいってシュウとビビの前の代だろう。


「ごめんなさい。

 今は焼き菓子、売ってないの。

 あたしがお菓子を焼けないし、グリーンは食品を置かない主義だから」


「残念だなあ!

 俺、ホダンのお菓子、好きだったんだあ」


「あたしも好きだわ。

 特にカップケーキ」


「俺が好きだったのもカップケーキだよ! 

 パン屋に就職した時、何度か作ってみたけど、あのしっとりふわふわ感は出せなかったなあ!」


「馬車にレシピノートがあるから、再現できるなら、あなたにあげてもいい。

 あたしももう一度、あのカップケーキ食べたいから」


「ちょっと待て」


 盛り上がっている二人に、水を差すような鋭い声でダンは止めた。


「おまえ、ホダン商店のマリイなのか?」


「そうよ。

 ホダン商店は、あたしとグリーンでやってるお店なの」


「!」「!」


 ジムも絶句。

 ようやく気づいたのだ。


 犬がキャンキャンと吠えて、二人は我に返る。


「あー、兄貴……」


「分かってる、ジム……」


 2人は一緒に青ざめた。


 カップケーキのレシピまで持っているということは、この娘、本当にホダン商店のマリイなのだろう。

 しかしそうなると、2人は白昼の往来で、何の罪もない女の子を誘拐したことになる。


 『正義』と信じて気にも留めなかったが、目撃者が大勢いた。


「ああああああ兄貴……」


「分かって……る、ジム……」


 マリイを帰して何もなかったことには――――できない。

 妹がさらわれたのだ。

 兄だって、黙っちゃいないだろう。


 自分たちは今、とうに手配された犯罪者なのかもしれない――――。


「このマリイは帰せない……」


「兄貴?」


「本物のマリイ王女よりも、たちが悪い!」


 マリイが王女であるならば、裏の連中に渡して金をもらい、それで終わりだった。


 が、ホダン商店のマリイとなったら、2人は金をもらえないばかりか、拉致、監禁ですでに2犯。

 帰したら居所がバレて逮捕にいたるし、殺したら3犯の犯罪者となる。


 なんと取り扱いの難しいことだろう。


「――――ジム、こんな噂を聞いたか?」


 切羽詰まったダンは、不確かなことまで口にした。


「マリイ王女の遺体は、本物じゃなくても、背格好さえ似ていれば金が支払われるらしい――」


「何を言い出すんだよおっ!?」


 似ている者がいたら、誰でもいいから殺して連れてこいということだ。

 つまり、旅商人のマリイは、マリイ王女に似ているっぽいから殺される。


「ダ……………、

 ダメーっっっ!!」


 ジムは絶叫した。


「絶対、ダメっ! あんまりだ!

 似てるから殺すなんてあんまりだよ、兄貴っ!!」


「じゃあ、どうすんだよっ!?

 生かしておいても面倒なだけだぞ!」


「だって、だって、だって!」


 ジムはポケットからバサバサっと紙を取り出した。

 折りたたんであったり、くしゃくしゃになったりしているが、これらは人捜しをするならついでにと、人から貰ったり、掲示板から剥がしてきた手配書だ。


「どれだっけ?

 どれだっけ?」


 集めすぎて、どれがどれだか分からない。

 何枚かを開いて、ようやくお目当てを見つけた。


「見てよう、これ!」


 それは、マリイ王女の手配書。

 愛らしい白いドレスを着て、優雅に微笑んでいる。


「比べてみて!」


 ジムはぐいっとマリイを引き寄せて、手配書と見比べさせた。


「むむむむむ、厳しいか…………!?」


「当たり前だよ!

 こっちはたかだか商人の娘だよ!?

 王女様みたいに白い肌でもなければ、無邪気な笑顔もない!

 同じドレスを着せたって、マリイ王女様とは別人だよう!」


「失礼よっ!」


 さすがに聞き捨てならなくて、マリイは声を上げた。


「あたしだって無邪気に笑うわよ!

 王女のドレスだって、数ヶ月前なら着れたわ!

 日焼けした肌は、頑張って働いた証なんですからね!!」


「お、怒るなよぉ、俺はおまえを助けてやろうと――」


 と、その時である。

 倉庫の扉がバンっと開いた。

 数十名もの浮浪者っぽい老人たちが、どやどや入ってくる。


「トノイ兄弟!」


「おまえたち、どうしてここに……?」


「あんたら、何やらかしたんだ!?」


 彼らは口々に言う。


「町に、あんたらを捜している男がいたぞ」

「おっかない顔をして、剣を持ってた!」


「剣だと!?

