トノイ、兄と弟
人間は三種類に分けられる。
トノイ兄弟の考えではそうだ。
まず、てっぺんにお金持ち。
たくさんの人を働かせ、自分はのんびりと安全な場所で贅沢なものを食べている。
次は労働者。
彼らは毎日あくせく働かなければならないが、寝る場所と食う物に困ることはない。
そして、一番下が自分たち仕事を失った元労働者だ。
寝る場所も食う物もなく、あるのは時間だけ。
そして、その時間でさえ、こう食えなくては目減りしていく。
老いてもいないのに、先行きが短く感じられ、不安でならない。
ダンとジムは嘆いた。
この炭坑の町、ウバクロに来たことがそもそも間違っていた。
炭坑員は高給取りだからと誘われて、14の時に王都からやってきたが、好景気はたった5年で終わってしまった。
不景気からくるリストラの嵐を二人は若さで乗り切っていたのだが、今年に入ってジムが騒動を起こし、兄弟そろってクビになった。
その後、知り合いの紹介でパン屋に勤めたが、ここではダンが騒動を起こし、またもや仲良くクビになった。
悪評が広がり、もう、どこにも雇ってもらえない。
「なあ、兄貴。
金持ちはいいよなあ。
自分は動かずに、人を動かして稼げるんだから」
「労働者だってうらやましいさ。
毎日仕事があって、ちゃんと金がもらえるんだから」
「働きたいなあ」
「そうだなー」
「のし上がりたいなあ」
「そうだなー」
二人は空を仰いでは、ため息をつく。
兄のダンが、先に我に返った。
「おい、ちゃんと前を見てないと見逃すぞ」
「なあ、今日はもう止めにしないか?
天気が悪くなってきたし、人っ子一人通らないよう?」
「お宝っていうのはな、そういう時をを狙って来るんだよ。
油断しないでちゃんと見てろ」
「早く来ないかなあ」
「ああ。早くのし上がりてぇな」
早くのし上がりたい。
これが兄弟の口癖だ。
人生をスゴロクに例えたら、トノイ兄弟はフリダシに戻ってばっかりだ。
「次は何としてでも『あがる』ぞ!」
――――1週間前の夜、買い出しから帰ってきたダンが突然言いだしたのだ。
「俺はやる!」
「は? どうした、兄貴?
ウマい話でもあった?
俺も乗るよ!」
話も聞かずにジムは賛同する。
「さっき裏通りを歩いてて、いいものを見つけたんだ」
ダンはポケットから数枚の紙を取り出し、さらにその中から四枚を選んでジムに見せた。
剥がしてきたばかりの手配書だ。
「なんと、賞金はサンリク金貨三枚。
一年は遊んで暮らせるし、事業だって興せる」
「こいつらをみつけて役人に引き渡すってこと?
みんな犯罪者なんだろ?
反対に殺られちまうよう!」
「見ろよ。
この『生死を問わず』ってのが鍵だ。
見つけたら即、殺す。
これで、犯罪者との乱闘は避けられる。
あとは死体を運んで、金をもらえばいい」
「人を殺して、死体を運ぶっ!!!」
ジムは震え上がった。
「おいおい、手配されてるのは凶悪な犯罪者だぞ。
罪悪感を抱いたり、怖がったりする必要はない。
こいつらを殺ることは、世のため人のためにこそなれ、犯罪にはならない」
「……そうだなあ。
相手が悪者なら、やっつけるのは正義だもんな……」
「なるだけ弱そうなヤツを捜してきた。
それが、この4枚」
ダンは得意げに一枚ずつ説明を始めた。
「これは女詐欺師。
これは女泥棒。
これは強盗殺人犯だけど、80を過ぎたじーさん」
そして、最期の1枚だけ、やたらともったいぶった。
「そんなにすごいヤツか?」
「ああ、大本命だ。
誰だと思う?」
「早く教えてよう!」
ジムはダンの期待に応えてワクワクしている。
ダンは満足げに最後の1枚を見せた。
「なんと、サンリク王女!
マリイ=サンリク、14歳!」
「マリイ王女!?」
王女の噂だったら、ジムの耳にも届いている。
「こうやって裏の手配書が回ってるってことは、本当なんだろうな。
父親に毒を盛って、国を転覆させようなんて、ひどい悪党だ。
死んで俺たちの役に立ってもらおう!」
「こ……、こんな小娘を殺すの?
まだ、14だよ!?」
「小娘の方が楽だろ、抵抗されてもたかが知れてるし、運ぶのにも軽くていい。
いいか、ジム。
明日から町中を歩き回って、こいつらを捜すぞ!」
「う――、うん……」
こうして、彼らは雨の日も風の日も、町を探し回ることになった。
サンリクからセツゲンに抜ける国境は、虹の谷の向こう側にある。
そして、ウバクロは虹の谷手前の最後の町。
これより先は険しい山道が続くから、ほとんどの旅人はこの町で一泊し、早朝から谷に向かう。
「まあ、カイソクに逃げる犯罪者もいるだろうが、サンリクとカイソクは同盟国だから、捕まったら最後、引き渡されてしまう。
逃げるなら、やっぱりセツゲンだろう」
旅費がなくてウバクロに留まるしかなかった兄弟は、むしろラッキーなのだ。
ここにきて、賞金首を捕らえる大チャンスに恵まれた。
「のし上がって、今度こそ『あがる』ぞ!」
今、彼らの手元には1枚増えて、5枚の手配書がある。
大通りで配られていたビラだ。
『サリーちゃんを捜してください。
白くてふわふわの小型犬です。
お礼は金貨3枚です』
「賞金首のついでに、犬も捜そう!
一石二鳥だよう!」
「犬っころに金を出すなんて、金持ちのやることは分からねえな」
金貨が3枚もあれば、この兄弟なら1ヶ月は食べていける。
「この犬、絶対俺たちよりウマいもん食い慣れてるぞ。
高い肉屋とか、高級な宿の残飯置き場を捜そう」
かくしてトノイ兄弟は、犯罪者を捜しつつ、サリーちゃんを探して町を歩き回ることとなった。
「マリイ王女ー、サリーちゃーん」
呼びかけながら、物陰やゴミ置き場を探す。
「いないなあ。
やっぱり、お犬様はこんな所にいないのかなあ」
「犬は犬だ。
名前を呼んでれば、そのうち出てくるだろ」
「マリイ王女、サリーちゃん、出ておいでー」
王女の名を呼んだって出て来やしないだろうが、なぜか2人は連呼しあって探していた。
そして、普段なら2人が近づきもしない高級な宿の前で、
「マリイ、かごを忘れてるぞ」
「あ、いっけない」
黒目黒髪、マリイと呼ばれる14歳くらいの女の子を見つけた。