 もう役人にかぎつけられたのか!」


「いや、あれは役人の剣じゃない。使い込まれた兵士の剣だ」

「見つかったとたん、ぶった切られるぞ!」

「すごい勢いだったもんな。怖かった!」


「キャンキャン!」


「なんだ、この……?」


 浮浪者たちは小犬を抱いているマリイの存在に気づいた。


「女の子?」


 と、またその時である。

 開いたままの入り口から、黒く汚れた筋肉質の若者たちが数十名、またもやドカドカと押し入ってきた。


「トノイ兄弟はいるか!?」


 彼らは先に来ていた浮浪者たちに驚いたが、その中から兄弟を見つけ、マリイを見つけ、更に驚いた。


「町で聞いたことは本当だったのか!」

「ダン、ジム! おまえたちが女の子をさらったと聞いて、俺たち、居ても立ってもいられなくて――!」

「何てことをしでかしたんだ……!」

「剣を持った男が、おまえたちを捜していたぞ!」


 最後に、男が一人現れた。


「マリイ!

 マリイはいるかっ!?」


 グリーンだ。

 手には剣を持っている。


「グリーン、あたしはここ!」


 マリイは大声で呼んだ。


「マリイ!」


 その姿を確認したグリーンは、少しだけ安堵の表情を見せた。

 が、マリイは浮浪者や、やたらと体つきの良い男たちに囲まれている。


 グリーンは剣を構えた。


「おまえたちが、マリイをさらったのか?」


 問いただすその声は、怒りに打ち震えていて恐ろしい。


「え、わし?」

「俺じゃないよ!」

「なに、やっぱりさらったの?」


 その場全体がオロオロと戸惑う。


「全員、覚悟しろ!」


 飛びかかろうと、剣を振り上げるグリーン。


「待ってー!」

「待って待って!」

「待って!」


 慌てた彼らは、ずいずいずいずいと、奥にいたマリイを前に前に押し出した。


「え? え? え?」


 あっという間に、グリーンの前に差し出されるマリイ。


「マリイ!」


「グリーン、ごめんなさい、あたし――」


 感動の再会でマリイはギュウっと抱きしめられ――――ることはなく、そのまま押し込むように背に隠された。

 安全第一。

 それでも、扱いは乱暴だったが、マリイはグリーンの後ろに隠れ、ようやくホッとした。


 グリーンは剣を構え直して、男たちを睨む。


「おまえたち、どういうつもりでマリイをさらった?」


 低い声には迫力があり、男たちは一言も発することが出来ない。

 彼らは顔を見合わせた。

 1人が何やらジェスチャーをして、全員がコクコクとうなづく。


 次の瞬間。


 ダンッ!――と床を震わせて、彼らは一斉に正座し、


 ドンッ!――と音を立てて両手を着けると、


 ガシッ!――と勢いよく頭を下げ、


「ごめんなさい!

 許してやってください!」


 そろって土下座した。


「……」


 呆気にとられるグリーンとマリイ。

 ジムとダンも呆気にとられていた。


「なんだ……?」


 グリーンには、取り残されて突っ立っているこの2人がトノイ兄弟だと分かった。

 その他大勢のこいつらは、なんだろう?


 浮浪者らしき者が一人、ビクビクしながら申し出る。


「すんません。

 この2人を許してやってください。

 悪いヤツらじゃないんです!」


「うちのマリイをさらったコイツらの、どこが悪いヤツらじゃないんだっ!」


 ひぃっと怯えて浮浪者は引っ込み、代わりに若者が立ち上がった。


「切羽詰まって、魔が差したんだ!

 そういうことって、あるだろっ?」


「そうだよ、本当は優しいヤツらなんだ!」


 次々と弁護の声が上がる。


「俺たち、炭坑の坑員なんだけど、ジムは休みなく働かされていたみんなのために、1人で雇用主に掛け合ってくれたんだ!」


「待遇は改善されたけど、その後、兄弟そろってクビにされた」


「俺たちををかばって、犠牲になったッス!」


 浮浪者も言う。


「ダンも、本当に良いヤツなんです!」


「パン屋で働いている時に、わしらに売れ残りをくれたんだ」


「それが店主にバレてクビになったんだ」


「兄も弟も、弱いヤツを放っとけないんだ!」


 皆がトノイ兄弟をかばう。

 当の兄弟は、


「すまねえ、みんな……!

 俺たちは、そんなに良いヤツじゃない……!」


 突っ立ったまま泣き出した。


「俺たち、本当にマリイちゃんをさらったんだ!」


「賞金目当てに、ナイフで脅してさらったんだよお!」


「別人だって分かっても、やっかいだから殺しちまおうと……!」


「俺たち、本当に悪いヤツなんだあ……!」


 二人でオイオイ泣きわめく。


「兄弟よう、何で、そんなことしたんだ……!?」


「俺たち……、あっちこっちの店で働かせてくれって頼んだけど、みんな断られて――」


「持ってた金もなくなって、食うにも寝るにも困って――」


「言ってくれよー。

 みんなで助けるに決まってるだろ!」


「トノイ兄弟の名前は、変に有名になっちまったからな」


「トノイ兄弟を雇うと、炭坑の労働者と浮浪者が付いてくるって噂が広まっちまった」


 そう。トノイ兄弟は有名だった。

 グリーンがここを探し当てられたのも、目撃者に兄弟を知っている者がいたから。

 商店街でちょっと聞き込みしただけで、この倉庫までたどり着いた。


 泣く兄弟。

 つられて泣く浮浪者と炭鉱員。


 グリーンは頭が痛くなってきた。


「――マリイ、どうしたい?」


 この事態を、誘拐されたマリイ本人に押しつけた。


「俺はヤツらをぶった切りたい。

 が、その他大勢をよけていくのが面倒だ。

 おまえはどうしたい?」


「あたし?」


 むさ苦しい連中の視線が、マリイに集中する。

 マリイの言葉一つで、トノイ兄弟の運命が決まる。


「あたしは――」


 マリイは言った。


「謝って欲しい!

 この2人、あたしにさんざん失礼なことを言ったわ!

 色が黒いだの、品がないだの!」


「言ってないよう!

 そんなひどいこと、言ってない!」


「言ったわよ!

 似たようなこと、言ったわよ!

 こんなトコに連れてきて、おやつもご飯も食べさせないで、ひどいことばかり言った!」


「それは本当に悪かった!

 もう昼飯を買う金も無いんだ!

 俺たちだって一昨日から何も食べてなくて――」


 キャンキャンと、マリイが抱いている犬が吠えた。


「サリーちゃんだって、お腹がすいたわよね?」


「サリー?」


「この犬、サリーちゃんでしょ?

 あなたが落とした紙に、名前が書いてあったわよ?」


 マリイは拾ってあったその紙を、トノイ兄弟に返した。

 先ほど、ジムがマリイの手配書を捜した時に、ポケットから出したものだ。


「キャン!」


 雨に濡れて貧相だった小犬は、乾いた毛がふわふわの、高級なサリーちゃんに変わっていた。





 

「やれやれ。とんだ一日だった」


 自分の部屋に戻るなり、グリーンはベッドに倒れた。


「今日は本当にごめんなさい。

 もう二度と言いつけを破ったりしないわ」


「そうしてくれ……」


 ガミガミ叱る気力すら残っていない。

 あの後、グリーンはトノイ兄弟を連れて役所に出向き、


「彼らは家出した犬を探していて、犬を抱いていたマリイごと保護しただけだった」


 と、話をでっち上げた。


「『サリイ王女』と声をかけたのは、王女サマのように大事に飼われているサリーちゃんだから」


 とまで。

 役人はいぶかしがって、


「ナイフを突きつけていたと聞きましたが?」


 と兄弟を睨んだが、これも、


「サリーちゃんはお金持ちの犬だけあって、光り物が大好きなんだ。

 こいつらは光り物なんて持ってないから、代わりにナイフを光らせたんだとさ」


 とごまかした。


 トノイ兄弟は無事に指名手配を免れ、その足でサリーちゃんを送り届けに行き、飼い主から感謝された上に金貨3枚を手に入れた。


 ダンもジムも、


「もらえないよう……」


「あんたらにしたことを思うと、申し訳なくて……」


 と辞退したが、


「面倒くさいこと言わずにもらっとけ。

 これ以上のやりとりをする気はない。

 俺はもう、疲れた」

 

 とグリーンに凄まれ、怒らせないうちにさっさと受け取った。

 一部始終を見守っていた浮浪者や炭坑員から、口々に称賛の声が上がる。


「グリーンさん、口のうまさが天下一品!」


「見事な舌先三寸で役人を丸め込んだッス!」


「詐欺師みたいに、機転が利くねえ!」


 褒め方が気に食わず、グリーンはますます不機嫌になったのだ。



「――マリイ、明日の予報は晴れだ。

 朝一で谷に向かうぞ」


「ええ。あたしも早く寝るわ」


 マリイは「お休みなさい」と言って、自分の部屋に戻った。

 マリイだって疲れている。

 今日はさんざんな目に遭った。


 が、すぐには眠りにつけそうにない。


 マリイはベッドに腰を下ろすと、手芸かごから紙を一枚取り出した。

 それは、サリーちゃんの張り紙と一緒にジムのポケットから出てきた、色あせた手配書。


「生死を問わず……」


 マリイ王女と同じ条件が付けられたその尋ね人の賞金は、裏のマリイの、更に倍もの金額だった。

 届け先が役所ではないから、これも裏で出回っているものだろう。

 名前の明記はなく、『偽名を使っているものと思われる』と書かれている。


 金の髪、緑の瞳で背が高い。


 そこに描かれた者は、今より少しだけ幼さが残るグリーンだった。

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